不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

20年以上前の自殺事件等があった土地の売買における、事件の告知・説明義務の範囲

Q 20年以上前に自殺事件等があった土地の売買の仲介をしています。

事件のあった建物は、事件後すぐに取り壊され、その敷地もその後転々譲渡され何度か所有者が変わっています。

このような土地を売買する場合、買主には事件があったことを告知しなければならないでしょうか。

A 告知すべきか否かを一概に判断することはできず、買主の目的(自宅建築目的か否か)、当該自殺事件の近隣への影響を総合考慮して判断する必要があります。

自然死とは違う、事故死などの不慮の事故が物件内において発生した場合、一般通常人は当該物件に対して不安感や不快感を抱くことは十分ありえます。

したがって、死亡事故が発生した物件は心理的瑕疵がある物件に該当すると言えますので、仲介業者は売買の際に説明をする義務が生じます。

もっとも、過去の事故・事件について、どこまで説明義務を負うべきか、という点については、法律上明確な基準はありません。

そうなると、仲介業者としては、何十年も前の事件についてまで、何代も前の所有者の事件についてまで説明しなければならないのか、いったいいつまで遡らなければならないのか、と判断に迷ってしまうと思います。

この点については、個々の具体的な裁判事例などを参考にしながら考えていくしかありません。

冒頭の事例は、高松高裁平成26年6月19日判決の事例をモチーフにしたものです。この件は、事故から過去20年以上経過し、土地所有者も転々としていたにも拘らず事件の説明義務が認められています。

その理由として、裁判所は、

本件建物内での自殺等から四半世紀近くが過ぎ、自殺のあった本件建物も自殺の約一年後に取り壊され、本件売買当時は更地となっていたとしても、マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにもかかわらずあえて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい以上、媒介業者が本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合には、これを買主に説明する義務を負うものというべきである。なお、この判断は、本件土地が活発に売買の対象となっており、売買価格に事件の影響が窺えなかったとしても左右されない。

と述べています。

すなわち、①自殺事件が社会的注目を集めた殺人事件と関連した事件として今も近隣住民の記憶に残されていること、②買主の購入目的がマイホームの建築であること、を重視して説明義務を認めているのです。

なお、この事例では、仲介業者が事件を知ったのが売買契約後、代金決済前と認定されています。

そこで、裁判所は、買主の損害については、

「代金決済や引渡手続を完了しない状態で、本件売買契約の効力に関し、売主と交渉等をすることが可能であったのに、説明義務が履行されなかったために、代金決済や引渡手続を完了した状態で売主との交渉等を余儀なくされたことによる損害にとどまるのであって、具体的には、このような状態に置かれざるを得なかったことに対する慰謝料であると考えるのが相当である。」

と述べて、仲介業者に対して慰謝料150万円(一人75万円)の支払義務を命じています。

この種の慰謝料としては決して小さくない金額です。

このようなリスクも考えると、説明義務の範囲は個別事案に即して検討する必要がありますので、判断に迷った場合には専門家と相談しながら慎重に行うべきでしょう。


2016年6月15日更新

公開日:2016年06月15日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。