不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

建物賃貸借において10年後を明渡期限とする期限付合意解約が有効とされた事例

【貸家オーナーからの質問】

私は、親から相続した一戸建ての貸家を所有しています。

人に貸していましたが、私の方で自分で住む家として使用したいと考え、借主に退去を求めたのですが、「子供が大きくなるまではここに住みたい」と言われました。

そこで、10年後を期限に建物を明け渡してもらうという内容で合意解約書を取り交わしました。

なお、賃料は、相場では13万円程度は取れる物件でしたが、10年後に明渡してもらうということも考慮し、据え置きの月5万円のままとすることにしました。

 

まもなく10年が経つのですが、借主は「あのような期限付き合意解約は借地借家法に反して無効だから、こちらは出ていく義務はない」等と言い出しています。

このような、借主の主張は認められるのでしょうか。

【説明】

まず、賃貸借契約において、貸主と借主の間で、今すぐではなく半年後とか1年後などの将来先の期限を決めてその時点で契約が終了(解約)するという合意(期限付合意解約)は認められるのでしょうか。

このような期限付合意解約の効力については、最高裁判所昭和31年10月9日判決が、

「従来存続している家屋賃貸借について一定の期限を設定し、その到来により賃貸借契約を解約するという期限付合意解約をすることは、他にこれを不当とする事情の認められない限り許されないものでなく、従って右期限を設定したからといって、直ちに借家法にいう借家人に不利益な条件を設定したものということはできない」

と述べて、その有効性を認めています。

もっとも、上記最高裁が「これを不当とする事情の認められない限り」と留保をつけている通り、必ず有効とされるわけではありません。

このような期限付解約をすることについての合理的な理由(貸主の自己使用の必要性など)と、借主にとって不当な不利益が生じないこと、という2つの観点を満たしていないと、裁判となった場合に無効と判断されるリスクがあります。

本件は、東京地方裁判所平成5年7月28日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例は、10年後というかなり先の期限に解約するという合意をしたことについて、「これを不当とする事情」がないかという点が問題となりました。

この点について、裁判所は、

・貸主は、自己使用の必要性から本件賃貸借契約の期間が満了するにあたって契約更新を拒絶したが、借主の事情を考慮して、賃料は従前のまま一か月金五万円に据え置いたまま10年後まで賃貸借を継続することを約したこと

・借主は、右期限の到来により本件建物の明渡しを約したが、本件賃料は、本件賃貸借契約の当初である昭和五一年一二月一七日から右期限付合意解約の期限到来に至るまでの間、改訂されることなく金五万円のまま据え置かれ比較的低廉な賃料のまま据え置かれていたこと

・本件賃貸借の合意解約に至るまで一〇年という期間があったにもかかわらず、この間、被告において明渡しを前提とした配慮等をした事情も何ら窺えないこと

等の事実を認めた上で、これが本件期限付解約合意を不当とする事情に該当すると認めることはできない(したがって有効)、と判断しました。

本件の「10年後を期限」とした合意解約は、かなり期限が先であり、一般的には有効性が認め難いと見られる期間設定ではありますが、家賃がかなり低廉で据え置かれたことや、貸主の自己使用の必要性が強く認められたという事情から、裁判所も有効と判断したと考えられます。

したがいまして、期限付合意解約をする場合において、例えば1年を超えるような先の期限を設定する場合には、そのような期限を設定する合理的理由が必要となることに留意して合意すべきです。


この記事は、2020年7月28日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年07月28日 更新日:2021年07月07日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。