不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

築38年を超える中古マンションについて、暴風雨でサッシ等からの浸水被害が生じたことについて、瑕疵担保責任が認められるか?

【質問:不動産の売主から】
築38年の中古マンションを所有していましたが、これを3000万円で売却しました。
その後、買主から
「先日の大型台風の暴風雨により、サッシから水が入ってきたし、室内の壁紙にも雨水が浸透していた」
「売主は、これに対する瑕疵担保責任を負うべきだ」
との主張がありました。

私が住んでいたときは、このような浸水被害が起きたことはないのですが、ただ、築38年で経年劣化も相当ありますので、このようなことが生じることもしょうがないのではないかと思います。
私は瑕疵担保責任を負うことになるのでしょうか?

【説明】
本件の事例は、東京地方裁判所平成26年1月15日判決の事例をモチーフにしたものです。

売買の目的物に隠れた瑕疵(欠陥)がある場合、民法五七〇条により損害賠償請求や、場合によっては契約の解除が認められます。

そこで、本件のように、築38年のマンションについて、サッシや構造躯体からの雨漏りの発生が「隠れた瑕疵」といえるか、という点が問題となります。

ここで「隠れた瑕疵」とは

「売買の目的物に民法五七〇条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることを言う。」

とされています。

これを本件に当てはめて言えば

「売買目的物である本件物件について合意された品質と性能は,築38年の分譲マンションが通常有する程度のものであったということができ,本件契約に関する民法570条の「瑕疵」の該当性も,そのような品質性能を欠いているか否かという観点から判断すべきである。」

ということになります。
なお、売主が本件物件の建物躯体及び窓やドアのアルミサッシの品質性能について契約上特段の合意がされたとか,特段の品質性能を保証した場合には、それが契約の内容となりますが、この事例ではそのような特別な合意はありませんでした。

以上を前提として、東京地裁は、築38年のマンションが通常有する性能を欠いているかどうか、という観点から買主の主張する不具合(サッシや壁紙の雨漏り)が瑕疵に該当するかどうかを判断しましたが、この点について、東京地裁は以下のように述べて、買主が主張する不具合は、いずれも本件契約に関する民法570条所定の瑕疵に該当するとはいえない、と判断しています。

1 本件物件で壁紙に雨水が浸透する不具合は,建物躯体のひび割れが原因であるとは認められるものの,大規模修繕が行われていない限り,経年により建物躯体に雨漏りを生じるようなひび割れが生じることは一般にあり得ることと認められる(甲6)。しかし,本件物件のマンションの躯体のひび割れの程度が,築38年の分譲マンションとして通常有すべき品質性能に欠ける程度にまで至っているとの事実を認めるに足りる証拠はない。
2 本件物件の窓アルミサッシの空気孔は,強風時に自然に開いてしまう状態にあるとは認められるものの,これが,築38年の分譲マンションの窓アルミサッシの性能として通常有すべき品質性能に欠けると認めるべき証拠はない。
3 本件物件の窓アルミサッシは,激しい降雨時に,サッシ溝に溜まった雨水が室内に溢れる現象を生じる状態にあるものの,サッシ溝に雨水が溜まること自体は一般的な窓の構造に起因するものであり,また,溜まった雨水が室内に溢れるのは,本件物件のアルミサッシが築38年と旧いものであり水抜き穴等の機能が乏しいことが原因であると認められる。したがって,本件瑕疵3のうち,サッシ溝に雨水が溜まることはそもそも不具合には当たらず,また,その水が溢れる不具合も,築38年の分譲マンションの窓アルミサッシの性能として通常有すべき品質性能に欠けるとはいえない。

なお、本件では、買主は、仲介業者に対して説明義務違反であるとして損害賠償を主張していましたが、これに対して裁判所は

「上記のとおり本件瑕疵がいずれも築38年の分譲マンションとして通常有すべき品質性能に欠けるとまではいえないものである以上,原告の主張にいう重要な意義を有する情報には当たらず,したがって被告らがその説明義務や調査義務を負うともいえない。」

と述べて、その責任を否定しています。

築年数が相当経過した中古マンションの場合、どこまで経年劣化でどこからが「瑕疵」になるのか、その判断は難しい場合もあります。本件事例は、このような築年数が相当経過している建物についてどこから「瑕疵」と判断されるのかについて、参考となる事例です。
紛争を未然に防ぐには、築年数に応じた性能しか売主は責任を負わない、という点を買主と認識を共有することや、インスペクションの利用が有用と考えられます。


2018年8月3日更新

公開日:2018年08月03日 更新日:2020年06月21日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。