不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

賃借人が破産し、破産管財人により賃貸借契約が解除された場合に、違約金条項の適用を認められるか?

建物の賃借人について、破産手続開始決定がなされた後、賃借人の破産管財人は、破産法53条により、賃貸借契約の解除をすることができます。

参考 破産法53条

1 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。

ここで問題となるのは、賃貸借契約書で、例えば賃借人側からの一方的都合による解約の場合などに発生する解約予告金(賃料の6ヶ月分等)や違約金が約定されている場合です。

なぜかというと、破産法53条による契約の解除は、基本的には賃借人側からの一方的な都合によってなされるものであるため、実質的に見れば解約予告金や違約金条項に該当すると解釈される余地もあるからです。

そのため、破産法53条により賃借人側より賃貸借契約が解除された場合に、これら違約金条項が適用されるか否かが問題となります。

この点については、破産法53条が、賃借人側(破産管財人)からの解除を認めた趣旨なども踏まえ、違約金条項の適用は認めないとする見解や裁判例も有力ですが、他方で、今回紹介する東京地方裁判所平成20年8月18日判決のように、違約金条項(保証金の没収)の適用を認めた事例もあり、ケースバイケースの判断となる争点です。

東京地方裁判所平成20年8月18日判決の事例は、期間を10年間,賃料月額2100万円、保証金2億円とする定期建物賃貸借契約において、

・保証金について賃借人が自己都合で賃貸借期間内に解約又は退去する場合は,保証金は違約金として全額返還されないものとする

・中途解約について原則として中途解約できず、賃借人のやむを得ない事由により中途解約する場合は,保証金は違約金として全額返還されないものとする

との条項(以下「違約金条項」という。)が規定されていました。

このような契約関係において、賃借人に破産手続開始決定がなされ、賃借人の破産管財人が破産法53条に基づいて契約の解除をしました。

これに対して、賃貸人側は、賃借人からの自己都合による解除だと主張して、違約金条項が適用され保証金は返還しないと主張したため、争いとなった事案です。

この事案において、裁判所は、以下のように述べて、破産法53条による解除についても違約金条項の適用を認めました。

判決において重視されたのは、

・10年間の定期建物賃貸借契約であり、中途解約ができない旨定められていたこと

・保証金は賃料の9ヶ月分に過ぎず、賃貸借契約を10年間継続し,賃貸人は賃料収入を得ることを期待していたことに照らせば,その金額が,違約金(損害賠償額の予約)として過大であるとはいえないこと

・破産法53条1項に基づく解除は,破産という賃借人(破産会社)側の事情によるものであるから,本件違約金条項にいう「賃借人の自己都合及び原因」,「賃借人のやむを得ない事由」により賃貸借期間中に契約が終了した場合に当たること

という点です。

上記のように、この事案は定期建物賃貸借契約の事案ですので、通常の賃貸借契約の場合にも同様の判断になるかどうかはなお解釈が分かれるものと考えられます。

判旨:東京地方裁判所平成20年8月18日判決(原告:賃借人)

(1) 本件違約金条項の趣旨及び有効性について

ア 本件賃貸借契約は,10年間の定期建物賃貸借契約であり,原則として中途解約ができない旨を定めているから(前記第2の2の前提事実(1)エ),賃貸人及び賃借人は,原則として10年間の契約期間満了まで賃貸借契約を継続し,賃貸人は賃料収入を得ることを,賃借人は本件建物を使用収益することができることを,それぞれ期待していたと解される。

他方,本件賃貸借契約においては,本件違約金条項のほか,「賃借人の債務不履行,破産申立等を理由に賃貸人が解除する場合」(15条2項)等,賃借人側の事情により期間中に契約が終了した場合には,「保証金は違約金として全額返還しない」旨が定められている(甲1)。

以上からして,本件違約金条項は,賃借人側の事情により期間中に契約が終了した場合に,新たな賃借人に賃貸するまでの損害等を賃借人が預託した保証金によって担保する趣旨で定められたものと解するのが相当である。

イ 賃貸借契約の締結に付随して,このような定めを合意することは原則として当事者の自由であり,破産会社も本件違約金条項の存在を前提として自由な意思に基づき本件賃貸借契約を締結している(弁論の全趣旨)。

そして,保証金2億円は,賃料の約9か月半分に相当するところ(前記第2の2の前提事実(1)ア),前記アのとおり,賃貸人及び賃借人は,本件賃貸借契約を10年間継続し,賃貸人は賃料収入を得ることを期待していたことに照らせば,その金額が,違約金(損害賠償額の予約)として過大であるとはいえない。

また,前記第2の2の前提事実(1)及び証拠(甲1,乙1)によれば,本件違約金条項を含む保証金を返還しない旨の約定は,賃借人の自己都合及びやむを得ない事由など,賃借人において生じた事情によって所定の期間内に契約を終了せざるを得ない場合について定められており,事由の如何を問わず賃借人に保証金が返還されないことを強いる趣旨とは解されないのであって,賃貸人側の事情による終了の場合の保証金に関する定めがないことをもって,直ちに,本件違約金条項が賃貸人に著しく有利であり,正義公平の理念に反し無効であるとはいえない。

さらに,前記のとおり本件違約金条項が当事者間の自由な意思に基づいて合意され,その内容に不合理な点がない以上,破産管財人においても,これに拘束されることはやむを得ないと解すべきであるから,本件違約金条項が破産法53条1項に基づく破産管財人の解除権を不当に制約し,違法無効であるとはいえない。

したがって,本件違約金条項は有効であり,これに反する原告の主張は理由がない。

(2) 本件違約金条項の適用の可否について

原告の破産法53条1項に基づく解除は,破産という賃借人(破産会社)側の事情によるものであるから,本件違約金条項にいう「賃借人の自己都合及び原因」,「賃借人のやむを得ない事由」により賃貸借期間中に契約が終了した場合に当たる。したがって,本件違約金条項は,破産法53条1項に基づく解除に適用される。これに反する原告の主張は理由がない。


この記事は2020年5月26日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年05月26日 更新日:2020年06月21日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。