不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

売却する土地に隣接するビルに暴力団事務所が入居していた場合、媒介業者は調査義務を尽くして買主に説明する必要があるか?

Q 土地を購入して時間貸し駐車場として利用していました。

しかし、駐車場の利用を巡ってトラブルが発生することが多く、管理会社に確認したところ、隣のビルに暴力団関係の団体が入居して、その団体の関係者がトラブルを起こしていると聞きました。

もし、隣のビルにそんな事務所が入っていたなら、この土地を買うことはありませんでした。

仲介した業者に調査義務違反・説明義務違反を主張して損害賠償することはできないでしょうか。

 

自分が購入する土地の近隣に、問題のありそうな施設や事務所があったことを先に説明されていたら・・・購入を止めるとか、もしくは代金の減額交渉をしたりとか色々と考えるところでしょう。

そうなると、買主側としては、購入前に十分な検討をするために、仲介業者にはしっかりと物件だけではなくその周辺状況まで含めて調査して説明して欲しいと考えているところでしょう。

上記の事例は、東京地裁平成26年4月28日判決の事例をモチーフにしたものですが、この事例では、まさに売買の対象となっている物件の周辺の施設・物件について、仲介業者がどこまで調査・説明義務を負うのか、という点が問題となりました。

判決ポイントをまとめると以下のとおりです。

1⃣ 宅地建物取引業者が,ある事実が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し,かつ当該事実の有無を知った場合には,信義則上,その事実の有無について調査説明義務を負う場合がある。

2⃣ 宅建業者が、近隣ビルの使用者の事務所が暴力団事務所に類するものと認識していた場合は説明義務の対象となり、また、その存在をうかがわせる事情を認識していた場合には一定の調査義務対象となる重要事項に当たる。

3⃣ 施設の外観から嫌忌施設であることが容易に把握できる場合を除き,宅地建物取引業者が自ら売買対象物件の周辺における嫌忌施設の存在を調査すべき一般的な義務があるとは解されない

4⃣ 売主が仲介業者に対して、周辺物件の所有者や使用者について,反社会的勢力であるか否かの調査を行うよう要望したとの事実はうかがえない場合には、仲介業者は個々の所有者や使用者の属性について調査すべき義務があったとまでは解することができない。

買主側からすれば、調査・説明義務はしっかり尽くして欲しいところですが、判例の考えとしては、仲介業者に無理強いまで求めるものではなく、

・仲介業者が、問題施設(事務所)の存在を認識していたか

・外観などからその存在を容易に把握できるものだったか

という点から、調査・説明義務まで認めるべきかどうかを考慮していることになります。

確かに、周りの物件全てについて、外観上特に怪しくない物件まで含めて仲介業者が調査しなければならないというのは、仲介業者にとって過大な義務を課すものですので、この判例の判断は、買主側には酷かもしれませんが常識的と言えます。

なお、本件においては、売買対象の土地の隣のビルに「暴力団事務所」ではなく暴力団と関係がある団体(いわゆるフロント企業)が入居していたものです。

このように暴力団そのものではない団体が入居していた場合でも、嫌忌施設としてその存在が不動産の価値を減損させる暴力団事務所に類するもの、とされています。

そして、仲介業者がその存在を認識していた場合、またはその存在を窺わせる事情を認識していた場合には、調査・説明義務の対象となると判断されていますので、この点は仲介業者としても注意が必要です。


2016年7月7日更新

公開日:2016年07月07日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。