不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

建物の賃貸借において、賃借人からの契約期間内の中途解約を禁止する特約は有効か?

【大家からの質問】

当社が所有するオフィスビルの一画を、事務室と倉庫としての使用目的でコンピューター機器販売会社に、契約期間2年間で賃貸しました。

2年間は中途解約できない、という特約を付けることを条件として、賃料を多少相場より減額して契約しました。

しかし、その後半年ほど経った頃、賃借人から「経営が苦しくなったので、退去したい」と言われ、当方から慰留したものの、一方的に退去されてしまいました。

契約期間はまだ1年半残っていますので、この分の賃料は請求したいのですが、可能でしょうか。

【説明】

民法618条は、

「当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。」

と規定しています。

なお、前条(617条)は、「当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。」との規定です。

すなわち、契約期間を定めた賃貸借契約であっても、中途解約が契約書で定められていれば、中途解約が可能であるということになります。

逆に言えば、中途解約が契約書で定められていなかった場合は、契約期間中の中途解約は認められない、ということとなります。

土地の賃貸借契約については、この点判断した最高裁判例があります。

最高裁判所昭和48年10月12日判決は、

「賃貸借における期間の定めは、当事者において解約権留保の特約をした場合には、その留保をした当事者の利益のためになされたものということができるが、そうでない場合には、賃貸人、賃借人双方の利益のためになされたものというべきであつて、期間の定めのある賃貸借については、解約権を留保していない当事者が期間内に一方的にした解約申入は無効であつて、賃貸借はそれによつて終了することはない。」

と述べ、契約期間中の解約は、中途解約を認める条項が契約書で規定されていない限りは認められないとしています。

建物の賃貸借契約については、最高裁判所の判断はありませんが、地裁判決で同趣旨の結論を述べる裁判例があります。

東京地方裁判所平成23年5月24日判決は、

「賃貸借契約において,借主に対し賃貸借期間内の解約を禁止する特約が付されている場合,借主は,約定又は法定の解除事由が生じているときを除き,賃貸借期間満了前に一方的に当該賃貸借契約を解除することはできず,貸主がこれに応じた場合に限り,解除できると解するのが相当である。」

と述べ、中途解約を禁止する特約が付されている賃貸借契約については、中途解約は不可と結論づけています。

したがって、本件の設例では、賃借人からの中途解約は認められないということとなります。

また、本件では、契約期間1年半を残して賃借人が退去したのですが、中途解約が認められない以上、仮に建物を占有使用していなかったとしても、残存期間の賃料の支払いはしなければならないということとなります。

もっとも、例えば契約期間満了前に、新たな借主が見つかり賃料等を得たり、当該物件の管理維持に要する費用の支出を免れたりしたようなときには、その分は差し引かれることとなります(前掲の東京地裁判決参照)。


この記事は2020年9月22日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年09月22日 更新日:2020年09月22日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。