不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

収益物件の売買契約において、物件の賃貸借契約の状況に関して不正確な情報を提供した仲介業者に説明・告知義務違反が認められた事例

【収益物件買主からの相談】

私は、共同住宅兼事務所ビルを1億9000万円で購入しました。

このビルは、私が購入した後に転売した上で、借主となってサブリースをするという目的で購入したもので、この目的で購入することは仲介業者には伝えていました。

 

しかし、ビルの引渡しを受けた後、ビル管理会社の状況確認により、売買契約時に仲介業者を通じて売主側から交付を受けていた家賃管理表の月額の家賃の記載や、空き室の記載に誤りがあったことが発見されました。月額の賃料額は88万5000円とされていたのに対し、実際は月額75万円だったのです。

 

このため、私は仲介業者に対して説明・告知義務違反があるとして、賃料の差額分の損害賠償請求をしました。

 

これに対して、仲介業者は「売主から賃貸借契約書ないし賃貸借契約の詳細な情報を入手すべく努めたが,売主が非協力的であり,賃貸借契約書が作成されていない部屋も多かったため,売主から提出された資料に基づき,可能な範囲で報告している。だから,仲介業者としての調査,報告義務は尽くした」などと言って、賠償請求に応じません。

 

このような仲介業者の反論は認められるのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和2年2月18日判決の事例をモチーフにしたものです。

いわゆる収益物件(賃貸ビル)の売買において、物件の賃料額について仲介業者が実際の賃料額と異なる資料を渡し説明したことについて、仲介業者の説明・告知義務違反の有無が問題となりました。

仲介業者の説明義務違反行為として主張された行為とは

本件で問題とされた仲介業者の行為とは、、

「物件の月額賃料の実際の合計額は84万5000円にもかかわらず,仲介業者は,売主が作成したという家賃管理表につき,その裏付けとなる賃貸借契約書等の客観的資料を確認しないまま,上記家賃管理表の内容を鵜呑みにし,何らの留保を付けることなく,レントロールに月額賃料の合計額が89万円である旨記載し,買主に対しても,同様の説明しかしなかった」

というものでした。

裁判所は仲介業者の説明・告知義務違反を認定

この事案について、裁判所は

「仲介業者は,買主との間で,本件仲介契約を締結したのであるから,買主に対し,本件仲介契約に基づく善管注意義務として,不動産売買契約の締結に当たり,買主にとって重要な事項について,自ら調査し又は売主から資料等の提供を受けるなどして,正確な情報を説明,告知すべき義務を負うと解するのが相当である。」

「本件建物は,鉄筋コンクリート造陸屋根5階建ての共同住宅兼事務所であり,いわゆる賃貸用の物件であるから,その賃貸借契約の状況は,不動産売買契約の締結に当たり,買主である買主にとって重要な事項であると認められ,仲介業者は,買主に対し,その正確な情報を説明,告知すべき義務を負うと解するのが相当である。」

と述べた上で、本件の事実関係に照らせば

「仲介業者は,買主に対し,本件建物に係る賃貸借契約の状況について,正確な情報を説明,告知したとはいえない。

よって,仲介業者は,買主に対し,本件建物の賃貸借契約の状況に係る説明,告知義務違反により債務不履行責任を負う。」

と判断しました。

買主の損害額についてはどう判断したか

また、買主の損害額については

「仲介業者が説明していた賃料収入額と実際の賃料収入額との間には,本件建物の引渡し後(平成30年2月)から現在(本件訴訟の口頭弁論終結時である令和元年10月)までの間,合計マイナス143万5000円の差額が生じたのであるから,同額をもって,仲介業者の債務不履行による損害と認めるのが相当である。」

と判断しています。

仲介業者の反論は裁判所には認められず

仲介業者の言い分としては、買主側が契約を急いでいる一方で、売主側に資料等の提出を求めても協力が得られなかった中で、できる限りの説明を尽くしたので義務違反はない、というものでした。

しかし、仲介業者のこのような言い分に対して、裁判所は、以下のように述べて仲介業者の反論を認めませんでした。

「この点,確かに,仲介業者は,売主に対し,賃貸借契約書等の資料の提出を求めるなどしており,売主がこれに十分に対応しなかった面があることは否めないものの,そもそもの発端は,仲介業者において売主から十分な資料が提出されていないにもかかわらず,いわば見切り発車的に専属専任媒介契約を締結してしまったことにあるといわざるを得ない。その点を措いても,本件建物に係る賃貸借契約の状況につき,客観的な裏付け資料を確認することができていないのであれば,買主に対し,少なくともその旨を明確に説明すべきであった。

よって,売主が賃貸借契約書等の提出に応じなかったことをもって,仲介業者が買主に対する債務不履行責任を免れることはできない。」

不動産売買の仲介業者の説明義務違反を巡る紛争のうち、本件は、収益物件の売買における説明・告知義務違反を認めた事例として参考になる事例です。

仲介手数料の半額も買主の損害と認定

なお、この事例では、賃貸借契約の状況の他、本件建物1階が駐車場として建築確認等を受けていたものの、その後,外壁を設けるなどして店舗に改造されたため,本件建物1階の用途を駐車場から店舗等に変更することは容積率を超過することになるため許されない状況にあることを説明せず,また、本件建物の図面を交付しなかったことについても、仲介業者の説明・告知義務違反を認めています。

こういった仲介業者の説明・告知義務違反を認めた上で、最終的に支払済みの仲介手数料の半額311万0400円を損害と認めていますので、この点についても参考になる事例と言えるでしょう。


この記事は2022年3月3日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2022年03月03日 更新日:2023年10月18日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。