賃貸の仲介における広告費名目の金銭について、貸主の借主側媒介業者に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認容した事例
入居者の募集が困難な物件や、早期に入居者を決めたいといった物件の場合、貸主から、客付けの媒介業者に対して、仲介手数料とは別に、広告費(AD)名目で賃料の1〜3ヶ月分程度の金銭が支払われるという商慣習があると言われています。
しかし、建物賃貸借の媒介に関して宅地建物取引業者が受けることのできる報酬額の上限は,消費税込み賃料1か月分と定められており,また,この媒介報酬以外には広告の料金を除いてはいかなる名目であっても報酬を受けることが禁止されています(宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)46条1項及び2項,平成16年2月18日国土交通省告示第100号(以下「報酬告示」という。))。
そして、例外として許容される広告の料金とは,「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」であり(報酬告示),「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」とは,委託者が至急に売却媒介等の目的を達する必要がある等の理由により特に媒介業者に依頼して掲載された広告をいい,媒介業者が依頼に係る売買・賃貸の申込みを誘因するため,自ら進んで行った広告を含まないと解されます。
したがって、このような「AD(広告費)」は、法的にはあくまでも不法な金銭の交付として返還請求を受ける可能性がある金銭であることに留意しなければなりません。
この広告費の返還請求が認められた裁判例として、東京地裁平成27年7月9日判決のケースがあります。
このケースは、主に、以下のような事案でした。
① 貸主は、自社所有の賃貸物件の入居者の募集を媒介業者に依頼したが、1年を経過しても借主が決まらなかった。
② 貸主は媒介業者と相談して条件を変え、「フリーレント2ヶ月分」、借主側業者に向けた条件として「礼金1ヶ月付けた場合AD100%」とした。
③ 借主側業者は、「フリーレント2ヶ月分」との条件を削除した広告を作成して借主を募集し、入居申込書を取得。
④ 借主側業者は、貸主側業者との交渉で「借り主はフリーレントを付けなくても良いから、フリーレント2ヶ月分と元から付いていたAD1ヶ月分の合計3ヶ月分の賃料を広告料名目で払ってほしい」、「これを支払うのが成約の条件だ」と要求し、貸主側業者と貸主はこれを承諾した。
⑤ 貸主は、成約後に広告料名目で賃料3ヶ月分を貸主側業者に支払い、貸主側業者はこれをそのまま借主側業者に渡した(借主側業者の要望により、貸主側業者を経由して支払いなされた)。
⑥ その後、貸主は、借主側業者に、広告料名目で支払った金銭の返還請求を行った。
このような事実経過に対して、裁判所は、以下のように述べて、貸主から借主側業者に対する広告費名目の金銭の全額の返還請求を認めました。
・事実を総合すれば,借主側業者は,長期間本件不動産の借主が決まっていないことを知った上で,当初から,貸主に,宅建業法の報酬規制に抵触しないよう貸主側業者を介して賃料3か月分の金銭を支払わせる意図で,借主にフリーレントなしで本件不動産を紹介し,借主が本件不動産の賃借を申し込むと,賃料3か月分の支払いが本件不動産の成約の条件であるように貸主に対しこれを伝え,貸主が拒めば成約に至らないと考えて受け入れると,借主に本来フリーレントがあったことを伝えないまま本件賃貸借契約を成約させ,当初意図したとおり,貸主から貸主側業者,貸主側業者から借主側業者に対し,賃料3か月分を支払わせたものと認められる
・借主側業者の貸主側業者に対する広告料支払の申入れは,貸主に対し本来支払う必要のない金員を請求し,負担させるものといえ,違法行為にあたる。
・そして,貸主には賃料3か月分の242万3736円という損害が生じており,かかる損害と借主側業者の違法行為との間には因果関係が認められる。
このような問題が起こる理由として、賃貸仲介における仲介手数料が低廉過ぎるのではないか、という問題提起もなされています。
しかし、仮に報酬を増やしたからと言って、この問題が解消されるわけではないという指摘もされているところであり、商慣習と法律の規制の乖離をどう埋めるべきか、非常に難しい問題です。
2017年2月14日更新