不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

居住目的で購入したマンションが、以前に風俗特殊営業で使用されていたことは瑕疵にあたるか、瑕疵に当たるとした場合の損害額はいくらか?

【買主からの質問】

中古のマンションを2600万円で購入して引っ越しました。

しかし、引越し後に初めて参加した管理組合の総会で、私が購入した居室の前所有者の時の入居者が、表向きはマッサージ店と称して営業していながら店内で性的サービスを提供していたことが発覚して管理組合と訴訟沙汰にまでなっていた、という事実を聞かされとても驚きました。

 

売買契約の際には、売主や仲介業者からはそのような事実の説明は全く受けませんでした。

この話を聞いてから、私はマンションの中で肩身の狭い思いをするようになりましたし、妻はショックで心療内科に通うようになってしまいました。

 

売主や仲介業者がこの事実を説明しなかったことは許せません。

損害賠償することはできないのでしょうか。

【説明】

本事例は、福岡高等裁判所平成23年3月8日判決の事例をモチーフにしたものです。

この裁判例では、

・マンションが性風俗営業に使用されていたことは瑕疵に当たるか?

・瑕疵に当たる場合、損害額はいくらになるか?

という点が争点となりました。

まず、瑕疵に当たるか、という点について、裁判所は、瑕疵の定義を

「その目的物が建物である場合には、建物として通常有すべき設備を有しないなど物理的な欠陥があるときのほか、建物を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うべき事情があり、これがその建物の財産的価値(取引価格)を減少させるとき

は、瑕疵があるものと解すべきとした上で、マンションが前入居者によって性風俗特殊営業に使用されていたことについては、

「本件居室を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うというべき事情に当たる」

「そして、住居としてマンションの一室を購入する一般人のうちには、このような物件を好んで購入しようとはしない者が少なからず存在するものと考えられるから、本件居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、そのような事実がない場合に比して本件居室の売買代金を下落させる(財産的価値を減少させる)事情というべきである」

として、

マンションの居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、民法五七〇条にいう瑕疵に当たるというべきである。

と結論づけました。

次に、瑕疵の存在による損害額について、裁判所は、

「本件居室については、上記の瑕疵により、対価的不均衡(減価)が生じているものと考えられる。本件居室の代金が2600万円であること、一審原告夫婦が被った精神的苦痛に伴う住み心地の悪さを解消するために諸費用を費やしたこと」

「他方、本件居室については、一審被告Y1により内装工事が実施されて上記営業の痕跡は外見上ほとんど残っていないとみられることなどの諸事情を勘案」し

「民事訴訟法二四八条により、上記減価による損害を100万円と認めるのが相当である。」

と判断しました。

なお、不動産仲介業者は、売主から、性風俗営業のことで前入居者が管理組合と訴訟沙汰になったことは聞いていたにも拘らず、これを買主に説明しなかったことについて、説明義務違反があるとして、上記損害100万円について売主と連帯して責任を負うと判断されました。

マンションの居室が風俗営業で利用されていた、という事実は、いわゆる「客観的な瑕疵」ではなく「主観的な瑕疵」に分類されるものとなりますが、このような主観的瑕疵を認めた上で、さらに主観的瑕疵の損害額についても判断したという点で参考になる事例です。


この記事は、2019年12月2日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2019年12月02日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。