不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

隣地建物が越境していることについて、買主側仲介業者が調査を怠ったことについて、注意義務違反が無いとされた事例

【仲介業者からの質問】

弊社は、土地の売買の仲介を行いました。

売買契約及び引渡し後に、買主から「隣地の建物が傾斜しており、4階から〜5階屋上部分の外階段が10数センチ越境していてこちらの土地にかかっている」

「そのせいで予定していた建物が建てられなくなり、工事が大幅に遅延した。予定していた賃料が入らなかった分の損害を賠償しろ」

と言われ、約7000万円の請求を受けています。

確かに隣地建物が傾斜していて越境していることは事実ですが、この土地は商業地で建物がかなり密接して建っている地域であり、目視で越境を確認することは困難でした。

また、土地の売主からは、物件状況報告書で越境はない、との回答を得ています。

買主は、「隣地建物の所有者にも確認すべきだった」などとも主張してきています。

我々仲介業者は、目視ではわからないような隣地建物の越境についてどこまで調査しなければならないのでしょうか。

【説明】

上記の事例は、東京地裁平成23年9月12日判決の事例をモチーフにしたものです。

仲介契約は、民法上は、準委任契約(民法656条)であり,仲介業者は,依頼者との関係で善管注意義務(同法644条)を負い,物件等につき,依頼の趣旨を踏まえて十分調査を行い,説明をしなければならない、とされています。

この事例では、隣地建物の越境について調査・説明をしなかったことについて、仲介業者の上記善管注意義務違反があるかどうかが争いとなりました。

この事例で、裁判所は、以下の理由により、仲介業者の注意義務違反を認めず、買主の損害賠償請求を否定しました。

その理由としては、以下の4点を挙げています。

1 本件売買契約当時,本件土地及び本件建物の売主は,本件隣地建物の傾斜や越境の事実を認識しておらず,これを仲介業者に説明していなかった

2 本件土地と本件隣地との境界には,境界杭が設けられておりその境界について争いがなかった

3 本件隣地建物の越境部分は,建物の4階から屋上部分にわたって取り付けられた外階段の一部であって,本件建物が存在していることもあり,目視では越境を見つけることが困難であった

4 当時,本件土地の売買にかかわっていた者たちの間で,隣接土地の越境について言及をした者はだれもいなかった

これらを理由として、裁判所は「通常の調査において,越境の事実を見つけることは困難であったものと認められる。」と結論づけました。

なお、買主側は、「本件隣地建物の越境について,本件隣地建物の所有者への聞き取り調査や振り子を使った下げ振り測定等必要な調査を尽くさなかったことを指摘して,善管注意義務違反である」旨の主張をしました。

これに対して、裁判所は、

「本件において,被告が,本件隣地建物の所有者への聞き取りを行っていれば,本件隣地建物の傾斜の事実は,判明した可能性はある。」

と言いつつも、

「土地の売買契約の仲介に際して,常に隣地の所有者等に対しての聞き取り調査を行う義務まで仲介業者にあるとはいえない」

等と述べて、やはり仲介業者の注意義務違反を否定しています。

この判例を踏まえれば、仲介業者としては、売主本人の自己申告や目視による調査で越境を疑うような事実がなければ、隣地建物所有者等にまで聞き取り調査を行うまでの注意義務はない、と解することができます。

仲介業者の調査・説明義務違反を巡る事例は多いですが、裁判例の傾向としては、仲介業者の義務を一律高度に設定するというわけではなく、仲介業者に不可能を強いることがないような結論に落ち着かせている傾向があると言えます。


2018年3月6日更新

公開日:2018年03月06日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。