不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

投資用マンションの売買において、実勢価格を調査せずに、これを大幅に上回る価格で購入させた不動産業者の営業担当者の不法行為責任が認められた事例

【投資用マンション購入者からの相談】

私は25歳で、学校教師をしています。

あるとき、兄から不動産投資を勧められ、兄から紹介された不動産業者と会ったところ、投資用ワンルームマンションの購入の執拗な勧誘を受けました。

私の勤続年数が少ないため中古物件を対象にした方がローンを組みやすいことや、中古物件を何年か保有して売却した上で新築物件に買い替える方法があること、現に入居者がおり、購入後はサブリース契約を締結して家賃保証をするので継続的で安定的な収入が得られるなどと説明され、執拗に勧誘されたので、断り切れずに中古のワンルームマンション3件を850万円、870万円、750万円でそれぞれ25年ローンで購入しました。

このときは、「持ち出しなく売ることができ、むしろ手元にお金が残ります。」などと投資のメリットを何度も説明されました。

 

しかし、その後、購入したマンションの調査をしたところ、各マンションはいずれも築年数が経過していて販売価格が実勢価格を大幅に上回っていたことが判明し、特にそのうちの一つのマンションには居住者もおらず、内部が著しく汚損及び破損した状態であることが判明しました。

 

これ以上値上がりも期待できなかったので売却しましたが、売却価格は、390万円、390万円、20万円と購入した価格を著しく下回る価格でしか売却できず、1500万円以上の損失を出してしまいました。

 

営業担当者の口車に乗せられてマンションを高値掴みさせられたことは許せません。

マンションの販売業者は破産してしまったので、営業担当者個人を訴えることはできないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和4年1月28日判決の事例をモチーフにしたものです。

投資用の不動産の売買の勧誘をするにあたっては、特に買主が素人の場合に、売主の不動産業者は、投資内容に関わる重要な情報とリスクについて、必要かつ相当な範囲で正確な情報を提供すべき信義則上の義務がある、と考えられています。

他方で、投資というのは自己責任という側面もあり、その物件によって儲かるか儲からないかということは多分に不確定要素を含むものでもあり、結果的に買主が損をしたからと言って、全て売主業者が責任を問われてしまうとなると不動産の取引が成り立たなくなってしまいます。

以上の観点を踏まえると、売主の不動産業者として、投資用の不動産の売買の勧誘をするにあたって、果たしてどこまでの情報を提供しなければならないか、ということが問題となってきます。

本件は、買主が購入したマンションの価格の合計額が2470万円であったことに対し、その後に売却できた価格が僅か800万円であり、その差が1670万円にも及んだ、ということから、売主業者において「各マンションの実勢価格を確認・調査して、説明する義務があったか」という点が問題となりました。

この点について、裁判所は、

・各マンションは実際の年間収支において利益が見込める内容ではなく、また、各マンションがいずれも平成元年築の中古マンションで値上がりが見込める要素はなかったことからすると一定の年数経過後にそれらを転売した場合に、返済期間25年のフルローンを組んで本件各マンションを購入した買主にとっては、売却益が得られる見通しがあったともいい難かったこと

・少なくとも、本件各マンションの客観的価値(実勢価格)が、被告らの提示した販売価格を一定程度下回っているようであれば、基本的には各マンションを何年か保有して売却することが想定していたという投資計画はほぼ成り立たないものであったこと

を踏まえると

各マンションの実勢価格がどの程度のものかについては、原告に対して不動産投資を勧誘するに当たり、極めて重要な情報であったというべきである。」

と判断しました。

その上で、各マンションの販売価格が実勢価格を相当程度上回るものだったことを踏まえ、裁判所は、

「各マンションの販売価格につき原告を欺罔したとまでは認められないが、被告らは、日常的に不動産取引を扱う本件会社の従業員として、本件会社が本件各マンションを購入する価格がいくらであるかや、近隣の取引事例を参照するなどして本件各マンションの実勢価格を確認・調査することは容易であったにもかかわらず、何らの確認をすることもなく、原告に対し、本件試算表による投資計画に基づいて本件各マンションの購入を勧誘したものであり、投資に関わる重要な情報についての説明義務違反があったというべきである。」

と述べて、説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うと判断しました。

また、本件では、売主である会社は破産していたため、当時勧誘をした会社の営業担当者が被告とされていましたが、営業担当者に対して、裁判所は、

 「なお、被告らは、本件会社の一従業員にすぎないことを主張するが、被告らは、本件会社の営業担当社員としての知識や経験はあり、被告らにとって本件各マンションの実勢価格の確認・調査は容易に成し得ることであったのであるから、上記認定判断を左右するものではない。」

と述べて、その責任を認めました。

もっとも、100%責任が認められたというわけではなく、

「被告らによる本件各マンションの購入の勧誘が違法なものであったとしても、原告においても、平成28年当時、教師の職に就いており、それなりの社会経験と判断能力を有していたものであり、それにもかかわらず、自らの自己資金には余裕がない状況で、投資の内容について十分に考慮することなく本件各マンション購入の判断をしてしまったことに一定程度の軽率な面があったことは否めず、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮して、4割の過失相殺をするのが相当である。」

と述べて、買主側の落ち度についても認定をしています。

冒頭で述べた通り、投資用物件の販売にあたっては、「投資内容に関わる重要な情報とリスクについて、必要かつ相当な範囲で正確な情報を提供すべき信義則上の義務がある」という規範は一般的な規範となっていますが、具体的に、売主業者が「物件の実勢価格を調査して説明する義務を負う」ということまでを認めたという点で参考になる事例です。


この記事は2024年6月12日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2024年06月12日 更新日:2024年06月12日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。