不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

ビルの管理・修繕の不備を理由に賃料の減額請求を認めた裁判例

賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対して、その賃料に見合った賃貸対象物件について使用収益させる義務を負っています。

そのため、民法606条により、賃貸人には、その賃貸物件の修繕義務が課せられています。

*民法606条

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

したがって、賃借人は、賃借している物件の設備等の故障により、その使用収益に支障が生じている場合には、賃貸人に対して修繕するように要求することができます(ただし、契約書により賃貸人の修繕義務が否定されている場合などの例外もあります。)。

しかし、賃借人から修繕を求めても、賃貸人が修繕に応じてくれず放置された、という場合が生じることもあります(理由は様々ですが、多いのは、建物がとても老朽化していて修理にかける費用が膨大だったり、費用が捻出できない、という場合が多いです。)。

賃貸人が修繕義務を怠っていて、賃借人として使用収益を妨げられるほどの状態となった場合には、賃料の減額請求が認められる場合があります。

これを認めたのが、東京地方裁判所平成9年1月31日判決の事例です。

この裁判例は、賃借人は飲食店の営業目的で賃貸ビルの店舗1室を借りたところ、賃借当初より、水道管からの漏水、冷房用配管の水滴に起因する漏水、地下水槽からの溢水、地下上下水槽の排水ポンプの不良、ビルの管理状況の不備があり、賃借人が再三にわたって補修等の要求をしても、その補修をしなかったため、賃借人自らが修理等の措置を取ってきたもの、たまりかねた賃借人が、賃料を二五パーセント減額すべき旨の請求をしたので、この減額請求が認められるかどうか、という点が裁判で争われることとなりました。

この点について、裁判所は、以下のように述べて、賃貸人の修繕義務の不履行を理由として賃料の25%の減額請求を認めました。

「鑑定の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件店舗の入口付近の漏水の原因は、①階段室よりの漏水(防水層の破断、壁面のひび割れ)、②一階店舗の給排水による漏水、③建物全体に降雨時に生じている結露水、④地下遊水室の溢水、⑤受水槽の溢水が単独又は複合することにより生じたものである。

(2) 本件店舗内の台所天井の漏水は、二階ルーフバルコニーの通気ダクトからの雨水であると判明した。店舗内の床については、遊水室の溢水及び水位上昇による床面の結露の可能性が高い。店舗内天井からの漏水については、給排水管等からの漏水の可能性が高い。

(3) 一階玄関付近の漏水は、漏水実験により、玄関庇の防水層の破損によることが確認された。なお、この漏水が一階床を経て地下エレベーター前の天井・床に流入した可能性も高く、また、エレベーターホールの結露を促進している可能性も高い。

(4) 地下一階便所の溢水、悪臭の原因は、地下汚水ピット内排水ポンプの故障又は停電により作動しなかったことによる汚水の溢水が考えられる。また、建物の遊水室に排水ポンプの能力以上の水が流入したことによる溢水の可能性もある。

(5) 本件ビルの管理は、建築後一五年以上を経過したビルが必要とする中長期的な視野に立ったメンテナンスを行ったとはいいがたく、管理上の不備が認められる。」

「本件店舗について、原告は、少なくとも昭和六三年五月以降、貸主に求められる管理、修繕の義務を尽くしたものとは認めがたく、これによる本件店舗の使用上の不都合は重大なものがあり、本件店舗は、本件賃貸借契約が想定した通常の賃貸店舗からみて、少なくともその効用の二五パーセントが失われていたものと認めるべきである。」

なお、なぜ25%の減額となったのかについての根拠は特に判断されておらず、単に賃借人から25%の減額請求がされたので、それをそのまま認めたものとなっています。

したがって、修繕義務の不履行により、どの程度の賃料減額認められるかというのはケースバイケースになります。


この記事は、2020年5月12日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年05月12日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。