Q 父は、高齢で認知症であり、日常会話もできないくらい知的能力が衰えています。

父は、昔から店舗兼共同住宅のビルを1棟所有しており、店舗にはテナントが入居しています。契約期間が三年間ですが、一件のテナントが今年の7月に契約終了になります。ビルは老朽化していて、修繕の費用の工面も大変ですので資産の売却も検討しなければいけない状態です。そこで、テナントの契約は解除しようとしています。

父が認知症であることを考慮すると、契約終了させるに当たって何か注意しなければならないことはありますか?

A まず、お父様に成年後見人を選任した上で、テナントとの賃貸借契約解除の交渉をすることになります。

お父様が認知症であり、日常会話もできないくらいとのことですので、認知症の程度は相当重症と見受けられます。

認知症の程度が重い場合、契約の締結や、解除といった法律行為を行うことができません。

このような場合に、お父様を代理して契約などの法律行為ができるのは成年後見人のみとなります。

したがって、まず、家庭裁判所に成年後見人の選任を申立てて、お父様の成年後見人を立てる必要があります。

成年後見人にはお子様が就任することも可能ですが、お子様の財産状態に問題があったり、お父様の推定相続人にあたる他の親族の同意が得られなかった場合には、裁判所により弁護士等の専門家が選任されることになります。

成年後見人が選任された後で、成年後見人がテナントに対して契約の解除(更新の拒絶)の通知を行うこととなります。

しかし、この契約の解除(更新の拒絶)というものは、簡単には認められません。

多くの方は、

「契約期間が満了したから、契約も解除できる」

と考えがちですが、賃貸借契約に関して言えば、その理屈は通用せず、契約期間が満了しても、借主が契約の継続を望めば、基本的には契約が更新されると考えた方が良いでしょう。

したがって、仮に成年後見人より、テナントに対して契約の解除(更新の拒絶)の通知を行ったとしても、テナントが

「今後も契約を更新したい」

と主張してきた場合には、契約の解除は即認められません。

契約を解除するためには、契約を解除(更新を拒絶)するための「正当事由」というものの主張・立証をテナントに対して行い納得してもらうか、それでも納得しなかった場合には裁判を起して、裁判所に契約の解除(更新の拒絶)を認めてもらうことになります。

この「正当事由」とは、例えば、ビルが老朽化して取壊等が必要な状態であるとか、相当程度の立退料の提供がある、ということが該当します。

テナントの立退き料の場合、立退き料には営業補償などの名目の金員をテナント側から主張されることがあるため、相当高額になる傾向があります。

以上まとめますと

1 お父様の認知症が進行している場合には、まず成年後見人を選任する

2 契約の解除(更新の拒絶)は容易には認められないことを想定して、今後のビルの管理・処分を考える。

ということになります。


2015年11月30日更新

Q 私の父が持っていたアパートを相続しました。

200坪の土地に、2DKが4部屋の建物が建っています。

今は4部屋の内、1部屋だけ入居者がいますが家賃が遅れがちで、もう三ヶ月も溜まっています。

他の3部屋は募集をしていますが、なかなか契約が決まりません。

木造で21年も経過しているので、古いせいもあるかもしれません。

家賃が遅れている人への対応や、空室の悩みで悩んでいます。

いっそのこと、手放した方がいいでしょうか??

A せっかく遺産として相続した不動産ですから、まずは保有することを検討して、それが資金的な問題などで不可能な場合には売却を検討する、という順序で考えるのが良いでしょう。

保有が不可能で売却するとなった場合、このような不動産の場合、

①現状で売却、②満室にして売却、③家賃滞納者の立退完了後に更地にして売却

という3つの手段が考えられます。

以下、順番に検討していきましょう。

1 現状で売る場合

空室率が高いので、このままでは高値での売却が期待できません。

なお、売却する場合、家賃を滞納している入居者のことは買主への告知事項になるのではないかという問題があります。

買主がこういった賃貸物件を購入するには、家賃がしっかり入ってくるということが大きな動機になりますので、やはり家賃滞納者の存在については買主に重要事項説明で告知しなければなりません。

したがって現在遅れているということであれば、告知事項になります。

また、過去に度々遅れたことがある、ということも告知事項になります。

2 満室にして売る

上記の通り、現状で売る、となると相場よりも低い値段での売却も余儀なくされる可能性があります。

そこで、ある程度時間的、資金的な余裕が有るのであれば、売却するにしても、満室にしてから売るということも検討の余地があります。

管理会社に管理・募集等を委託している場合、そもそも管理会社がきちんと募集をしているのかということをチェックする必要があります。

その上で、適性家賃の設定やリフォームの必要性なども検討するなど入居者を呼び込む対策を検討しなければなりません。

もっとも、簡単に満室になるなら、売却しなくても良いかもしれませんが・・・

3 家賃滞納者を立退きした後で更地で売却

土地の形状や立地条件によっては、更地の状態で売却する方が高い収益を上げることができる可能性もあります。

そこで、建物を解体して更地にする必要がありますが、その前提として家賃滞納者を退去させる必要があります。

家賃滞納者へ立退きを求める場合、家賃の滞納が3ヶ月分以上に及んでいれば、裁判に持ち込んでもほぼ間違いなく退去が認められます。

もっとも、裁判を起こして、さらに強制的な追い出し(強制執行)まで行うとなると、弁護士費用や強制執行の費用も含めるとかなりの高額になってしまいます。

そこで、まずは内容証明郵便で解除通知を出して、滞納者が自発的に退去するよう促すところから進めます。内容証明郵便を出しても、滞納者が全然反応がないようであれば、弁護士名で内容証明郵便を出し、さらに訴訟提起、という流れで退去の手続を進めることになります。

また、このケースでは建物に対して土地が広くて有効活用できていない可能性が高いと考えられます。

そこで、土地を半分に分筆して売却するということも検討できます。

4 まとめ

いずれの手段を取るにしても

・家賃滞納者への対応

・空室の改善方法の検討

・投資効率の改善

同時並行して検討して行く必要があります。


2015年11月30日更新