売主が知っていた瑕疵について、瑕疵担保責任期間短縮特約の規定を主張することは許されないとした事例
Q 鉄筋コンクリート造3階建ての中古マンションを2億円で買いました。瑕疵担保責任については、引渡しから3ヶ月間と短縮する特約がついています。
この建物の301号室には売主が住んでいたものであり、物件の購入後は私が301号室に住み始めました。
しかし、住み始めてから2ヶ月ほど経った後に、301号室の洋室内で窓付近の天井に水漏れが存在するのを発見しました。売買契約の際には、301号室に水漏れは発生したことはない、と説明を受けていました。
どういうことかと思い、仲介業者を通じて売主に確認したところ、301号室にはかつて水漏れが存在したが補修済みであると言ってきました。
こちらで業者に依頼して調べたところ、雨漏りする箇所が発見されましたので、200万円以上かけて防水工事をしました。
この雨漏りは瑕疵担保責任に該当すると思いますので、売主に請求したところ、
「引渡しから3ヶ月経過しているので、瑕疵担保責任は負わない」
と言われました。
売主は、301号室の雨漏りを知っていたにも拘らず、瑕疵担保責任の期間短縮の特約を主張する、というのは不公平ではないでしょうか。
A 例え瑕疵担保責任について除斥期間(期間制限特約により引渡しから3か月)が経過していたとしても,瑕疵担保責任の除斥期間を短縮する期間制限特約により売主を免責することは,信義に著しくもとるものであり,悪意の売主につき瑕疵担保責任免責特約の効力を否定する民法572条の法意に照らし,許されないというべきです。
この事例は、東京地方裁判所平成28年1月27日判決の事例をモチーフにしたものです。
買主が売主に瑕疵担保責任を請求したのは、民法上の除斥期間1年間以内ではありましたが、契約上の期間(3ヶ月間)を過ぎた後のことでした。
そのため、訴訟では、売主側は、3ヶ月間の経過を主張して、瑕疵担保責任は追求できないと反論していました。
この点について、裁判所は、まず売主が、当該301号室に居住していたことから、以下のように述べて、雨漏り(瑕疵)の事実を知っていたにも拘らず、これを意図的に告げなかった、と認定しました。
「被告Y1が,本件建物の301号室にかつて水漏れがあったことを認識しながら,本件売買契約締結の際に原告に対して同室にそれまでに雨漏りが発生したことはないとして事実と異なる告知をしていたことなどに照らすと,被告Y1は,水漏れに関して殊更に隠そうとする意図を有していたと考えられ,同契約の時点において,同室に水漏れが存在することを認識していたと考えるのが合理的である。」
そして、裁判所は、瑕疵について知っていたにも拘らず告げなかったという点と重視して、
「被告Y1について,瑕疵担保責任の除斥期間を短縮する期間制限特約により免責することは,信義に著しくもとるものであり,悪意の売主につき瑕疵担保責任免責特約の効力を否定する民法572条の法意に照らし,許されないというべきである。」
と述べて、売主の瑕疵担保責任を認めました。
特に居住用の物件で売主が居住していた場合には、売主は瑕疵の存在を知っていたものと推定される可能性が高いといえます。
したがいまして、売主が仲介業者や買主に売却物件の状況を告知する際に、瑕疵の存在を知っていたにも拘らず告知しない場合には、例え瑕疵担保責任の期間を短縮しても責任を免れなくなる可能性がある、ということに注意すべきです。
2017年7月11日更新