不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

賃借人が法人の場合に、株主構成や経営陣が大幅に入れ替わったことを理由に賃貸人は契約解除できるか?

【ビルオーナーからの質問】

私は所有するビルの店舗1室を、ラーメン・中華料理店を営む株式会社に貸していました。

この株式会社の代表者とは、賃貸借契約締結時に会いましたが、家族で経営する同族会社のようでした。

契約してから2年ほど経った後、賃借人の会社の全株式が、東証一部上場の大手飲食チェーンを営む株式会社に譲渡されていることが判明しました。店舗は以前と同じ状態で営業は続けていますが、法人の代表者や店長・従業員は全て変わっています。

契約書では、「賃借人の株式譲渡、役員変更等の重大な変更により、賃借人が契約当時と実質的に企業の同一性を欠くに至った場合、これを賃借権の譲渡とみなし、事前の承諾を要する」と規定していますが、賃借人の上記全株式の譲渡について当方は承諾をしていません。

賃借権の無断譲渡、契約違反として、契約解除はできますでしょうか。

 

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成18年5月15日判決の事例をモチーフにしたものです。

賃借人が株式会社などの法人である場合に、賃貸借契約期間中にM&A等によって賃借人の法人の資本構成(株主)や取締役等の経営陣ががらっと変わるということは生じ得ます。

このような場合に、

・法人の株主構成等が変わることが「賃借権の譲渡」にあたるか

・法人の株主構成等が変わったことが契約解除事由となるか

という点が問題となります。

まず、そもそも「法人の株主構成等が変わることが「賃借権の譲渡」にあたるか」という点については、

「賃借人である法人の構成員や機関等に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではない。」

ということを理由に、賃借権の譲渡には当たらない、とするのが裁判例の考え方です。

もっとも、例外的に、賃借人の資本構成が変わった後に法人格が形骸化して活動の実態が無くなり他の株式会社と同一視されるような状態に変わった場合には、賃借権の譲渡がされたものと同視されることがあります。

以上のように、賃借人たる法人の株主構成等の変化があったとしても、原則として賃借権の譲渡には該当しません

もっとも、本件では、契約書において「「賃借人の株式譲渡、役員変更等の重大な変更により、賃借人が契約当時と実質的に企業の同一性を欠くに至った場合、これを賃借権の譲渡とみなし、事前の承諾を要する」と規定されています。実務上も賃貸借契約においてはこのような条項が設定されることは多いです。

そうだとすると、株式の譲渡等により、企業の同一性が変わったにも拘わらず、賃貸人に承諾を求めなかったことは形式的には契約違反に該当するようにも思われます。

しかし、賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、形式的に契約違反に該当したからと言って解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなります。

したがって、この場合も「賃借人たる法人の株主構成等の変化が、賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊するような状態を作出しているかどうか」という点で解除の可否が判断されます。

賃借人の資本構成や役員変更が生じた場合、主に

・賃料の支払状況が変わったかどうか

・賃借目的物の使用状態が大きく変わったかどうか

・その他、契約締結が個人的な信用関係等に強く結びついていたか否か

等といった点から、信頼関係の破壊の有無が考慮されることとなります。

そして、この東京地裁の事例では、上記の要素を踏まえ、従前と状況が大きく変わっていないことを理由に賃貸人からの解除は否定されました。

判例の要旨は以下の通りです。

「建物賃貸借関係においては、賃料の支払いの下に建物の使用を認めるものであるから、賃料の支払いの確実性と建物使用の態様が重視されるべき要素となる」

「本件においては、賃料の支払状況に変動はなく、将来の賃料支払の確実性についても、前述のように新たな賃借人の株主が東証一部上場企業であることに照らせば、確実性が高まりこそすれ、低くなることは考え難い。」

「建物使用の態様についても、従前と同一の店名でラーメン・中華料理店を営業しているものと認められ、店長をはじめ従業員の大部分において交代が生じたとしても、もともと営業を目的として法人に店舗の賃貸をしている以上、従業員の交代等は借主の都合により当然に許容されるべきものであり、これをもって建物使用の態様に変更が生じたものと認めることもできず、他に使用形態自体に変更があることを認めるに足りる証拠はない。」

「経営実権に変動が生じた借主が本件建物を賃借することになったとしても、それは、賃借人の法人組織全体がM&Aを受けたことにより、結果的に生じたものにすぎない。」


この記事は、2020年5月9日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年05月09日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。