【ビルオーナーからの質問】

私は、都心に昭和43年築の6階建のビルを1棟所有しています。

1階部分を貸事務所として貸していたのですが、賃借人より「こちらで調査したところ、「震度5強程度の中規模の地震で,1ないし3階につき落階が起こる可能性が極めて高い状態、と言われた。安心して使用できないので、耐震工事をしてもらいたい。」

と言われました。

 

確かに、築年数が古いビルですが、外壁や内装は度々工事しており、これまで賃借人からクレームを言われたことはありませんでした。

 

そもそも、旧耐震基準の建物であるからと言って、賃借人からの要望に応じて耐震工事をしなければならないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成22年7月30日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例では、平成10年に賃貸借契約が締結され(賃料は月約300万円)、10年ほど賃貸借契約が続いていましたが、平成18年の姉歯事件で賃借人が建物に不安を覚えて第三者機関に耐震調査を依頼しました。

その結果、C1ランク(補強が必要である又は精密診断を勧める)であったため、賃貸人に対して補強を求めたもののこれを拒絶されたため、紛争になったという事案です。

この問題の中心的な争点は、

賃貸物件について、賃貸人に耐震改修をするという修繕義務があるか

でした。

この点について、賃借人は、主に以下の理由をあげて、賃貸人には耐震改修を行う義務があると主張しました。

①本件建物が多数の者が利用する事務所としての利用を前提としているところ,本件報告書に示された耐震性能では,本件建物を賃貸借の目的に沿って安全かつ安心して使用することは到底不可能であり,このような物件として通常備えているべき耐震性能が欠如している

②本件建物は,耐震改修促進法6条に規定する特定建築物であって,耐震診断及び耐震改修の努力義務が課せられている

③本件建物は高額の賃料で賃貸されている営業物件である

④本件建物は昭和43年築であり昭和46年の建築基準法改正に基づく耐震基準すら満たしていない物件である

上記のような賃借人側からの主張に対し、結論として、判所は、賃貸人の耐震改修の義務を否定しました。

その理由として、まず、賃貸人に課せられている修繕義務について、裁判所は、

・賃貸人は,目的物を賃借人に使用収益させる義務を負っており(民法601条),目的物が契約によって定まった目的に従って使用収益できなくなった場合には,これを修繕すべき義務を負う

・この修繕義務の内容は,契約の時点において契約内容に取り込まれた目的物の性状を基準として判断されるべきであり,仮に目的物に不完全な箇所があったとしてもそれが当初から予定されたものである場合は,それを完全なものにする修繕義務を賃貸人は負わないというべきである。

と述べ、賃貸借契約の締結当時の建物の性状(もしくは契約で合意された性状)を基準として、修繕義務は判断すべきと述べました。

上記基準を前提として、本件建物が昭和43年築の建物であったとしても、

・本件建物はその建築当時の建築基準法令に従って建築されているものというべきであり,かつ現時点において要求される建築基準法上の耐震性能を有している必要はなく(既存不適格建築物),さらに本件建物の建築年次は登記情報等により誰でも確認可能であって当該建物がどのような耐震基準を満たしているのかは借主側でも確認可能であったこと

本件契約締結時に本件建物の耐震性能が特に問題とされた事情はうかがえないことからすれば,本件契約では本件建物の耐震性能につきその建築当時に予定されていた耐震性能を有していることが内容となっている

と延べ、賃貸人に修繕義務は存在しないと結論づけました。

なお、その他の賃借人側からの主張についても

「また,本件契約継続中に本件建物の利用に当たって具体的な問題が生じているわけではないことからすれば,現実に本件建物の耐震性能が低いことや,本件建物が多数の者が利用する事務所としての利用を前提としていることをもって前記判断が直ちに左右されるものではない。なお,本件建物が高額な賃料で賃貸されているかについてはこれを認めるに足りる証拠はない。」

「さらに,耐震改修促進法6条は,特定建築物の所有者に対し,当該特定建築物について耐震診断を行い、必要に応じ耐震改修を行う努力義務を定めているにすぎず,改正宅建業法施行規則も修繕義務を直接に裏付けるものではないから,これらをもって修繕義務が認められるものでもない。」

と述べて、いずれも否定をしています。

この部分の判旨からすれば、裁判所が修繕義務を否定したのは、あくまでも「契約継続中に本件建物の利用に当たって具体的な問題が生じていなかった」ということを前提とした判断と見られますので、もし具体的な問題(地震による建物の損傷で賃借人の使用に支障が生じた等)が発生していた場合は別の判断になるものとも考えられます。

以上の裁判所の考え方をまとめますと、

・賃貸借契約締結当時に耐震性能が問題となったかどうか、または、賃貸物件が最新の耐震性能を満たしていることが契約の内容となっていたかどうかがまず問題となる。

→ 最新の耐震性能を満たすことが契約の内容となっていた場合は、それを満たすよう賃貸人は修繕をする必要がある。

→ 契約締結時に、耐震性能を特に問題としなかった場合は、その建物が建築当時に予定されていた耐震性能を有していれば良い。

・ただし、契約継続中に、賃貸物件の利用にあたって具体的な問題が生じた場合は、賃貸人においても対応が必要になる場合がある。

と言えるでしょう。

この裁判例では、賃貸人の耐震工事に関する修繕義務は原則として否定されていますが、他方で、万が一、強大な地震が発生して賃貸建物の崩落等が発生して賃借人に損害が発生した場合には、場合によっては、賃貸人にも責任追及が及ぶリスクがあります。

したがいまして、賃貸人としては、このリスクを意識しつつ、賃貸物件の耐震性能を意識した管理を検討する必要があると考えられます。


この記事は、2021年9月20日時点の情報に基づいて書かれています。

【マンションオーナーからの質問】

当社が所有するマンションの10階の部屋が空いたので、リフォーム会社に依頼してリフォーム工事を施工することになりました。

そうしたところ、リフォーム工事中に、リフォーム会社の作業員が作業中に10階の部屋の配管を詰まらせて漏水を生じ、その結果、階下の9階の部屋に浸水してしまいました。

9階の部屋の賃借人(当社が賃貸人です)からは、

「建物オーナーが依頼した工事会社のミスで浸水したのだから、オーナーも責任を負うべきだ」

と主張され、損害保険金では賄いきれなかったとして慰謝料200万円などを請求されています。

リフォーム会社のミスで生じた損害についても、賃貸人である当社が責任を負わなければならないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成24年12月17日判決の事例をモチーフにしたものです。

本件で、浸水した居室の賃借人は、リフォーム会社に加えて、建物オーナーも併せて被告として損害賠償請求をしました。

リフォーム会社に対する損害賠償請求は問題なく認められていますが、本件では、リフォーム工事を依頼した建物オーナーと建物の管理会社の責任が認められるか、という点が主に問題となりました

賃借人側の建物オーナーに対する責任追及の理屈としては、

・建物オーナーの賃貸借契約に基づき貸室を使用させる債務の履行をリフォーム会社が補助する関係にある

・建物オーナーの履行補助者であるリフォーム会社の過失により、賃借人の居室が使用できなくなったのだから、すなわち、建物オーナーの賃貸借契約に基づく貸室を使用させる債務の不履行である

というものです。

この点について、裁判所は、建物オーナーの責任は否定しました。

その理由としては、以下の通り述べています。

「被告EUホーム(注:建物オーナー)は,原告X1(注:9階居室の賃借人)に対し,本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる義務を負い,原告X1が,本件事故により本件居室の使用を妨げられたことは認められるが,本件事故が被告EUホームの同契約に基づく債務の不履行であるとは認められない。

すなわち,被告EUホームが被告フロムワン(注:リフォーム会社)との間で本件請負契約を締結して,被告フロムワンが1004号室のリフォーム工事を行い,その際,同工事従事する者が本件事故を起こしたことは,前記のとおりであり,被告フロムワンは,本件請負契約に基づき上記工事を行っていたものであって,本件請負契約は,同社と被告EUホームの間に,被告EUホームの原告X1に対する本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる債務の履行を被告フロムワンが補助する関係があることを理由付けるものとはいえず,被告フロムワンによる上記工事に従事した者が本件事故を起こしたことをもって,被告EUホームの本件賃貸借契約に基づく債務の不履行があるということはできない。」

リフォーム会社の不手際についてまで建物オーナーが無条件で責任を負わされるというのは、建物オーナーにとって酷な場合が多いと言えますし、賃借人側の建物オーナーに対する責任追及の理屈も少し無理があるので、上記の裁判所の判断は、至極妥当な判断と言えます。

なお、本件では、リフォーム会社に対する損害賠償として、損害の実額の他、賃借人がこの漏水事故によって仕事の受注ができなくなったこと(仕事用の機材の故障により)、自律神経失調症、うつ病等で治療を余儀なくされたなどの事情が考慮され、賃借人とその同居人に対して、合計230万円の慰謝料が認められています。

この種の事案の慰謝料としては比較的高額にも思われますので、この点でも参考になる事例です。


この記事は2021年8月6日時点の情報に基づいて書かれています。

国土交通省より、「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」案が公表されています。

報道発表資料:「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始します – 国土交通省 (mlit.go.jp)

パブリックコメントの募集期間も満了したので、まもなく正式なガイドラインとして発表される見通しですが、おそらく既に公表された案と大きく変わるところはないと思われますので、以下ガイドライン案のポイントを説明します。

今回のガイドライン案は、居住用不動産において人の死亡が発生したことについて、物件の売買・賃貸の際に、売主・貸主側の宅地建物取引業者が

・どのような死亡事故を告知すべきか

・どの程度の期間(いつまで)告知すべきか

ということについての指針を示しています。

以下、賃貸と売買の場合に分けてポイントを説明します。

1 賃貸物件の場合

(1)殺人、自殺、原因不明の事故による死亡の場合

殺人や自殺、原因不明の事故による死亡については、その発生時期・場所・死因について、原則として告知すべきものとされています。

事故を告知すべき期間については、事故の発生からおおむね3年間としています。

また、今回のガイドライン(案)では、居住用不動産の専有部分や室内で発生した事故を想定しており、隣地や建物前の道路など外部で発生した事故は対象外とされています。

ただし、専有部分や室内以外の場所であっても

「ベランダ等の専用使用が可能な部分」

「共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分」

で発生した事故については告知すべきものとされています。

このような例外的な場合を設定したのは、過去の裁判例において

①アパートの共用スペース(各居住者が居室を出入りする際に通る部分)での首吊り自殺

②オフィスビルの非常階段やバルコニーでの自殺

については、心理的瑕疵と判断されていることが影響していると考えられます(①について東京地裁平成26年5月13日判決、②について東京地裁平成27年11月26日判決)。

(2)自然死、家庭内事故による死亡の場合

ガイドライン案では、老衰、病死などの自然死は、原則として告知する必要はないとしています。

また、自宅の階段からの転落や入浴中の転倒事故、食中誤嚥などと言った、日常生活の中で生じた不慮の事故についても、このような事故が生じることは当然に予想されるものとして、告知義務の必要はないとされました。

ただし、このようなケースでも、発見が遅れたことにより遺体の腐乱が進んで腐敗臭や害虫が発生するなどして特殊清掃が必要になった場合には、事故物件として、上記(1)と同様におおむね3年間の告知義務を負うということになります。

2 売買物件の場合のガイドラインのポイント

売買物件の場合についても、告知義務が発生するのは、賃貸の場合と同様に、上記1(1)の殺人・自殺等に限られます。

しかし、賃貸の場合と異なり、売買に関しては告知すべき期間は、今回のガイドライン案では明示されていません。

「考え方を整理するうえで参照すべき判例や取引実務等が、現時点においては十分に蓄積されていない」というのがその理由です。

実際に、売買の場合の裁判例を見ても、告知すべき期間の判断はかなり幅があり(17年前の死亡事故について告知義務なしという裁判例もあれば、20年以上前の事故について告知義務あり、とする裁判例もあります)、弁護士としてもいつまで告知すべきかの判断の見通しを立てることがとてもむずかしい問題となっています。

したがいまして、売買の場合は、基本的には告知すべきとされている死亡事故については、長期間経過した事故であっても告知することが望ましいと言えるでしょう。


この記事は2021年7月23日時点の情報に基づいて書かれています。

【借主からの質問】

当社は、焼き菓子店舗を開くための物件を探していました。

渋谷に良い物件を見つけたので、ビルオーナーの仲介会社と賃貸借契約締結に向けて交渉を開始しました。

交渉の結果、ファサードデザイン(建物正面のデザイン)以外の賃料(月130万円)や敷金などの条件は概ね合意できたとのことで、ビルオーナーから賃料等の条件が記載された貸渡承諾書をもらいました。

 

その後、ファサードデザインについて協議を続けていたのですが、あるところで、ビルオーナー側から「この物件を月189万円で借りたいという人が他に出てきたので賃料を上げもらえないか」と言ってきました。

こちらは話が違うと断ったのですが、その後ビルオーナー側からは、「迷惑料として189万円を支払うからこの話はなかったことにしてほしい」と言われました。

 

当社としては、話を翻すようなビルオーナーは信用できないので、この物件は諦め、他を探すことにしました。

しかし、当社としては、契約成立の直前まで交渉が煮詰まっていたので、出店の準備で開業準備費用や人件費など支出していますので、これをビルオーナー側に請求したいのですが、可能でしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成26年9月16日判決をモチーフにした事例です。

この事案のように、契約締結までには至らなかったものの、契約成立直前まで話が煮詰まっていて、双方が契約締結後を見据えて準備を進めていたような場合、交渉を一方的に破棄した側が何らかの責任を負うべきではないかという争点があります。

この問題を法的には「契約締結上の過失」と言います。

交渉を破棄した側に「契約締結上の過失」が認められれば、不法行為として損害賠償責任を負うということになります。

交渉がどの程度まで進んでいれば、交渉を一方的に破棄したことについて「契約締結上の過失」が認められるかどうかは、「相手方に対し契約の成立が確実なものと期待するに至った状況」かどうかが一つの判断基準になります。

本件の事例では、裁判所は、以下のように述べて、ビルオーナー側の契約締結上の過失を認めています。

「本件物件の賃貸借について,原告と被告との間では,熱心に交渉が進められ,賃料額については合意に達した中,同月24日,被告は,原告に対し,ファサードデザインについては留保しているものの,それ以外の賃貸借の主要な条件について,具体的に記載し,その条件の下で本件物件を賃貸することを承諾する旨記載された本件貸渡承諾書を交付して」いる。

「本件貸渡承諾書の交付は,客観的に見ると,原告に,ファサードデザインについて譲歩すれば,本件物件について,賃貸借契約が成立するとの強い信頼(以下「本件信頼」という。)を発生させるものであり,被告は,信義則上,原告の本件信頼を保護する義務があるというべきである。」

「原告と被告との間で賃貸借契約が締結されなかった原因は,・・・被告が,原告に対し,突然,賃料を月額189万円に大幅に値上げをし,契約期間等も10年の定期建物賃貸借にするとの重大な条件変更の申入れをした上,原告がこの申入れを拒絶すると,原告に対し,本件物件を賃貸する義務はないと主張したことにあるというべきであり,本件物件について,原告と被告との間で賃貸借契約が成立しなかったことについて,被告に正当理由があるとは認められない。」

「したがって,被告は,正当な理由なく,原告の本件信頼を裏切っており,被告には,契約締結上の過失による不法行為が成立する。」

このように、本件では、ビルオーナー側に不法行為が成立するとされました。

そうなると、借主予定者側として、どの程度までの損害賠償が可能なのか、という点が次に問題となります。

この点については、裁判所は、

「契約締結上の過失による不法行為の場合に,損害賠償が認められる損害は,原則として契約の成立を信頼して支出した費用に限られるべきである」

と述べています。

したがいまして、いわゆる履行利益(契約が成立していれば得られたであろう利益)までは認められませんので、逸失利益(契約が成立していれば、その店舗で得られていたであろう収益等)までは認められないという考え方になります。

以上を前提として、裁判所は本件については

・交渉開始から交渉が破棄された間までの、本件物件での店舗開店に関する業務に従事していた者の人件費

・出店関係費(出店コンサルティング会社への費用の一部)

・本件物件で出店する直営の焼き菓子専門店舗で販売する焼き菓子を試作製造するための原材料の購入費用

が損害として認められています(合計金額143万1258円)

本件は、賃貸人が、賃料等の条件を記載した貸渡承諾書を交付していたことが、契約締結上の過失を認めた大きな要素になったものと思われます。

賃貸や売買の契約締結交渉において、「相手方に対し契約の成立が確実なものと期待するに至った状況」かどうかというのはかなりケースバイケースの判断になるところですが、契約書ではなかったとしても契約条件などを記載した書類が存在することは大きなポイントとなるでしょう。

したがいまして、こういった書類がある状況で契約交渉を途中で破棄することについてはリスクが有ることに留意しておく必要があるでしょう。


この記事は2021年7月18日時点の情報に基づいて書かれています。

【仲介業者からの質問】

当社は、土地を所有する会社様より売却のご依頼を受け、土地の売買の元付け業者として媒介契約を締結し、売却活動をしてきました。

買主が見つかり、無事に売買契約の締結となりました。

 

しかし、残代金の決済前に、土地の面積を巡って売主様と買主との間で行き違いが生じ、売主様が契約を解除してしまいました。

当社としては、契約が成立しましたので、売主様に仲介手数料を請求したのですが、売主様からは「媒介契約書には、「残金決済時」に支払いをする」という記載がある。今回は残金決済前に契約解除となったから仲介手数料は支払わない」と言われてしまいました。

 

当社の仲介手数料の請求は認められないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成21年1月16日判決の事例をモチーフにしたものです。

仲介業者が請求する仲介料請求権は,仲介にかかる売買契約が成立したことにより当然に発生する報酬請求権と解されています。

したがいまして、売買契約締結後に売買当事者に債務不履行等があり,結局売買契約が履行されずに終わったとしても報酬請求権は消滅しないと解されますので、仲介料請求権は請求ができる、という結論になります(判決でも同様の結論となっています)。

なお、媒介契約書や仲介手数料支払約定書には,仲介手数料の支払時期が「残金決済時」に支払いをする旨の記載がされていることが多いです。

この点についても、裁判所は、これは,通常,売買契約において定まった残金決済時を意味するものというべきであって,単に支払期限を定めたものに過ぎず、仲介手数料の請求権自体は、売買契約の成立によって発生するということに影響はない、と判断しています。

不動産の売買契約に関わる仲介業者の仲介手数料については、この他、契約成立後に手付解除された場合などにも問題となることが多いですが、この場合も、特に報酬の発生事由について特約を締結していない限りは、売買契約成立時に仲介手数料は発生すると解されています。

したがいまして、売買契約成立後に仲介手数料の支払を拒まれる場合、媒介契約の中で仲介手数料の発生時に関する特約が定められていないかどうかを検討することが肝要です。


この記事は、2021年5月20日時点の情報に基づいて書かれています。

【地主からの相談】

私は所有している土地を貸しているのですが、その借地人から「借地権と建物を5380万円で売買する予定なので、借地権の譲渡を承諾して欲しい」との申し入れがありました。

 

その後、私と借地人、借地権の買受予定者との間で「借地人から私に譲渡承諾料として550万円を支払うことを条件として、借地権譲渡を承諾する」という内容で合意し、私は、借地人から譲渡承諾料550万円の支払いを受けました。

 

しかし、それから間もなくして、買受予定者の債務不履行により、借地人と買受予定者との間で借地権の売買契約が解除されたという話を聞きました。

そのため、借地人からは「支払済の譲渡承諾料550万円を返還して欲しい」と言われています。

 

借地人は売買契約の解除に伴う違約金として1076万円を受け取っているようですので、私が譲渡承諾料を返すのは、借地人が二重に利益を受けるのではないかと思い、釈然としません。

私は、譲渡承諾料を返さなければならないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和元年11月27日判決の事例をモチーフにしたものです。

借地権の売買契約が解除されたとなれば、当然借地権の譲渡承諾料も返還されるのでは、と思われるところですが、本件の事例で、裁判所は、結論として、地主は借地人に対し支払済の譲渡承諾料を返還しなくても良い、と判断しました。

その理由としては、「借地権売買契約が解除となった場合について、地主と借地人との間で、支払済の承諾料について返還すべき、という取り決めをしなかったから」というのが主な理由となっています。

これを具体的に見ますと、裁判所は、以下のように述べています。

・本件借地権の譲渡の承諾や本件承諾料の支払に係る部分は,借地人と地主との間で合意されたものであること

・借地人としては,今後,地主に対して本件承諾料の支払をしたとしても,後に,買受予定者が借地人に対して売買代金の支払を怠るなどして本件売買契約が解除される可能性があることも想定することができ,そのような場合に支払済みの本件承諾料の返還を求めることができるものとするのであれば,あらかじめ地主との間でその旨を合意するなどの対応を採ることも可能であったこと

しかるに,借地人と地主との間の合意では,そのような場合の取扱いについての定めは特にもうけられていないこと,したがって,借地人と買受予定者も,本件売買契約が解除されたからといって,当然には本件承諾料の返還を求めることができないものと認識していたことがうかがえることが認められる。

・これらのことに照らせば,借地人と買受予定者との間の本件売買契約が解除されたからといって,直ちに,そのことが,借地人と地主との間の本件承諾料を支払う旨の合意の効力に消長を来すものではないというべきである。

なお、借地権の売買契約が白紙になったのに、譲渡承諾料を地主が保持し続けるのは公平ではない、ということも借地人は主張しましたが、この点については、借地人が売買契約解除の違約金として1076万円を受け取っていることを理由として、直ちに公平に反しない、と裁判所には判断されています。

この裁判事例を教訓にすると、借地権の譲渡をする場合は、借地人としては、地主への承諾料の支払いについて、その後の借地権譲渡契約の解除の場合も想定して地主と承諾料の支払・返還については合意してしっかりと取り決めをしておく必要があります。


この記事は、2021年5月5日時点の情報に基づいて書かれています。

【中古マンションの売主】

当社は、築約45年のマンションを購入し、フルリフォームして、1480万円で売却しました。

 

しかし、売却後まもなく、買主からは

「台所の流し台に洗い桶1杯分程度の水を流すと,残飯や汚水が逆流する排水不良が発生する。専門業者にその原因を調査させたところ,本件建物の排水管に詰まりが発生していることが判明した。これは瑕疵だから排水管の交換費用を賠償してもらいたい」

という連絡が来ました。

 

当社としては、これは経年劣化が理由であり、瑕疵担保責任は負わないと考えていますが、このような主張は認められるでしょうか。

【説明】

不動産の売買において、土地や建物に不具合や欠陥がある場合、民法五七〇条により損害賠償請求や、場合によっては契約の解除が認められます(これは、以前は「瑕疵担保責任」と言われていましたが、民法改正により、これは「契約不適合責任」と言われることとなりました。)。

本件は、東京地方裁判所平成28年4月22日判決の事案をモチーフにしたものですが、当時は改正前の民法が適用されるため、本件においては、築約45年のマンションについて、排水管における不具合が「隠れた瑕疵」といえるか、という点が問題となりました。

ここで旧法における「隠れた瑕疵」とは

「売買の目的物に民法五七〇条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることを言う。」

とされています。

これを本件に当てはめて言えば

「売買目的物である本件物件について合意された品質と性能は,築45年の分譲マンションが通常有する程度のものであったということができ,本件契約に関する民法570条の「瑕疵」の該当性も,そのような品質性能を欠いているか否かという観点から判断すべきである。」(東京地方裁判所平成26年1月15日判決参照)

ということとなります。

上記の前提を踏まえ、本件において裁判所は、

「本件建物の台所に存在する流し台に,一度に多量の水を流し入れると,一時的に水が滞留し,排水口から空気が噴出してくる場合もあることが認められるが,流水の状況は,若干時間を要するものの,短時間のうちに流れ切る程度のものであり,流し台の使用に関して,特段支障になるとは認め難いものである。」

「また,本件建物は,昭和43年12月に建築されたマンションの一室であり,本件売買契約当時,建築後44年以上が経過していたことが認められるところ,このような本件建物の客観的な状況などにかんがみると,設備等に関して,現在の新築物件に劣る部分があることは当然に想定されるほか,経年劣化により機能面において必ずしも十全とはいえない点が存在することも十分に想定されるから,前記のような流水の状況が存在することをもって,本件建物が,前記のとおりの築年を経過した中古マンションとして通常有すべき品質又は性能を欠くものであったとは認め難いといわざるを得ない。

と述べて、瑕疵担保責任を否定しました。

なお、本件では、売主は、売買の広告において

「新築同様にフルリフォーム完了!」と表示して本件建物を売りに出していたため、買主側はこの点を捉えて、

「本件建物に新築と同様の品質及び性能が備わっていることを保証していたとして,前記のような流水の状況が存在することが本件建物の瑕疵に当たることになる」

と主張しました。

しかし、この点についても、裁判所は、

「本件建物が建築から相当年数を経過した中古マンションであったことは本件売買契約の前提とされていたのであって,リフォームが行われたとしても,これが現在における新築物件と同様の品質及び性能を備えることはおよそ期待できる状況にはなかったと考えられるから,前記のような表示があったことによって,瑕疵の存否に関する前記の判断が左右されるものではない。」

と述べて、やはり売主の責任を否定しました。

本件のように、築年数が相当経過した中古物件の売買においては、不具合があっても、それが瑕疵(契約不適合)か、経年劣化かが問題となります。

築年数が相当経過した物件の売買では、トラブル防止の観点からは、当事者間において機能面が必ずしも十分に満たされていない可能性があることについて、可能な限り認識をすり合わせておく必要があること、また、インスペクションの利用も検討されるべきと考えられます。


この記事は、2021年4月11日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸アパートオーナーからの質問】

私は、相続で親からの遺言で賃貸アパート1棟(合計4部屋)を取得しました。

しかし、このアパートは既に築40年以上建っていて老朽化しており、改修するためには830万円が必要と言われています。また、アパートは借地上に建てたもので、借地契約の更新料650万円が未払いの状況でした。

 

また、私自身相続で、他の相続人に遺留分として約3300万円の支払をしなければならない状況で、相続税約100万円すら払えず、金銭的にとても困ってしまっていました。

そこで、借地権と併せてアパートを売却することとし、賃借人に対して立退を求めたのですが、4戸のうち、3戸は応じてくれたのですが、残り1戸については、賃借人が81歳で、引っ越せないと言われ立退きに応じてもらえません。

なお、立退料として月額賃料の2年分以上である170万円(月の賃料は7万5000円です)と引越し費用の支払を提示しています。

このような状況でも、立退きは認められないのでしょうか。

【説明】

賃貸人が建物の老朽化等を理由として賃借人に対して賃貸物件の明渡しを求めるというケースは多いです。

この場合、賃貸人側から、賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があり、この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)。

しかし、賃貸人から解約の申入れをしたからと言って当然に解約が認められるわけではなく、賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じません。

この「正当事由」があるかどうかは、借地借家法28条が

「建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

と規定している通り、賃貸人、賃借人それぞれの事情を比較考量して判断されます。

この中で最も重要なのは

建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情」です。

実務上は、賃貸人側からは建物の老朽化を理由とした建替えの必要性を正当な理由として主張する場合が多いですが、この理由のみで、賃借人の居住継続の必要性よりも上回ると判断されるケースは極めて少ないです。

本件は、東京地方裁判所平成26年5月14日判決の事例をモチーフにしたものですが、本件では、賃貸人側からは、建物老朽化に加え、賃貸人側の資金難を理由とした売却の必要性が主たる理由として主張されました。

この賃貸人側の必要性と、賃借人側の居住継続の必要性のどちらを重視すべきかが問題となったのが本件の事例です。

裁判所は、本件では、賃貸人側の資金難という事情を重視し、これに加えて立退き料の提供があることも重視して、以下のように述べて立退きを認めました。

「本件共同住宅(及びその借地権)を地主所有の本件借地と一括して売却する必要性が高かったというべきで,賃貸人において,地主と共にそのような計画を立て,本件賃貸借契約の更新を拒絶したこともやむを得なかったというべきである。」

「他方,賃借人における本件建物の使用の必要性は,住居とすることに尽きるもので,高齢で要介護2の状態にあり,外出時には電動カートの利用を要する状況にあるものの,本件建物それ自体は,そのような状況にある被告の居住に適したものとは必ずしも言い難いもので,賃貸人の好意によって事実上居住の便宜が図られていたにすぎないものもあり,むしろ,賃借人のいう条件を満たす転居先も存在すること,本件建物の居住期間などにも照らすと賃貸人が賃借人に対し一定の立退料を提供するのであれば,更新拒絶の正当性を補完するものと考えられる。

「そして,引越料その他の転居に要するものと見込まれる費用のほか,賃貸人が170万円の立退料の提供の申出をしていること,生活保護受給者である賃借人には一定の転居費用の支給も見込まれていること,その他本件に顕れた一切の事情を総合すると,170万円の立退料が提供されるならば,正当事由の補完として十分なものと考えられる。」

本件は、賃貸人の資金難を主たる理由とした賃貸物件の明渡に関する裁判例として参考になる事例と言えます。


この記事は、2021年4月3日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸人からの質問】

私は、世田谷区に2階建ての賃貸アパートを所有しています。

賃貸契約の際は、賃借人には保証会社を利用してもらっています。

 

この度、入居者の妻が室内で自殺するという痛ましい事件が起きてしまいました。

事件後に入居者は退去し、事件の3ヶ月後に新たな賃借人が入居しましたが、賃料は月額7万4000円だったのが、新賃借人には月4万3000円で貸さざるを得ないという状況でした。

 

自殺により賃料を減額せざるを得なかったということで、この損害を賃借人と保証会社に請求したいのですが、これは認められるでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成26年8月5日判決の事例をモチーフにしたものです。

賃貸物件において、賃借人またはその同居人が室内で自殺等に至ってしまった場合

① 自殺等について賃借人に責任があるか

② 責任があるとし、損害賠償額はどの程度認められるか

③ 保証人(保証会社)は上記損害賠償責任を負うか

という3点が主に問題となります。

まず、「① 自殺等について賃借人に責任があるか」という点については、

・建物の賃借人は,当該建物の使用収益に際し,善良なる管理者の注意をもってこれを保管する義務を負っていること

・賃借建物内で賃借人又はその他の居住者が自殺をした場合,当該建物を使用しようとする第三者がこれを知ったときには嫌悪感ないし嫌忌感を抱くことは否定できず,そのために新たな賃借人が一定期間現れず,また,現れたとしても本来設定し得たはずの賃料額よりも相当程度低額でなければ賃貸できなくなるであろうことが容易に推測できること

・したがって,建物の賃借人は,賃貸借契約上の義務として,少なくとも賃借人においてその生活状況を容易に認識し得る居住者が建物内で自殺をするような事態を生じないように配慮しなければならないというべきである。

という理屈により、賃借人は、自身または同居人の自殺等を生じさせた場合「賃借人としての善管注意義務違反」があるとして、これによって生じた賃貸人の損害について賠償すべき義務を負うというのが、裁判実務の考え方です。

 

次に、賃貸物件で自殺等の事故が生じた場合の損害賠償ですが、本件事例は、都市部のワンルームアパートという事例で、裁判所は以下のように、合計で賃料の2年分相当額(ただし、中間利息は控除)を賠償すべきと判断しました。

「本件居室の相当賃料額は本件賃貸借契約と同額の7万円と認められるところ,本件事故の告知の結果,通常,1年間は賃貸不能であり,その後の賃貸借契約について,一般的な契約期間である2年間は相当賃料額の2分の1の額を賃料として設定するものと考えるのが相当である。

なお,実際には,本件事故の3か月後に本件居室に新賃借人が入居しているが,上記のとおり,事故直後に本件居室に入居することには消極的となることが一般的というべきであるから,原告の逸失利益の額の算定に当たり,新たな賃借人の入居の事実を斟酌することは適当ではない。」

「中間利息を控除した上で,原告の逸失利益を算出すると,次のとおり163万1877円となる。

1年目 7万4000円×12か月×0.9523(ライプニッツ係数)=84万5642円

2年目 3万7000円×12か月×0.9070=40万2708円

3年目 3万7000円×12か月×0.8638=38万3527円」

ちなみに、この事例では、自殺事故の約3ヶ月後に新たな賃借人が入居していますが、この点については、裁判所は以下のように述べて、損害額の判断には影響しないとしています。

実際には,本件事故の3か月後に本件居室に新賃借人が入居しているが,上記のとおり,事故直後に本件居室に入居することには消極的となることが一般的というべきであるから,原告の逸失利益の額の算定に当たり,新たな賃借人の入居の事実を斟酌することは適当ではない。

また、賃貸人は、自殺があった部屋の隣室と階下の部屋についても今後の賃貸に影響があると主張しましたが、この点も裁判所は以下のように述べて否定しています。

「本件居室の隣室及び階下の居室の賃料について減額をしなければならないという損害が生じた旨主張する。

本件建物の規模や構造に鑑みれば,本件居室の隣室の居住者が,本件事故について何らかの感情を抱くことは否定できない。しかしながら,本件居室の賃借人である被告Y1は,本件居室の使用収益に当たって善管注意義務を負うにすぎず,当然に他の居室の賃料額の減額について責任を負うことにならない。また,原告が本件居室以外の居室を新たに賃貸する場合,宅地建物取引業者において,賃借希望者に対して本件事故のあったことを告知する義務があるとはいえないから,新たな賃借希望者が本件居室以外の居室について賃貸借契約を辞退するなど,賃貸借契約が困難を生じることにはならない。」

3点目として、このような事件の損害賠償について、保証人(保証会社)も責任を負うかという点について、裁判所は、以下のように保証契約の内容を踏まえて保証会社の責任は否定しています。

「本件保証契約について,保証期間を本件賃貸借契約の期間と同一のものとし,保証金額を本件賃貸借契約の期間内に被告Y1(注:賃借人)が原告に対して支払うべき賃料等の総額を上限とすること,被告Y1が本件賃貸借契約に基づき負担する債務のうち賃料等の未払金の支払を保証の対象とすること,賃借人である被告Y1の責めに帰すべき事由により生じた本件居室の滅失又は毀損に係る損害賠償金は補償の対象外とすることが認められる。」

「本件事故によって原告に生じた損害は,本件賃貸借契約に基づく被告Y1の賃料等債務とは異なり,同被告の責めに帰すべき事由によって生じた本件居室の心理的な毀損に係るものというべきであるから,被告保証会社が保証すべき本件保証契約の対象ではない。」

このように本事例では保証会社の責任は否定されましたが、この点は、保証契約の内容・定め方によっては、保証会社が賠償責任まで負担する余地もあると考えられます。

なお、賃貸人は、その他、慰謝料や弁護士費用も請求しましたが、これは裁判所に否定されています。

本事例は、賃貸物件で自殺等の事故が生じてしまった場合に生じる損害賠償の問題とこれにまつわる争点について網羅的に判断しており、実務的に参考になります。


この記事は、2021年3月22日時点の情報に基づいて書かれています。

【店舗の賃借人からの相談】

私の家は、先代から店舗兼居宅を借りて、同所で青果小売店をやってきました。

借りている期間は先代から合わせると50年ほどになります。

家賃は、今は月額2万6000円です。

 

しかし、最近になり、大家から「この建物は築57年が経過していて大地震で倒壊の可能性があるので退去して欲しい。」と言われました。

ここで長年店舗を営んできており、今更引っ越せと言われてもとても無理な話ですので、断ったところ裁判を起こされてしまいました。

 

弁護士からは、最悪立ち退かなければならないと言われていますが、その場合の立ち退き料はどのくらいもらえるものなのでしょうか。

【説明】

賃貸人が老朽化を理由として賃借人に対して賃貸物件の明渡しを求める場合、賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があります。

この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)。

しかし、賃貸人からの解約の申入れは、それをしただけでは当然に解約が認められるわけではなく、賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じません。

この「正当事由」があるかどうかは、借地借家法28条

「建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

と規定している通り、賃貸人、賃借人それぞれの事情を比較考量して判断されます。

実務上、本件のように、賃貸人側からは建物の老朽化を正当な理由として主張する場合はとても多いです。

しかし、建物の老朽化だけでは正当事由は認められず、妥当な金額の「立退料」の提供が必要とされるケースが非常に多いです

そのため、「立退料」の金額が具体的にどのように算出されるべきかが問題となります。

本件の事例は、東京地方裁判所平成25年4月16日判決をモチーフにした事例です。この事例で、裁判所は、建物の老朽化が相当進んでおり、解体の必要性が高いことは認めつつも、長年賃借物件で事情を営んできた賃借人の利益も考慮し、立退き料の支払いと引き換えに、賃借物件からの立退きを認めました

では、本件において裁判所は立退料をどのように算定したのでしょうか。

裁判所は、

①借家権価格

②営業補償

③引越費用

④住居補償

の4点をそれぞれ考慮して立退料を算定しました。

上記4点について、それぞれの具体的な算定方法と根拠については、以下判決を引用しますので、立退料算定の一つの方法として参考になります。

【東京地方裁判所平成25年4月16日判決(抜粋)】

ア 借家権価格について

借家権価格については,種々の算出方法があるところ,敷地の更地価格55万円/m2に建付減価・個別性評点を考慮して,本件建物の存する敷地価格を1億1553万5000円と評価した上で,割合方式によって本件店舗等に係る借家権価格を算定すると216万円となる旨の不動産鑑定評価がある(甲10)。もっとも,本件において,上記建付減価・個別性評点による修正を加える必要性・相当性については必ずしも明らかとはいえないことを考慮し,これらの修正をしないものとすると,本件建物の存する敷地価格は1億2814万4500円となり,当該価格に基づいて,本件店舗等に係る借家権価格を上記不動産鑑定評価と同様の割合方式によって算定すると240万円となり,当該額をもって相当なものと解される。

イ 営業補償について

(ア) 証拠(乙3から6まで)によれば,平成20年から平成23年までの間において,本件店舗等で営まれていた青果小売業に関しては,売上金額から原価を控除した金額(粗利益)は,年間250万円から350万円程度であったこと,そこから経費を差し引いた後の金額(営業利益)は,おおむね年間45万円から85万円程度(直近の平成23年度は約85万円である。)であったこと,他方で,上記期間における経費の中には,減価償却費(中途で事業を廃止した場合には,必ずしも当該支出を免れるとは限らない性質の経費である。)が年間45万円から60万円程度含まれていることが多かったこと等が認められる。

上記事情を総合すれば,被告らが本件店舗等における青果小売業を行えなくなる場合において補償されるべき得べかりし利益としては,1年につき120万円をもって相当であると解されるところである。

(イ) そして,本件においては,被告らの側には特段の落ち度もなく,本件店舗等からの退去を余儀なくされること,前述のとおり,被告らが代替の賃貸物件を見つけることが困難であり,営業自体の存続も危ぶまれると認められること等を考慮すれば,本件に係る営業補償としては,上記得べかりし利益の3年分をもって相当であると解されるところである。

ウ 引越費用

弁論の全趣旨によれば,被告らが,本件店舗等から退去するとした場合には,引越費用として,50万円程度の支出を要すると認められる。

エ 住居補償等

被告らは,本件店舗等を住居としても使用しているところ,① 転居に当たっては,入居時に,いわゆる礼金等の一時金の支出を余儀なくされると考えられること(公知の事実),② 本件賃貸借契約における賃料2万6000円は,近隣賃料等と照らしても低額であると考えられ(弁論の全趣旨),被告らが転居するに当たり,月額賃料の負担も増加することが見込まれること,③ 住居移転に関する種々の手続等に伴い,精神的負担を被ることになると解されること等の諸事情に照らせば,住居移転に伴う補償としては,70万円をもって相当であると解されるところである。

上記で認定した諸事情を総合すれば,本件賃貸借契約の解約に係る正当事由の補完のための立退料としては,720万円をもって相当であると解される。(借家権価格240万円+営業補償金360万円+引越費用50万円+住居補償等70万円)


この記事は2021年1月7日時点の情報に基づいて書かれています。