不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

建物オーナー(賃貸人)の手配したリフォーム工事において、リフォーム会社の不注意で階上から漏水したことについて、建物オーナーは賠償責任を負うか

【マンションオーナーからの質問】

当社が所有するマンションの10階の部屋が空いたので、リフォーム会社に依頼してリフォーム工事を施工することになりました。

そうしたところ、リフォーム工事中に、リフォーム会社の作業員が作業中に10階の部屋の配管を詰まらせて漏水を生じ、その結果、階下の9階の部屋に浸水してしまいました。

9階の部屋の賃借人(当社が賃貸人です)からは、

「建物オーナーが依頼した工事会社のミスで浸水したのだから、オーナーも責任を負うべきだ」

と主張され、損害保険金では賄いきれなかったとして慰謝料200万円などを請求されています。

リフォーム会社のミスで生じた損害についても、賃貸人である当社が責任を負わなければならないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成24年12月17日判決の事例をモチーフにしたものです。

本件で、浸水した居室の賃借人は、リフォーム会社に加えて、建物オーナーも併せて被告として損害賠償請求をしました。

リフォーム会社に対する損害賠償請求は問題なく認められていますが、本件では、リフォーム工事を依頼した建物オーナーと建物の管理会社の責任が認められるか、という点が主に問題となりました

賃借人側の建物オーナーに対する責任追及の理屈としては、

・建物オーナーの賃貸借契約に基づき貸室を使用させる債務の履行をリフォーム会社が補助する関係にある

・建物オーナーの履行補助者であるリフォーム会社の過失により、賃借人の居室が使用できなくなったのだから、すなわち、建物オーナーの賃貸借契約に基づく貸室を使用させる債務の不履行である

というものです。

この点について、裁判所は、建物オーナーの責任は否定しました。

その理由としては、以下の通り述べています。

「被告EUホーム(注:建物オーナー)は,原告X1(注:9階居室の賃借人)に対し,本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる義務を負い,原告X1が,本件事故により本件居室の使用を妨げられたことは認められるが,本件事故が被告EUホームの同契約に基づく債務の不履行であるとは認められない。

すなわち,被告EUホームが被告フロムワン(注:リフォーム会社)との間で本件請負契約を締結して,被告フロムワンが1004号室のリフォーム工事を行い,その際,同工事従事する者が本件事故を起こしたことは,前記のとおりであり,被告フロムワンは,本件請負契約に基づき上記工事を行っていたものであって,本件請負契約は,同社と被告EUホームの間に,被告EUホームの原告X1に対する本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる債務の履行を被告フロムワンが補助する関係があることを理由付けるものとはいえず,被告フロムワンによる上記工事に従事した者が本件事故を起こしたことをもって,被告EUホームの本件賃貸借契約に基づく債務の不履行があるということはできない。」

リフォーム会社の不手際についてまで建物オーナーが無条件で責任を負わされるというのは、建物オーナーにとって酷な場合が多いと言えますし、賃借人側の建物オーナーに対する責任追及の理屈も少し無理があるので、上記の裁判所の判断は、至極妥当な判断と言えます。

なお、本件では、リフォーム会社に対する損害賠償として、損害の実額の他、賃借人がこの漏水事故によって仕事の受注ができなくなったこと(仕事用の機材の故障により)、自律神経失調症、うつ病等で治療を余儀なくされたなどの事情が考慮され、賃借人とその同居人に対して、合計230万円の慰謝料が認められています。

この種の事案の慰謝料としては比較的高額にも思われますので、この点でも参考になる事例です。


この記事は2021年8月6日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2021年08月06日 更新日:2021年08月06日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。