不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

工事代金の紛争について「仲裁合意」が否定された事例

建設工事の契約においては、

「将来紛争が生じた場合には建設工事紛争審査会の仲裁に付する」

という合意がなされることがあります。

このような「仲裁合意」がなされた場合、紛争についての判断を仲裁判断に委ねるということになります。

したがって、民事訴訟を起こすことはできず、仲裁判断がなされた場合には、一定の例外を除き、確定判決と同一の効力を有し(仲裁法45条1項,2項)、当事者は仲裁判断に拘束され、これに対し、不服申立てをすることも許されなくなります

このように「仲裁合意」をすれば、その範囲において、当該合意をした当事者は、裁判を受ける機会を失うことになります。

したがって、その合意の効力については、慎重に検討する必要があります。

この「仲裁合意」が成立しているか否かについて争われたのが、東京高等裁判所平成25年7月10日判決の事例です。

この事例では、契約の約款において

「「あっせん又は調停」により紛争を解決する見込みがない場合に、「双方の合意に基づいて」審査会の仲裁に付し、その仲裁判断に服する」

と定められていました。

この「双方の合意に基づいて」という文言の解釈が問題となり、第一審は、

「双方の合意に基づいて仲裁判断に服することができることを注意的に規定したものとは解されず」

と判断し

「将来発生する紛争を,あっせん若しくは調停又は審査会の仲裁により解決する趣旨を明確にしたものと解される。」

と結論付けて、仲裁合意の成立を肯定しました。

これに対して、東京高等裁判所は、仲裁合意の成立の判断は慎重にすべきである、と前置きした上で、

「本件約款46条は,審査会の仲裁に付するためには,双方の合意に基づいてすると規定しており,本件約款の条項とは別に仲裁合意をすることを想定した規定となっている」。

「そうすると,本件約款の文言解釈からすると,本件約款を取り交わしたことのみでは,仲裁合意としては不十分で,審査会の仲裁に付する旨の別途の書面の合意が必要であると解するのが相当である。」

と判示し、仲裁合意の成立を否定しました。

私見では、第一審の解釈は、文言上少し無理があるように思いますので、東京高裁の判断は至極妥当と考えられます。

仲裁合意の成否の判断は慎重にすべきである、ということを示した点で、意義のある事例です。


2015年12月19日更新

公開日:2015年12月19日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。