不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

シェアハウス事業のために賃貸した物件の立退料が問題となった裁判例

【賃貸物件オーナーからの相談】

私は、建物1棟をシェアハウス事業者(賃貸物件を借りてシェアハウス用に改築した上で、シェアハウスとして転貸する事業を行う会社)に、月額賃料44万円で賃貸しました。

賃借人会社は当該物件を改築してシェアハウスとして貸し出していたようですが、賃貸してから1年半が経過した頃、当該物件内で火事が発生しました。その際の消防署の調査により、建物をシェアハウスとして使用することにつき,建築基準法上の用途変更手続を怠っていたことが判明しました。

 

そこで、私は賃借人会社に対して、火災を発生させたこと、建築基準法関係規定上不適合の疑義がある旨の指摘を受けたことが賃貸借契約に反し、かつ信頼関係を破壊する行為であるとして、契約の解約に正当事由があると主張しました。また、立退料として、6か月分の家賃相当額を提示しました。

なお、私は、解約後にこの建物を建て替えて自宅として使用したいと考えています。

 

しかし、賃借人会社は解約を争ってきており、また立退料として3000万円を要求してきています。

私の解約の主張は認められるのでしょうか。また、立退料はどの程度必要になるのでしょうか。

【説明】

建物賃貸借契約を解約する場合の正当事由

本件は、東京地方裁判所令和3年8月18日判決の事例をモチーフとしたものです。

賃貸人が、建物の建替えの必要性等を理由として賃借人に対して立退きを求める場合はまず、賃貸人側から、賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があります。

この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)が、賃貸人から解約の申入れをしたからと言って当然に解約が認められるわけでありません。

賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じないとされています。

この「正当事由」があるかどうかは、借地借家法28条が

「建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

と規定している通り、賃貸人、賃借人それぞれの事情を比較して判断されます。

本事例においては、裁判所は、上記の事情のうち、賃貸人、賃借人それぞれが、当該建物を必要とする事情と立退料の額について検討をしたうえで、立退料として1500万円を支払うことで、解約の正当事由があると判断しました。以下、裁判例の内容を解説します。

賃貸人と賃借人双方の事情

まず、賃貸人側の事情として、この賃貸物件を建て替えて自宅にする必要があると主張されていたことについて、裁判所は、「一件記録によっても原告の計画を実現するために本件建物を自宅として利用することが必須であるとまでいえる事情は認められないから,原告の本件建物使用の必要性はそれほど高度のものとはいえない。」と述べています。

他方で、賃借人側の事情についても、

①「被告会社の本件建物利用は,シェアハウスとしての賃貸事業目的であり,また,被告会社はシェアハウス事業を全国で展開しているとのことからすると,被告会社の本件建物の使用の必要性は,投下資本の回収等,経済的合理性に基づくものである。」

②「これに加え,・・・被告会社は,本件賃貸借契約上,本件建物をシェアハウスとして利用するにあたって必要な官公庁への届出許可等を被告会社の責任で取得する義務があるところ,本件建物をシェアハウスとして利用し始めた後である,平成31年2月18日には大田区から不適合の指摘を受けており(甲3),被告会社には(解除事由に至らない程度の)債務不履行があるといえる上,被告会社は,令和2年9月3日には,大田区に対して是正に係る誓約書を提出しながら,結果として口頭弁論終結時点においても是正工事を行っていないこと」

の2点を考慮すると「正当理由の補完事由としての立退料の額によっては,原告による解約申入れにつき正当理由があるものということができる。」と述べました。

 

立退料はどのように決められたか

以上を踏まえて、裁判所は、立退料の金額について、以下のとおり、主に賃借人の投下資本の金額(改築にかかった費用)をベースにして1500万円が相当であると判断しました。

① 本件賃貸借契約が締結され,被告会社に本件建物が引き渡されたのが,平成29年5月11日頃であり,解約申入れの効力が発生する令和3年10月3日(令和3年4月2日から6か月を経過した日)までに4年4月が経過することになること

② 被告会社が本件建物をシェアハウスとして改装するのにかかった費用は被告会社によれば2000万円以上とのことであり,また,本件建物を法令に適合するように改装工事を行うとすればさらに相当額の費用が掛かること

等の事情を総合考慮すると,1500万円をもって相当であると認める。

事業用賃貸物件の立退料の算定方法はケースバイケースになることが多々ありますが、本件はシェアハウスとして使用されていた賃貸物件において、主に投下資本の金額をベースにして立退料を算定した事例として参考になります。


この記事は2024年1月28日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2024年01月28日 更新日:2024年01月28日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。