不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

周辺土地の再開発を理由とした借家の立退きについて、賃料約125か月分の立退料の提供により解約の正当事由が認められた事例

【デベロッパーからの質問】

当社は、新宿区内で約8000㎡の土地を有する地主との間で協定を結び、周辺の一体の土地の再開発を行い、地上38階建てのビルを建てるという計画を進めることとなりました。

地主の土地は、ほとんどが借地となっていましたが、借地の買収や等価交換などで順調に用地取得が進みました。

しかし、一区画だけ立退きに苦慮しています。

 

目白通りに面している約65㎡の借地があり、その借地には築30年が経過した鉄骨造四階建の賃貸ビルが建っていました。このビルは、一棟を一人の賃借人が借りていて、そこでオフィス家具販売業を営んでいます。

当社がこのビルを買収し、店子に対して立退交渉しました。

しかし、店子は

「このビルが建った時から30年間借りていて、ずっと営業している。」

「納得がいく立退料がもらえなければ立ち退かない」

等と言って容易には立退きに応じてくれません。

なお、このビルの賃料は月額33万5000円と周辺相場よりは安いです。

 

立退料としてどの程度の金額が必要になるのでしょうか。

【説明】

賃貸人が賃借人の立退きをするためには、契約を合意解約するか、契約期間満了時において解約申入れ及び更新拒絶をして、退去を求めるということとなります。

もっとも、この解約申入れ及び更新拒絶には「正当事由」が必要である、というのが借地借家法の規定です。

正当事由があるか否かは、「賃貸人及び賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及びその現況並びに賃貸人による立退料の支払の申出を考慮して判断すべきものである(借地借家法28条)。」とされています。

この判断について、どのような事情があれば正当事由が認められるか、ということは、ケースバイケースの判断になるため、具体的な裁判の事例を参考にして見通しを立てる必要があります。

そこで、今回は、周辺土地の再開発を理由とした立退きに関する一つの参考事例として東京地方裁判所平成9年9月29日判決の事例を紹介します。

この裁判例の事例は、冒頭の設例の事例とほぼ同じ事案です。

この事案では、賃借人側も退去自体を大きく争ったわけではなく、もっぱら立退料の金額を中心として争いとなりました。

この事案において、裁判所は以下の通り判示して、賃料の約125か月分の立退料の支払いと引き換えに、立退きを認めました。

1 賃借人は、本件建物において既に約三〇年間にわたり営業をしてきたが、本件建物の老朽化は相当進行しており、外壁モルタルの剥離や建物全体の倒壊というような不測の事態の発生も予想される状況となっていること

2 本件建物の敷地である本件土地の平成九年における更地価額は約六〇〇〇万円であること

3 賃借人の本件建物における年間売上げは約三六〇〇万円であること

4 本件建物の賃料は現在月額三三万五〇〇〇円と低廉であること

5 賃貸人は、本件解約申入れの正当事由を補完するための立退料として、二九〇〇万円又は裁判所が相当と認める金員の提供を申出ていること

→ その他本件に現れた諸般の事情を総合すると、本件解約申入れの正当事由を補完するための立退料としては、四二〇〇万円が相当である。なお、右認定の立退料の額は、原告が提供を申し出た額(二九〇〇万円)を上回るものであるが、原告は本件再開発計画を実現する強い意向を有していること及び弁論の全趣旨に照らせば、右の認定の金額は、原告の提示額と著しい差異を生じない範囲にあり、かつ、原告の意思にも反しないものと認められる。

以上の通り、裁判所はいくつかの理由を示して立退料の金額を算出しましたが、具体的な計算方法などが示されたわけではありません。もっとも、賃料の10年分以上が立退料として命じられている、という点において一つの参考事例となります。


この記事は、2020年4月8日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年04月08日 更新日:2022年03月10日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。