不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

死亡事故が発生した賃貸物件の告知義務の範囲と損害賠償の可否

Q 貸していた物件の入居者が、ベランダから転落して死亡するという事故が発生してしまいました。不注意による事故のようです。

このような死亡事故が起きてしまったことは、次の賃借人を募集する際に告知する必要がありますか。

また、「次の入居者には賃料を減額して貸し出さなければならないかもしれない」、と管理業者から言われていますが、この減額を余儀なくされる賃料を連帯保証人に請求することは可能なのでしょうか。

ご自身がお持ちの賃貸物件で、死亡事故などの痛ましい事故が生じてしまった場合、物件のオーナーはその後の対処についてとても厳しい判断を迫られてしまいます。

「事故とは言え、やはり死亡者が出てしまった物件について新たに入居者を募集してもなかなか借り手が見つからないのではないか」

「入居募集の際に事故のことはできるだけ告げたくないが、告げなければ、後で問題になってしまうだろうか。」

「事故のあった部屋以外の募集の際にも事故のことは告げなければならないのか」

「家賃を減額しないと新たな借りては見つからないのだろうか。その損害は誰に請求できるのだろうか。」

など、色々とお悩みになると思います。

このようにオーナーとして悩みは尽きませんが、ここで法律的に誤った対応をしてしまうと、さらなる問題が勃発してしまいますので、慎重な対応が必要です。

そこで、このような場合にどのような対応が正しいのか、概略を説明します。

まず、死亡事故のことを入居の際には告げなければならないのか、という点です。

この場合、あくまでも「一般人として不安感や不快感を抱くであろう」事実については、入居の際に告げなければ、告知義務違反を問われてしまいます。

自然死とは違う、事故死などの不慮の事故が物件内において発生した場合、一般通常人は当該物件に対して不安感や不快感を抱くことは十分ありえます。

したがって、死亡事故が発生した物件は心理的瑕疵がある物件に該当すると言えます。

したがいまして入居者に対する告知義務は生じると考えます。

では、告知義務があるとして、最初の入れ替わりだけ告知すれば良いのか、それともその次も告知をしなければならないのか、という問題があります。

オーナーとしては、できれば告知したくないと考えるでしょう。

この点については、裁判例の考え方は、ずっと告知し続ける必要はない、という考え方が大勢です。

事件のあった貸室について、「次の賃借人には本件事件を告知 する義務はあるが、その次の賃借人には特段の事情がない限り告知する義務はない。」と判示する裁判例があります。

また、事故時から2年を経過すれば告知義務はないとする判例もあります。

もっとも、以上の裁判例は「人の入れ替わりの多い大都市・ワンルーム」の事案でありますので、物件の周辺状況において、入居者間の近所付き合い等が密接な地域であるなどの事情があれば、当該実情に合わせて事件の告知はより長く行う必要があります。

また、告知義務がある場合に、事故の部屋以外の他の部屋(たとえば、事故の部屋の隣や上下の部屋)が入れ替わる際も告知義務はあるのでしょうか。

この点については、事故のあった貸室以外については、告知義務はない、というのが実務的な考え方です。

告知義務がある場合、賃料の減額が必要と思われますが、減額した損害は誰に請求できるのでしょうか。

ベランダからの転落事故について、本人に故意又は過失が認められる場合には、「将来賃料の得べかりし利益の喪失相当額」を損害として遺族や連帯保証人請求することは法律上は可能です。

では、「将来賃料の得べかりし利益の喪失相当額」は具体的にはどの程度の金額となるのでしょうか。

この点は、裁判例によって様々ですが、一般的には事故後約2年間前後の賃料相当額が認められるケースが多いです(但し中間利息は控除されます)。

以上が事故が起きてしまった賃貸物件のオーナーとして最低限知っておくべき対応です。

実際に事故が起きてしまった場合、事故の内容や物件の周辺状況、ご遺族の方への対応などで個別の検討な事項が多々ありますので、弁護士や不動産管理業者等の専門家と相談しながら慎重に対応していくのが良いでしょう。


2016年3月23日更新

 

公開日:2016年03月23日 更新日:2020年06月20日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。