不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

近隣の住宅がペットの飼育で悪臭をまき散らしていること等について、差止めと損害賠償請求をすることは可能か

【賃貸物件オーナーからの質問】

私の自宅の隣地の居住者が、7年ほど前から複数の猫を家の中で飼っています。

しかし、飼育の状態がとても悪く、次第に猫の糞尿の処理もせずその悪臭が周囲に巻き散るようになりました。

また、度々猫が私の自宅の敷地にも入ってくるようになりましたが、隣人はそれも何も対策せず放置しています。

あまりに悪臭が酷くなってきたので、臭気測定士に悪臭測定を依頼したところ、私の家の敷地と隣人の敷地の境界上の臭気指数が15~17と測定されました。(なお、私の居住地域では臭気指数10を超えると悪臭防止法の規制対象になるようです。)

こういう状況なので、私や、他の近隣の方と協力して、隣人に対して面談を求めたり、内容証明郵便で苦情を申し立てたり、民事調停の申し立ても行いましたが、隣人からは手紙が届くものの、直接交渉に応じてくれることはありませんでした。

訴訟を起こして悪臭等の発生の差止めと損害賠償を求めるしかないと考えていますが、認められるでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成23年7月29日判決の事例をモチーフにしたものです。

まず、近隣住居が悪臭を発生させている場合に、法的にどのような根拠で何を求めることができるか、という点が問題となります。

この点について、裁判所は、

「発生している悪臭が受忍限度を超えている場合には,人格権に基づく差止めを求めることができ,その場合には当然不法行為に基づく損害賠償を求めることができる」

と述べています。

以上を前提とすると、差止めと損害賠償が認められるために「発生している悪臭が受忍限度を超えている」か否かはどのように判断すべきか、という点が重要となります。

この点については、裁判所は、

「悪臭が受忍限度を超えているか否かを検討するに当たっては,悪臭が公法上の基準を超えているか否かが重要な考慮要素になると解すべきであり,同基準を超える悪臭が発生している場合には特段の事情がない限り,同悪臭は受忍限度を超えていると認めるのが相当である。」

と述べています。

以上を前提として、本件の事例において裁判所は、臭気指数が法律上の規制基準を超えていることを理由に、受忍限度を超えた悪臭が発生していると判断しました。

「原告らの居住地域においては,事業活動により生じる悪臭については臭気指数10がその限度とされているところ,事業活動によって生じる悪臭と猫の糞尿による悪臭の受忍限度を別異に取り扱うべき理由は認められない。そうすると,本件では,原告X1宅の敷地と被告宅の敷地の境界線において,現時点においても上記基準を大幅に上回る臭気指数17ないしはそれに近い悪臭が発生していると認められるのであるから,原告X1宅の敷地と被告宅の敷地との境界において生じている悪臭が受忍限度を超えていることは明らかである。」

では、このような場合に損害賠償としてどの程度の金額が認められるのでしょうか。

原告は慰謝料として90万円を請求していましたが、裁判所は、慰謝料として24万円(悪臭の発生が証明されている平成22年5月ころから約1年間の分として)を認めるにとどまっています。

その他の損害として

・弁護士費用と臭気測定費用のうち、15万円

・原告の自宅の1階が賃貸物件であったところ、悪臭によって空室となっていることから、空室が継続している期間(8か月分)の家賃相当額108万円(家賃は月13万5000円)

も認められています。

その他、判決では、悪臭の発生について「被告は,原告X1に対して,別紙物件目録記載1の土地と同記載3の土地の境界線において,悪臭防止法2条2項で定める臭気指数10を超える悪臭を発生させてはならない。」との差止も命じています。

本件は、近隣住宅の悪臭に対する法的対応について参考になる事例です。


この記事は、2023年12月29日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2023年12月29日 更新日:2023年12月29日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。