建物の賃借人は、借りている建物内において火災を起こさないように建物を使用する義務があります。

これは、法的に言えば、建物の賃借人は、善良な管理者の注意をもって賃借目的物を保管しなければならない、という賃借人の保管義務から導かれる義務となります(民法400条)。

したがって、賃借人が建物内で火災を起こしてしまった場合は、賃借人が負うべき保管義務違反、すなわち契約違反に該当します。

もっとも、それだけでストレートに解除が認められるわけではなく、賃借人が火災を発生させたことを理由に貸主が契約解除を求めた場合であっても、「信頼関係破壊の法理」が適用されて解除が認められない場合もある、という点です。

すなわち、賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、形式的に契約違反に該当したからと言って解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなるわけです。

この点、賃借物件において火災を発生させた場合についての一つの判断基準として

「賃借人がその責に帰すべき失火によって賃借にかかる建物に火災を発生させ,これを焼損することは賃貸人に対する賃貸物保管義務の重大な違反行為にほかならない。したがって,過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等特段の事情のない限り,その責に帰すべき事由により火災を発生させたこと自体によって賃貸借契約の基礎をなす賃貸人と賃借人との間の信頼関係に破綻を生じさせるにいたるものというべきである。」(東京地裁平成26年10月20日判決)

と述べている裁判例があり、これは一つの基準として参考になります。

すなわち、この裁判例の考え方によれば、

①火災を発生させ、建物を焼損した場合、原則として信頼関係が破壊される

②ただし、火災を発生させたことについての過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等特段の事情がある場合は、例外的に信頼関係が破壊されたとは言えない

ということとなります

このように、賃借物件内で火災が発生した場合に解除まで認められるかは、ケースバイケースでの判断となるわけですが、火災を発生させたことによる契約解除が認められた事例として、東京地方裁判所平成26年10月20日判決の事例を以下紹介します。

この事例は、賃借人が1階の貸店舗内にて15年間にわたりラーメン店を営んでいたところ、階厨房内に設置された大型ガスコンロの炎の熱が内壁に張られたステンレス板を伝い,内壁内の木製の柱に伝導過熱して出火し、1階厨房内西側内壁の4㎡が焼損した、という事案です。

賃借人側は、

・ラーメン店のため、コンロの火を仕込みから終業時間までの約12時間以上毎日付けていたという状況で、15年間にわたり何も問題は無かったのであるから、ガスコンロの熱がステンレス版を伝って内壁に伝導加熱して出火するなど予測できなかった

・引火しやすいものの付近にガスコンロを漫然放置し引火・延焼したとか,従業員によるたばこの火の不始末とかがあったわけではない

などと主張して、信頼関係を破壊するような義務違反はない、として争いました。

しかし、裁判所は、賃借人が大きな火力を扱うラーメン店経営者であることを重視し、以下の理由により、賃借人の過失や焼損の程度がいずれも軽微ではないとして、信頼関係破壊による解除を認めました。

一つの事例の判断ではありますが、飲食店における火災発生事案の判断として参考になります。

【東京地方裁判所平成26年10月20日判決 判旨】

① 賃借人は,飲食店を経営する法人であり,しかも,ラーメン店や中華料理店は,飲食店の中でも大きな火力を使うのが一般的であるから,その営業に関して火災を発生させ他人の生命・身体・財産を侵害することのないよう最大限の注意を払うことが要求されるというべきであり,その注意義務の程度が一般家庭における火の始末と同程度のもので足りるとは到底解されない。

② そして,本件ラーメン店において,出火原因となった大型ガスコンロは,3器がステンレス板を張った壁にほぼ接着する形で設置されていたこと,営業時間中,3器のうちのどれか1つは常時点火されていたことは当事者間に争いがないところ,壁に張り付けたステンレスは,裏の木材に熱を伝導させること,木材を加熱すればある温度で自然発火することは,常識の範囲に属する知識であり,さらに,飲食店のように常時ガスコンロを使用する場合,ガスコンロに近い壁面が長時間かつ長期間加熱されることにより木材の炭化と熱の蓄積が進み,比較的低温でも発火しやすくなる可能性があることも,少なくとも飲食店経営者であれば認識しておくべき基本的な知識である。すなわち,本件火災は,大型ガスコンロの設置場所の悪さ(壁との近接性)とそれまでの使用による内壁への加熱が相まって,起こるべくして起こったものというべきであり,本件ラーメン店開業以来15年間火災が発生しなかったことをもって,本件火災が突如発生したものであるとか,偶々発生したものであると考えることはできない

③ したがって,賃借人は,大型ガスコンロと壁との間隔を十分取るか,それができない場合には,点火時間の短縮を図ったり,壁との間に防熱板を設置するなどして,伝導過熱が生じにくい環境を作らなければならなかったというべきであり,これを怠ったことにより生じた本件火災は,賃借人である賃借人の責めに帰すべき事由によって発生したものと認められ,その過失の程度も決して軽微なものとはいえない

④ また,本件火災における直接的な焼損は,内壁4m2と報告されているものの,伝導過熱による内壁からの出火という態様の性質上,消火活動は壁面を破壊して行うほかなく,これによる建物の損壊は「焼損」に含めて評価するのが相当であるから,その程度が極めて軽微なものということはできない

⑤ これらの事情に照らすと,本件火災については,過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等の特段の事情は認められないから,賃借人がその責に帰すべき事由により火災を発生させたこと自体によって,本件賃貸借契約の基礎をなす貸主との間の信頼関係に破綻を生じさせるに至ったというべきである。


この記事は、2022年9月3日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸マンションオーナーからの質問】

私は賃貸マンションを所有しているのですが、新たに住み始めた賃借人が、入居直後から、両隣の部屋の賃借人とトラブルを起こすなど面倒なことになってしまいました。

例えば、入居直後から「隣の部屋から発生する音がうるさいなど」と隣の入居者に文句を言うようになり、何回も、執拗に抗議を続け、夜中に、壁を叩くなどの騒音を出したり、廊下を通る際に、隣の部屋の入口の扉を強く足で蹴飛ばしたりしたこともありました。

マンションの管理人に対しても、「両隣りの部屋の音がうるさい、夜うるさくて仕方がない、何とかしてくれ」などと数回にわたり文句を言ってきました。さらに、仲介業者の担当者に対しても、「隣の住人が夜中にコツコツ壁を叩いたりしてうるさいので何とかしろ」などと要求し、その後も何回か同様の文句を言ってきていました。

こうしたことが、賃借人の入居直後から約10か月以上続いたのです。

 

隣の入居者は、この問題の賃借人が入居する3年前から入居していましたが、これまで特に問題もなく、事情をお聞きしましたが、保育園へ通う長男を夜九時すぎに寝かせ、朝、家族全員が起きて出掛けるという生活を送っていただけであり、夜中に騒音を発したことは全くなかったとのことでした。実際に、クレームを受けた後で管理人が、夜に騒音を何度か確認しに行きましたが、一切聞こえなかったという報告も受けました。

隣の入居者は、結局「小さい子供に何かあったら困る」と言って、この問題の賃借人の入居後10か月後には退去してしまいました。以後、この部屋は空室です。

 

もう一方の隣室の入居者に対しても、入居直後から「音がうるさい」などとして、大声で怒鳴ったり、夜中に壁を叩いたりしていました。この入居者も5年以上住んでいた方でこれまで問題はなかったのですが、この問題の賃借人の入居後、わずか3か月後に「隣がぶっそうなので出ます」と言って退去されました。

その後に隣室に入居した入居者に対しても同様のことが行われ、すぐに退去されてしまいました。

このため、この問題の賃借人の両隣の部屋は、この人の悪いうわさが広まってしまっているようで、新たな入居者も見つからず、今も空き室のままです。

 

このような問題ばかり起こす賃借人には退去してもらいたいのですが、可能でしょうか。

 

なお、賃貸借契約書の特約には、以下の規定がありますので、明らかに契約違反になると考えています。

特約

(1) 賃借人は騒音をたてたり風紀を乱すなど近隣の迷惑となる一切の行為をしてはならない。

(2) 賃借人が賃貸借契約の条項に違反したとき、あるいは、賃借人またはその同居人の行為が建物内の共同生活の秩序を乱すものと認められたときは、賃貸人は、何らの催告を要せずして、賃貸借契約を解除することができる。

【説明】

居住目的の賃貸マンションやアパートにおいては、各入居者が平穏に居住できる環境にあることが重要です。

したがって、一般的な賃貸借契約書においては、他の住民への迷惑行為を行わないとすることが賃借人の義務として規定されています。

また、仮に契約書に記載されていないとしても、「賃借人が賃貸借契約上負うべき付随的義務として、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務」を負っていると解釈されています。

したがいまして、もし賃借人が他の住民に対して迷惑行為を行ってトラブルを生じさせた場合には、賃借人としての債務不履行(契約違反)に該当することとなりますので、賃貸人としては契約違反を主張して契約を解除できれば退去してもらうことが可能ということとなります。

ここで問題となるのは、賃借人の迷惑行為を理由に貸主が契約解除を求めた場合であっても、「信頼関係破壊の法理」が適用されて解除が認められない場合もある、という点です。

すなわち、賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、形式的に契約違反に該当したからと言って解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなるわけです。

どの程度の迷惑行為であれば、契約解除事由となるのかということについては、明確な基準がないため、公表されている裁判例を調査して、その傾向を探っていくこととなります。

今回紹介するのは、両隣の賃借人と騒音を巡ってトラブルを複数回起こしていた賃借人に対して解除が認められた事例(東京地方裁判所平成10年5月12日判決)です。

本件の設例はこの裁判例の事案をモチーフにしたものですが、この事案では、裁判所は、まずは、迷惑行為が契約違反に該当するかという点については、

「隣室から発生する騒音は社会生活上の受忍限度を超える程度のものではなかったのであるから、共同住宅における日常生活上、通常発生する騒音としてこれを受容すべきであったにもかかわらず、これら住人に対し、何回も、執拗に、音がうるさいなどと文句を言い、壁を叩いたり大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続け、結局、これら住人をして、隣室からの退去を余儀なくさせるに至った」

として、騒音に対する賃借人のクレーム等の行動は正当な理由がないものと判断しました。

その上で、この賃借人の行為は、

「本件賃貸借契約の特約において、禁止事項とされている近隣の迷惑となる行為に該当し、また、解除事由とされている共同生活上の秩序を乱す行為に該当するものと認めることができる。」

と述べて、契約違反に該当すると認定しました。

そして、この迷惑行為が信頼関係を破壊する程度のものか否か、という点については、

「賃借人の右各行為によって、五〇六号室の両隣りの部屋が長期間にわたって空室状態となり、賃貸人が多額の損害を被っていることなど前記認定の事実関係によれば、賃借人らの右各行為は、本件賃貸借における信頼関係を破壊する行為に当たるというべきである。」

と述べて、契約解除を認めました。

なお、この賃借人は、このマンションに移ってくる前の物件でも、隣室や上階の入居者に対して音がうるさいなどと言ってトラブルを起こし、その物件の賃貸人から訴訟を起こされていた(結果は和解で退去)、というかなり曰くつきの賃借人であったことも判決で認定されています。

このため、この事案の賃借人はかなり特異な賃借人とも言えるのですが、迷惑行為が解除事由となる一つの基準として「その迷惑行為によって、複数の近隣入居者が退去してしまった」ということを示した裁判例として参考になります。


この記事は2022年8月2日時点の情報に基づいて書かれています。

民法606条は、賃貸人の建物の修繕義務について定めています。

【民法606条】

1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

賃貸人がこの修繕義務を果たすためには、賃借人の使用部分(居室など)への立ち入りが必要となる場合も多々ありうるため、民法606条2項において、賃借人は、賃貸人が保存行為を行う場合にはこれを拒否できないと定めています。

なお、606条2項は「保存に必要な行為」としていますが、これは「賃貸目的物を保存し維持するために必要な修繕行為」を当然に含むものと考えられます。

このように、建物の賃借人は,賃貸人が行おうとする賃貸建物の保存行為に対する受忍義務を負っていますので、建物保存のための調査や工事を当該賃借人の賃借部分で実施する必要があるときは、賃借人は、正当な理由なくして自己の賃借部分への立入り等を拒むことができないと言うことになります。

したがって、賃貸人が協力を要請する調査や工事が建物の保存に必要と認められるにもかかわらず、賃借人がこれを正当な理由なくして拒むときは,賃貸借契約上の債務不履行を構成すると解釈されます。

では、上記のように、賃貸人が建物の保存に必要な工事等の調査目的で賃借人の居室に立ち入りを求めたものの、賃借人が正当な理由も無く拒絶をした場合に、賃貸人は、債務不履行であると主張して賃借人との契約を解除することができるのでしょうか。

この点が問題となったのは、東京地方裁判所平成26年10月20日の事例です。

この事案は、ある賃借人の居室の天井から水漏れが生じたため、その原因の究明のために、賃貸人がその上階の賃借人の居室への立ち入りを求めたものの、あれこれ理由を付けて拒絶したため、賃貸人が契約の解除を主張して提訴したという事案です。

この事案において、裁判所は、まず、賃借人が立ち入りを拒絶した理由についてはいずれも合理的根拠がないとし、

漏水に関して本件居室の立入調査が実施できていないのは、賃借人が正当な理由なくこれを拒絶しているためであり,このことは,本件賃貸借契約上の債務不履行を構成する。」と認定した上で、それを解除事由とすることができるかは、「賃貸借契約の基礎をなす賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたと認められるかどうかの検討が必要

と述べました。

そして、信頼関係が破壊されたか否かについて、

賃貸人が賃借人に対して漏水の調査のための立ち入りを求めるにあたり、賃貸人としてなすべき努力を十分に尽くしていたにも拘わらず、賃借人側が、一度も調査に応じる意思を明示せず、また、立ち入りを認めるための条件として、漏水とは全く関係のない、居室の設備等の修繕等を求め、その完全実施を漏水調査への協力の条件とするかのような内容の回答をしたことをもって、この段階において信頼関係は破綻されるに至ったというべきである

と述べて、契約の解除を認めました。

この事案では、過去にこの漏水の調査以外でも賃借人側が賃貸人側に対して過度に神経質とも取れるような対応をして紛争を生じていたという事情も認定されていて、こういった事情も信頼関係破壊による解除を認めた一つの要因と考えられます。

この点において、本件は若干特殊な事例と言えなくもないのですが、いずれにしても、賃借人が不当に建物の維持・保存のために必要な修繕の調査や工事を拒むような対応を続けた場合には、契約の解除原因になり得るということを示した一つの事例として参考になります。


この記事は、2022年7月19日時点の情報を基に書かれています。

【建物借主からの相談】

私は、知り合いの不動産業者から、新宿区内の古いアパートを安く借りれるという話をもちかけられました。

二室で家賃が合計7万5000円と格安でしたので、副業で民泊をやろうと思い、この古アパート2室を借りることにしました。

契約書には、住居として使用するという目的が明記されていましたが、これに加えて「建物を転貸することを承諾する」という条項も入っていました。

このため、私はこの転貸の条項があれば、民泊も大丈夫だろうと考え、契約時に、アパートのオーナーには、私が民泊をするつもりであるということは伝えませんでした。

 

アパートを借りた後、民泊運営会社に委託して、このアパート2室を民泊に出していましたが、その後、利用者が間違って他の住人の部屋に入ろうとしたり、ゴミ出しのルールを守らなかったりというトラブルが度々起こってしまいました。

このため、他の住民や保健所からアパートオーナーに苦情や指導があったようで、私のところにアパートのオーナーから、「民泊に使用していたことは契約違反だから解除する」という通知がありました。

 

確かに契約時にはアパートオーナーには民泊をするということは、はっきりとは説明しませんでした。しかし、契約書には「転貸も可能」と書いてあったのですから、民泊に使用しても問題ないと思っていました。

私の主張は認められないのでしょうか。

賃借物件を民泊として使用する場合の問題

本件は、東京地方裁判所平成31年4月25日判決の事例をモチーフにしたものです。

本件では、契約時に、物件を民泊に利用するということは明示的に合意されておらず、また、使用目的は住居として使用すると規定されていましたが、「転貸を可能」とする特約が契約書に設定されていました。

民泊と言うのは、いわば又貸し(転貸)をするようなものですので、

「転貸可能特約が設定されていれば民泊の利用は契約違反とはならないのではないか。」

という点が主な問題となった事例です。

また、民泊の利用が契約違反になるとしても、賃貸借契約における契約の解除は「信頼関係破壊の法理」(契約違反の事実に加えて、その違反の事実によって貸主と借主との間の信頼関係が破壊されたと言えることが必要)が適用されるため、

「借主が賃借物件を民泊に使用していたことによって信頼関係が破壊されたと言えるか。」

という点も問題となりました。

住居目的の賃借物件を民泊で使用した場合、契約違反(用法順守義務違反)になる

まず、「転貸を可能」とする特約が契約書に設定されていたことから、この特約により民泊の利用が契約違反とはならないのではないか。」との点について、裁判所は、契約書において「住居としての使用」に限られているという点を重視し、転貸が可能という特約があったとしても、民泊での使用までは認める趣旨ではないと判断しました

「本件賃貸借契約には,転貸を可能とする内容の特約が付されているが,他方で,本件建物の使用目的は,原則として被告の住居としての使用に限られている。

これによれば,上記特約に従って本件建物を転貸した場合には,これを「被告の」住居としては使用し得ないことは文理上やむを得ないが,その場合であっても,本件賃貸借契約の文言上は,飽くまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていたものと認めるのが相当である。」

「特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と,1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは,使用者の意識等の面からみても,自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難いというべきであり」、「転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない。

民泊での使用による信頼関係の破壊の有無

また、「借主が賃借物件を民泊に使用していたことによって信頼関係が破壊されたと言えるか。」という点については、裁判所は、

「本件建物を民泊の用に供することが旅館業法に違反するかどうかは措くとしても,」「現に,aアパートの他の住民からは苦情の声が上がっており,ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていたのであり,民泊としての利用は,本件賃貸借契約との関係では,その使用目的に反し,賃貸人である原告被承継人との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ない。」

と述べて、信頼関係も破壊されたとして解除を認めました。

 

なお、この事案で、借主は、ゴミの問題については「民泊の利用者用のゴミ捨て場としてポリバケツを独自に設置するなどの手配をした」と主張して、なお信頼関係は破壊されていないなどとも反論しましたが、この点について裁判所は、

「民泊の利用者が出すゴミは,民泊という事業活動に伴って生じた産業廃棄物に当たるものとして,上記の処理方法は廃棄物の処理及び清掃に関する法律に違反するとされる余地があるから,被告において上記手配をしたことをもって信頼関係の破壊が生じておらず,又はこれが回復したと認めることはできない。」

と述べて反論を排斥しています。

住居としての使用目的が契約書で定められている賃借物件の民泊使用は、契約の解除原因となる可能性が高い

この裁判例の判断を踏まえると、住居での使用目的の物件を民泊として使用することは、たとえ転貸が可とされている物件であっても、用法順守義務違反に該当する可能性が高いということになります。

また、このような物件を民泊で使用すること自体、賃貸人として全く想定していない使用態様であり、オーナーや他の入居者ともトラブルになる可能性が高い使用態様である以上、貸主の承諾なく民泊に使用していた場合は、信頼関係を破壊するものとして解除原因となる可能性は高いと考えられます。

したがいまして、このような賃借物件を民泊として使用するのであれば、明示的に貸主の承諾を得て行うことが必須と言えるでしょう。


この記事は、2022年6月3日時点の情報に基づいて書かれています。

【貸主からの相談】

私は、築17年の3階建ての賃貸アパートを所有しています。

うちのアパートでは、ペットの飼育可としていて、特約で「猫1匹の飼育を認めるが,爪研ぎ,トイレを設置すること,他人の迷惑にならないよう気を付けること,内装を破損した場合修理費を負担することとする。」と定めています。

そうしたところ、今回12年以上住んでいた賃借人の一人が退去することになったのですが、退去時の室内を見たところ、猫の爪研ぎによる毀損や糞尿による床の腐食,汚損及び悪臭が多くみられる状況でした。

あまりに床がひどかったため、全面張替を行い、その費用を賃借人に請求しました。

しかし、賃借人からは

「12年以上住んでいたのであり、猫の飼育も認められていたのだから、これらの傷は通常損耗と言えるはずだ。」

「仮に特別損耗だとしても、築17年経っていて経年劣化で価値が下がっていたのだから、リフォーム代を全て負担するのはおかしい。」

と言われて、費用の支払いを拒まれています。

猫の飼育を許容していた以上、これはしょうがないのでしょうか。

【説明】

原状回復義務の基本的な考え方

賃貸物件における退去時の賃借人の原状回復義務については、

・契約期間中における本件居室の経年変化や通常の使用によって生じる損耗(通常損耗)については原状回復義務を負わない

・故意・過失,善管注意義務違反,その他通常の使用を超えるような使用による損耗(特別損耗)について原状回復義務を負う

という考え方が一般的となっています。

その根拠としては、経年変化や通常損耗についての修繕費等の回収は,賃料の中に含ませて行っているのが通常と解される点にあります(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決)。

ペットの飼育に伴う損耗は通常損耗か、特別損耗か?

ペットを室内で飼育する場合、ペットによるひっかき傷や臭い、汚物によるシミ等によって、室内の劣化が通常に比べて進みやすいと言えます。

ペットの飼育が許容されている賃貸物件の場合に、このようなペットの飼育によって特に発生した損耗について、通常損耗となるのか、それとも特別損耗となるのかが問題となります。

この点について、裁判例における基本的な考え方としては、

・賃料が、ペットを飼うことを許容したことで通常より高額に設定されていた場合は、通常損耗

・そうでない場合、ペットを飼育していたために通常生ずる傷や汚損を超えて損耗が生じた場合は、特別損耗

という基準で判断されている傾向があります。

すなわち、「賃料が通常よりも高額に設定されているかどうか」という点がポイントとなります。

賃料が通常よりも高額に設定されていない場合は

本件は東京地方裁判所平成25年11月8日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例では、猫の飼育1匹までは可とされていましたが、賃料については特に通常より高額に設定されてはいないというものでした。

そのため、裁判所は、

賃借人は、貸室で猫を飼育することを認められていた一方で,その飼育に伴い室内に損傷等を生じさせることのないよう善管注意義務を負っていて,その義務の程度が緩和されるべき事情は認められない

と述べて、ペット飼育に起因する傷や汚損については、特別損耗として賃借人の費用負担を認めています。

特別損耗とされた場合の負担割合は

この事例では、フローリングの一部は,飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食のほか,剥離等の毀損が認められ,当該腐食部分は床下の床根にまで浸透していました。

そのため、賃貸人は、フローリングの全面張り替えと,腐食した床根の補修を行っています。

これらのペット飼育による損傷・汚損について、裁判所は特別損耗であると認定はしましたが、他方で、

①物件が築17年でそれなりに年数が経過していた

②フローリングについては、部分張替えが難しいものの、ペットによる傷は全体ではなく一部分であった

という点から、特別損耗だとしても、賃借人が全面張替えの工事費用を全額負担をすべきかどうかが問題となりました。

この点について、裁判所は、

「フローリング工事に係る費用については,その30%の額を賃借人の負担とするのが相当である。」

と判断しました。

その理由として、以下の点を挙げています。

・フローリングの全面張り替え工事には,新築後約17年における経年変化や通常損耗に係る部分を修復する工事が必然的に含まれており,賃貸人はその分過剰に利益を受けているといえる。

・証拠上認定できるフローリングの損傷部位は,あくまで一部にとどまり,その余の部分について通常の使用による損耗の程度を超える損耗が生じていたと認めるに足りない。

・したがって、その部分補修でなく,居室の全体につきフローリングの張り替えを行ったことが,可能な限り毀損部分に限定された工事であると認めるに足りず,この点で賃貸人は過剰な利益を受けているといわざるを得ない。

・他方で,腐食した床根の補修については,賃貸人が過剰な利益を受けたとまではいえない。

この事例では、その他、居室ドア縁、巾木、居室石膏ボードについても、猫の爪研ぎによる破損等が生じていることを特別損耗と認めつつ、上記で述べたような事情を個別に考慮して、賃借人の費用負担割合をそれぞれ、居室ドア縁(20%)、巾木(25%)、居室石膏ボード(50%)と認定しています。

以上のように、ペット飼育による傷・汚損等が特別損耗だとしても、

・新築時(またはリフォーム時)からどの程度の年数が経過していたか

・全面張替(交換)工事を行った場合において、傷・汚損が生じていた部分が全体のうちのどの程度の割合だったか

という点を考慮して工事費用の負担が決められることを示した裁判例と言えます。

もっとも、フローリングについては、玄関からリビング、キッチン、寝室まで間仕切りがないタイプであり部分張替えではなく全面張替えが必要だったとして全面張替え費用を賃借人に負担させた裁判例もありますので(東京地方裁判所平成27年1月29日判決)、ケースバイケースで考えていく必要があるでしょう。


この記事は2022年5月2日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸ビルオーナーからの相談】

当社は所有する賃貸ビルの一室を店舗用として借していました。

その後、この店舗の賃借人が退去することとなり、賃貸借契約を合意解約したのですが、その際に、契約書に従って原状回復費用を算定したところ、約593万円になりました。

賃貸借契約書では、「貸主の指定する業者で原状回復工事を行う」とされていましたので、解約合意書を取り交わした上で、上記工事費用から保証金を差し引いた残金320万円ほどを借主に支払ってもらいました。

 

その後、すぐに新賃借人が見つかり、そのままの状態で貸すということになったため、結局原状回復工事は行いませんでした。

そうしたところ、その状況を知った元賃借人から、

「原状回復工事を行わなかったのだから、当社としては支払った原状回復費用を返してもらいたい。」

と言われてしまいました。

当社は、返還しなければならないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和元年10月1日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例では、借主が、契約解約時に貸主に支払った原状回復工事費用について、「原状回復工事を実施しなかったのであるから貸主の不当利得である」として返還請求訴訟を起こしたというものです。

この事案において、賃貸借契約書において、明渡し・原状回復部分については、以下のような規定がありました。

(イ) 借主は,賃貸借期間内に本件店舗を原状に復して貸主に明け渡さなければならない(1号)。

(ウ) 前(イ)の場合,借主が遅滞なく本件店舗を原状に復さないときは,貸主は借主に代わって借主の費用でこれを行い,収去した物件を任意に処分することができる(2号)。

(エ) 上記(イ)の原状回復工事については,貸主の指定する業者で貸主の指示に従い実施するものとする。(3号)。

このような契約条項を前提とした上で、貸主と借主は、賃貸借契約の解約合意書で主に以下のように合意をしていました。

・本件賃貸借契約のうち本件賃貸借契約書第23条に基づき,貸主指定業者により原状(スケルトン状態)回復を行い,本件店舗の明け渡しを完了することを及び貸主は確認する。

・借主は,貸主に対し,原状回復工事費用594万円(消費税込)を貸主からの請求に基づき,平成28年6月15日までに支払うものとする。

・貸主及び借主は,本件合意の書面に定める他に,何らの債権債務が存在しない事を確認する。

このような事実関係を前提として、本件において裁判所は、貸主と借主との間の解約時における合意内容を、

「借主が本件店舗の原状回復工事に要する費用594万円(消費税込)を同年6月15日までに貸主に支払うことにより借主の本件店舗の原状回復義務を免除し,本件店舗の明渡しが完了することとし,解約日までの賃料や敷金等の清算を行い,その他に本件賃貸借契約に関し,借主及び貸主は何ら債権債務が存在しないとする合意であると解するのが相当である。」

と認定した上で、

その後の事情の変更により,貸主が原状回復工事を実施しなかったり,原状回復工事の施工内容が変更されて費用額が上記金額と異なったりしたとしても,その清算を行わないことを前提とした合意であると解される。」

と述べて、借主からの返還請求を認めませんでした

本事例では、裁判所は、貸主と借主との間の解約合意内容は、借主が貸主に原状回復工事相当額を支払うことにより借主の原状回復義務の履行に代えることを合意する旨にとどまるのであり、また、これをもって貸主と借主間に債権債務関係は何ら存在しない合意もされているので、これを超えて借主が貸主の指定する業者に原状回復工事を委託するという趣旨までは含まない、という解釈をしたと考えられます。

本件のように、貸主が原状回復費用を受領したものの、その後原状回復工事を行わなかったという場合に、返還義務を負うかどうかは、賃貸借契約書と契約解約の際の合意内容の解釈が重要となりますので、事後のトラブルを防止するためには、この点双方に認識の相違が無いように定めておく必要があります。

このようなトラブル防止のために、解約時にどのように合意をしておくかということについて、本裁判事例は一つの参考となる事例と言えます。

なお、同じ争点が問題となった事例として、東京地方裁判所平成29年12月8日判決の事例もありますので、こちらもご参照ください。


この記事は2022年4月10日時点の情報に基づいて書かれています。

【収益物件買主からの相談】

私は、共同住宅兼事務所ビルを1億9000万円で購入しました。

このビルは、私が購入した後に転売した上で、借主となってサブリースをするという目的で購入したもので、この目的で購入することは仲介業者には伝えていました。

 

しかし、ビルの引渡しを受けた後、ビル管理会社の状況確認により、売買契約時に仲介業者を通じて売主側から交付を受けていた家賃管理表の月額の家賃の記載や、空き室の記載に誤りがあったことが発見されました。月額の賃料額は88万5000円とされていたのに対し、実際は月額75万円だったのです。

 

このため、私は仲介業者に対して説明・告知義務違反があるとして、賃料の差額分の損害賠償請求をしました。

 

これに対して、仲介業者は「売主から賃貸借契約書ないし賃貸借契約の詳細な情報を入手すべく努めたが,売主が非協力的であり,賃貸借契約書が作成されていない部屋も多かったため,売主から提出された資料に基づき,可能な範囲で報告している。だから,仲介業者としての調査,報告義務は尽くした」などと言って、賠償請求に応じません。

 

このような仲介業者の反論は認められるのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和2年7月22日判決の事例をモチーフにしたものです。

いわゆる収益物件(賃貸ビル)の売買において、物件の賃料額について仲介業者が実際の賃料額と異なる資料を渡し説明したことについて、仲介業者の説明・告知義務違反の有無が問題となりました。

仲介業者の説明義務違反行為として主張された行為とは

本件で問題とされた仲介業者の行為とは、、

「物件の月額賃料の実際の合計額は84万5000円にもかかわらず,仲介業者は,売主が作成したという家賃管理表につき,その裏付けとなる賃貸借契約書等の客観的資料を確認しないまま,上記家賃管理表の内容を鵜呑みにし,何らの留保を付けることなく,レントロールに月額賃料の合計額が89万円である旨記載し,買主に対しても,同様の説明しかしなかった」

というものでした。

裁判所は仲介業者の説明・告知義務違反を認定

この事案について、裁判所は

「仲介業者は,買主との間で,本件仲介契約を締結したのであるから,買主に対し,本件仲介契約に基づく善管注意義務として,不動産売買契約の締結に当たり,買主にとって重要な事項について,自ら調査し又は売主から資料等の提供を受けるなどして,正確な情報を説明,告知すべき義務を負うと解するのが相当である。」

「本件建物は,鉄筋コンクリート造陸屋根5階建ての共同住宅兼事務所であり,いわゆる賃貸用の物件であるから,その賃貸借契約の状況は,不動産売買契約の締結に当たり,買主である買主にとって重要な事項であると認められ,仲介業者は,買主に対し,その正確な情報を説明,告知すべき義務を負うと解するのが相当である。」

と述べた上で、本件の事実関係に照らせば

「仲介業者は,買主に対し,本件建物に係る賃貸借契約の状況について,正確な情報を説明,告知したとはいえない。

よって,仲介業者は,買主に対し,本件建物の賃貸借契約の状況に係る説明,告知義務違反により債務不履行責任を負う。」

と判断しました。

買主の損害額についてはどう判断したか

また、買主の損害額については

「仲介業者が説明していた賃料収入額と実際の賃料収入額との間には,本件建物の引渡し後(平成30年2月)から現在(本件訴訟の口頭弁論終結時である令和元年10月)までの間,合計マイナス143万5000円の差額が生じたのであるから,同額をもって,仲介業者の債務不履行による損害と認めるのが相当である。」

と判断しています。

仲介業者の反論は裁判所には認められず

仲介業者の言い分としては、買主側が契約を急いでいる一方で、売主側に資料等の提出を求めても協力が得られなかった中で、できる限りの説明を尽くしたので義務違反はない、というものでした。

しかし、仲介業者のこのような言い分に対して、裁判所は、以下のように述べて仲介業者の反論を認めませんでした。

「この点,確かに,仲介業者は,売主に対し,賃貸借契約書等の資料の提出を求めるなどしており,売主がこれに十分に対応しなかった面があることは否めないものの,そもそもの発端は,仲介業者において売主から十分な資料が提出されていないにもかかわらず,いわば見切り発車的に専属専任媒介契約を締結してしまったことにあるといわざるを得ない。その点を措いても,本件建物に係る賃貸借契約の状況につき,客観的な裏付け資料を確認することができていないのであれば,買主に対し,少なくともその旨を明確に説明すべきであった。

よって,売主が賃貸借契約書等の提出に応じなかったことをもって,仲介業者が買主に対する債務不履行責任を免れることはできない。」

不動産売買の仲介業者の説明義務違反を巡る紛争のうち、本件は、収益物件の売買における説明・告知義務違反を認めた事例として参考になる事例です。

仲介手数料の半額も買主の損害と認定

なお、この事例では、賃貸借契約の状況の他、本件建物1階が駐車場として建築確認等を受けていたものの、その後,外壁を設けるなどして店舗に改造されたため,本件建物1階の用途を駐車場から店舗等に変更することは容積率を超過することになるため許されない状況にあることを説明せず,また、本件建物の図面を交付しなかったことについても、仲介業者の説明・告知義務違反を認めています。

こういった仲介業者の説明・告知義務違反を認めた上で、最終的に支払済みの仲介手数料の半額311万0400円を損害と認めていますので、この点についても参考になる事例と言えるでしょう。


この記事は2022年3月3日時点の情報に基づいて書かれています。

1 建物賃貸借契約における連帯保証人の責任の限定

賃貸物件の契約の際に、未払賃料等が発生した場合の担保として連帯保証人を設定することは通常行われています。

しかし、建物賃貸借における連帯保証人の責任が過大になっていたという問題意識から、2020年4月1日に施行された改正民法の465条の2第2項により、保証人が負うべき限度額(極度額)を定めなければ、保証契約は効力を生じないと規定されました。

*改正民法465条の2第2項

2.個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

したがいまして、改正民法が適用される2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約において、保証契約が効力を生ずるためには、契約書において保証人の負うべき極度額を「●円」とか「月額賃料の●ヶ月分」といった形で規定をしなければなりません(なお、従前の賃貸借契約を2020年4月1日に更新した場合の保証契約の効力については、賃貸借契約が更新された場合における、保証人の責任と改正民法の適用についての注意点の記事で解説しています。)

以上が近時の保証人の責任を限定する民法改正の内容ですが、改正民法が適用される前の賃貸借契約における連帯保証人の責任についても、以下のように、その請求が制限される場合があることは、最高裁判例によっても示唆されています。

「本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係である建物賃貸借契約においては,保証人の責任が無制限に拡大する可能性・危険性があることに鑑み,賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず,賃貸人が,保証人にその旨を連絡することもなく,いたずらに契約を存続させているなど一定の場合には,保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ると解すべきである(最高裁平成9年11月13日第1小法廷判決・裁判集民事186号105頁参照)。」

2 連帯保証人の責任が限定される場合とは

では、どのような場合に連帯保証人の責任が限定されるのか(逆に言えば、賃貸人から連帯保証人への請求が権利濫用とされるのか)という点については、ケースバイケースの判断となっているため、この問題は過去の裁判例の判断の蓄積から見通しを立てる必要がある問題です。

そこで、今回は、この問題について判断した最近の裁判例である東京高等裁判所令和元年7月17日判決の事例を紹介します。

この事案は、市営住宅を対象とするもので、連帯保証人は賃借人の母親(高齢で年金受給者)、賃借人は生活保護受給者で賃料は代理納付により賃料が支払われていたものの、保護の廃止により代理納付も廃止され、その後滞納が発生した、という事案です。

料の滞納額は、代理納付が廃止されてから、約3年半分に及んでおり、これを賃貸人は連帯保証人に請求しました。

この事案で、裁判所は、代理納付が廃止され、賃料が滞納が開始されてから2年間が経過した以降の未払賃料の請求については、権利濫用にあたると判断し、賃貸人の請求を認めませんでした。

連帯保証人への請求が権利濫用に当たるか否かについて、裁判所が考慮した事情は以下のとおりです。

・賃貸人は、平成27年4月に賃借人の生活保護が廃止されることを連帯保証人に知らせなかったが,生活保護が廃止されれば,それまでの代理納付も廃止され,賃借人が自ら賃料を支払わなければならないところ,これまでの賃借人の滞納状況や賃貸人との連絡等が困難な状況から,賃貸人としては,その後賃借人が滞納を続けることを予測することができたと解される一方で,連帯保証人は賃借人が生活保護を受給していることは知っていても,これを廃止されることになることは知らずにいた

・実際,生活保護廃止後に賃借人の滞納賃料は累積し,その支払について賃貸人から督促依頼状が送付され,連帯保証人は,本件連帯保証契約の解除権行使等の方策を検討する機会もないまま,賃貸人に促されて,平成28年6月11日には平成28年4月分までの累積債務額について分納誓約書を提出している

・その頃には連帯保証人も70歳に達して年金受給者となっており,賃借人とも連絡が取れず困っていたことを賃貸人も把握していた

・平成28年5月27日に賃貸人から債権移管決定通知書が送付されて以降は,連帯保証人もしばしば賃貸人の担当者に対して,賃借人に対して本件住宅から追い出すなどの厳しい対応をすることを要求したり,自分も年金生活者で分割払いの履行もなかなか困難であることなどを訴えていた

・このような経緯に照らせば,賃借人の生活保護が廃止された以後は,賃貸人は連帯保証人の支払債務の拡大を防止すべき措置を適切に講ずべきであり,かかる措置をとることなくその後の賃料を連帯保証人に請求することは,権利の濫用にあたるというべきである。

・賃貸人担当者は,長年賃借人本人と直接連絡を取れずにおり,賃借人世帯の居住実態が不明なままであるというのに,本件住宅を訪問して,集合ポストに連絡してほしい旨の通知を投函するのみで(賃貸人の原審第1準備書面添付「事務処理経過一覧表」),それ以上の積極的な方策をとることをせず,保証人である連帯保証人のみに支払請求をしていた

裁判所は以上のように述べた上で、

「賃貸人の主張する前記事実を考慮しても,遅くとも賃借人の生活保護が廃止された2年後の平成29年4月分以降の支払を連帯保証人に請求することは権利濫用として許されないというべき」

と判断しました。

3 連帯保証人への請求が権利濫用とされないために

この裁判例から読み取れることとしては、賃貸人としては、滞納賃料が長期に及ぶような事案において、連帯保証人への滞納賃料等の請求が権利濫用とされないためには、

・まずは賃借人への督促手段を尽くした上で、連帯保証人にも請求をすべき

・滞納期間が長期(1〜2年以上)に及ぶことが予想される場合には、賃貸借契約解除の方策も検討すべきであり、その上で、連帯保証人にも請求をすべき

ということが重要と考えられます。


この記事は、2022年2月5日時点の情報に基づいて書かれています。

【住宅借主からの質問】

私は、東京都の杉並区にある木造の平屋建住宅の貸家に住んでいます。

昭和34年に建てられたもので、昭和37年から借りている物件で、今は高齢の母と二人で住んでいます。

現在は築57年となっていますが、これまで600万円ほど自分たちで増改築をしてきました。賃料は現在月9万2000円です。

大家からは、かなり老朽化していて大地震で倒壊する危険性があること、共同住宅に建て替える計画があるから、と言われ立ち退きを求められています。

母は現在87歳で、心臓カテーテル手術や大腸がんの手術を受けているなど健康状態も悪く、もし今転居となると肉体的・精神的に負担が大きいです。

それでも、立ち退かなければならないのでしょうか。

なお、大家からは、立ち退き料として840万円を提示されていますが、それでも立ち退きはできないと答えています。

【説明】

本件は、東京地方裁判所令和元年12月12日判決の事例をモチーフにしたものです。

賃貸人が、建物の老朽化・建替えの必要性等を理由として賃借人に対して立退きを求めるというケースは多いですが、この場合はまず、賃貸人側から、賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があります。

この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)が、賃貸人から解約の申入れをしたからと言って当然に解約が認められるわけでありません。

賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じないとされています。

この「正当事由」があるかどうかは、借地借家法28条が

「建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

と規定している通り、賃貸人、賃借人それぞれの事情を比較して判断されます。

色々と判断要素はありますが、この中で最も重要なのは

「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情」

です。

本件においても、裁判所は、賃借人側の建物使用の必要性と建物の老朽化の程度を詳しく検討した上で、主に以下の理由により、解約申入れに「正当事由」は認められない、として賃貸人側からの立退きの請求を棄却しました。

1 これまでの長期間居住し、かつ相当の費用をかけて増改築をしてきたこと

2 賃借人が現在87歳で健康状態も悪く、長年住み慣れた本件建物からの転居が生命・身体に関わる事態を引き起こすのではないかという懸念には,社会通念上客観的にみて合理的な根拠があること

3 賃貸人の建替計画は、賃貸人が建物を自ら使用するためでないし、早急に建て替えなければ賃貸人の生活に支障が生じるということもないこと

4 建物は老朽化はしているものの、一級建築士によれば、現況のままで、ある程度の規模の地震には対応することができ、早急な耐震補強工事や建替工事が必要とはいえないとされていること

この判決では、賃貸人側が提示した840万円という立退き料の金額の検討すら行わずに賃貸人側の立退きの主張を棄却していますので、築57年の物件とは言え、老朽化の程度についての賃貸人側の主張・立証が弱かった事案であると見られます。

また、賃借人側の建物への居住継続の必要性をかなり強く認めた事例ということができます。

判旨では、細かく双方の事情を認定していますので、以下参考までに判旨を掲載します。

【判旨:東京地方裁判所令和元年12月12日判決 X:賃貸人、Y:賃借人】

(1) 被告らの自己使用の必要性について

ア 前記認定事実によれば,被告Y1は,本件賃貸借契約から本件解約告知に至るまで,亡Bと婚姻してからの社会生活の大半に当たる57年間を,夫婦共同財産からの支弁によって本件各増改築等を加えつつ,本件建物を家族共同生活の本拠として生活し,本件解約告知当時84歳,現在87歳に至っているものである(前記認定事実(3))。原告は,本件各増改築等が賃貸人に無断であると主張するが,同主張に沿う証人Fの証言は伝聞であって採用できない。そして,原告居宅が本件建物と徒歩2分の位置関係にあり(同(1)),本件増改築等の内容・規模からみて賃貸人が当然認識し得ると考えられることや,証拠(乙15)に照らせば,本件増改築等は,前回訴訟の判決も認定するように(前記認定事実(4)),賃貸人の許可の下に行われたと認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで,本件増改築等の内容・規模は,社会通念上,借家に対して賃借人が通常施すであろう内容・規模とは大きく異なり,いわゆる持ち家に対するものに匹敵するものといえる。また,現在の貨幣価値にして600万円を超える費用(前記認定事実(3))も,持ち家に対するものであれば自然であるが,借家に対するものとしては不相応に高額といえる。そして,亡B及び被告Y1が,夫婦で,上記のような本件増改築等を本件建物に施してきたのは,本件賃貸借契約が,もともと将来的には亡Bに本件建物を売却する可能性を内包するものであったため(乙15),亡Aが,これを許容してきたことによると推認するのが相当である。

イ 被告Y1は,既に女性の平均寿命に相応する老齢にあり,多数の疾病を抱え,通院治療を受けながら,長女・被告Y2と本件建物に同居し,体力的にも無理があるとして,存命中は長年住み慣れた本件建物に居住し続けることを強く希望しているところ(前記認定事実(5)),上記アのとおり,被告Y1が本件賃貸借契約の下で本件建物に持ち家同様の管理を伴う長期間の居住を許容されてきたことを踏まえると,上記のような状況にある被告Y1が,長年住み慣れた本件建物で居住を継続する利益は,単なる主観的な希望にとどまるものとは言い難い。また,被告Y1の上記疾病のうち,特に肺気腫の進行は著しく,被告Y1は,外見上,本件建物から5分程度の駅までは休みつつ自力で出歩くことができ,周囲の制止にかかわらず喫煙も止めない状況にあるものの,医師から風邪でも生命に関わる事態になるとの注意喚起がされる状況にある(同前)。そして,被告Y1が,既に平均寿命に相応する老齢にあることをも考慮すると,長年住み慣れた本件建物からの転居が生命・身体に関わる事態を引き起こすのではないかという懸念には,社会通念上客観的にみて合理的な根拠があるということができる。

以上の事情を総合すると,被告Y1には,客観的にみて,本件建物につき,極めて高い自己使用の必要性があるというべきである。

ウ 前記認定事実によれば,被告Y2は,婚姻後,本件建物を出て,亡Bの死後,高齢の母・被告Y1が多数の疾病を抱えて一人暮らしになったことから,本件建物に戻ったにとどまり(前記認定事実(3),(5)),被告Y1の存命中は本件建物で同居したいが,その後は引越しもやむを得ないと述べるなど(被告Y2本人10,38~39頁),被告Y1とは離れて独自に本件建物を使用する必要性があるとは思われない。しかし,被告Y1が上記イのような状況にある以上,被告Y1と本件建物で同居する必要性は,被告Y1同様に,客観的にみて高いものというべきである。

 

(2) 原告の自己使用の必要性について

ア 前記認定事実によれば,原告は,本件建物をより収益性の高い共同住宅に建て替える本件計画を有している(前記認定事実(6))。被告らは,本件計画の実現可能性を争うが,本件建物は,多数の土地に収益性の高い共同住宅を保有し,法人を利用して相続税対策をする必要のある規模で賃貸事業を営んでいる原告にとって,最後の平家建て建物であり(前記認定事実(6)),原告が被告らの退去を求める訴訟を短期間に2回提起していること(同(4))に証拠(甲12,13)を総合すると,本件計画に実現可能性がないとは認め難い。

しかし,本件計画は,原告自身が直接本件建物を使用するというものではないし,原告の主張によっても,本件計画による増収は,当面,月額約3万円程度にとどまるところ,上記のとおり,原告は,既に相当規模の賃貸事業を営んでいるものであり,本件建物を現在直ちに建て替えなければ,原告の社会生活に何らかの支障が生じるとは認め難い。本件建物を現在直ちに建て替えたい理由について,Fは,原告が老齢となり借入れに支障が生じると証言するが(甲25,証人F・13頁),その裏付けはされていないし,法人を利用した賃貸事業も行っている原告にとって,年齢が,現在直ちに本件建物を建て替える理由となるとは認め難い。そうすると,本件計画は,被告らを現在直ちに本件建物から退去させる客観的な必要性を基礎付けるものとは言い難い。

イ もっとも,本件建物は,本件解約告知当時,築後57年を経過した旧耐震基準の木造建物である(なお,被告らは,本件建物が居住の用に適する理由として本件各増改築等を挙げるが,本件増改築等に耐震補強などの構造補強が含まれるとは認められない。)。そして,原告は,本件建物を近く発生するといわれている首都直下型地震に耐える程度のものにすることが急務であるとし,これに相当程度の修繕費用を要することから建替えの必要性があると主張し,Fは,これに沿う供述をする(甲25)。

しかし,我が国の木造建物には旧耐震基準の建物が多数あると考えられ,その全てが現在直ちに建て替える必要があるといえるものではない。そして,D意見書(乙11,12)によれば,本件建物は,①昭和34年の新築当時,建築確認及び完了検査を受けた建物で,②その基礎は,現在でも一般に採用されている鉄筋コンクリート造の布基礎で,全体として矩形のそれほど複雑でない平面をした瓦葺き平家の建物である上,③全体的に壁量が多いことから平成12年改正後の壁量に関する基準に準じている可能性が高く,④仮に適合しない場合にも,同基準に示された補強は比較的平易に行い得,⑤土台等に白蟻による被害も見当たらず,⑥東日本大震災を含む地震等による損傷の跡は殆ど見当たらないとされ,これらのことから,現況のままで,ある程度の規模の地震には対応することができ,早急な耐震補強工事や建替工事が必要とはいえないとされている。同意見は,専門家である一級建築士によるものであり,その内容に不合理なところは見当たらず,その調査に不備があったり,被告らの依頼に専門家としての中立性を阻害するところがあったという気配はない(被告Y2本人36~37頁)。また,原告は,D意見書のうち乙11号証に多くの問題点があると主張して,E意見書を提出したが,E意見書に対して提出された乙12号証に対しては,専門家の意見や反論を提出しない。そして,当事者双方は,平成30年2月28日の本件第9回弁論準備期日において,各建築士に対する尋問の申出はしない旨を表明した。

以上の立証状況を総合すると,少なくとも,本件建物が,現在直ちに建替えや大規模補修をしなければ居住に適さないほど危険とはいえない点については,鑑定を経るまでもなく,合理的な疑いはないということができる。そうすると,本件建物の老朽化や耐震性もまた,前記(1)認定・説示の状況にある被告らを,現在直ちに本件建物から退去させて本件建物を建て替える必要性を補強する事情となるとは認め難い。


この記事は2021年12月2日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸オーナーからの質問】

私は、一戸建てを所有しているのですが、これを居住目的で賃貸することにしました。

家賃は一月15万円です。

しかし、賃貸して賃借人が住み始めてから半年後頃より「天窓部分から雨漏りがある」というクレームがありました。

最初のクレーム時には修理業者を手配したのものの、コーキングの劣化等も確認されておらず,雨漏りの原因を特定することができないと言われましたが、雨漏りの可能性のある箇所に撥水剤の散布などの応急処置を施しました。

しかし、その後間もなく「また同じところから雨漏りしている」と言われ、業者を手配しましたが、同様に業者からは「原因が特定できない」と言われましたが、このときも応急処置的なものは行ってもらいました。

それからしばらくは何もなかったのですが、その2年後に再び同じ箇所から雨漏りしていると言われ、同様に業者に点検と応急措置をしてもらいましたが、やはり原因が特定できず、コーキングなどの応急措置をしました。

その後も2年毎くらいの頻度で雨漏りが生じているとのクレームがあり、その度に業者を手配するものの、これまでと同様に原因が特定できずコーキング処理等の応急措置をする、ということの繰り返しでした。

私からは、賃借人にクリーニング代を支払ったり、損害金として3万円をお支払いするなどの対応もしています。

しかし、この度、賃借人から「ここに9年間住んでいて、10回も雨漏りが生じている。雨漏りのせいで建物の使用が妨げられたのだから、その分を損害として請求する。慰謝料も請求したい。」と言われています。

私としては、雨漏りのクレームがある度に業者を手配し調査したものの、どうしても原因が特定できなかったわけであり、賃貸人としてはやるべきことはやったと考えています。

それでも責任を問われるのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成25年3月25日判決の事例をモチーフにしたものです。

賃借人は、雨漏りが度々生じたことについて、賃貸人の修繕義務違反を主張して、

・雨漏りのため水浸しになる範囲は,居住スペースの30%程度に及んでいることから,本来約定賃料から30%相当額を減額すべきところ,原告はその分を余分に支払い続けたのであって,過去の既払賃料のうち3割相当額が損害である

・雨漏りにより、多大な精神的苦痛を被り,その慰謝料は49万2000円である

と主張して、賃貸人に訴訟を起こしました。

これに対して、賃貸人側は、冒頭の設例のように、

・雨漏りが生じたと言われた度に修理業者を手配して調査するなど対応している

・雨漏りの原因が特定できず、雨漏りの発生を防止するまでの義務はない

と反論しました。

裁判所の判断は・・・

この事案で、裁判所は、賃借人が主張した賃料の30%分の損失については

「雨漏りによって水に浸された範囲やその量,水に浸された家財道具の種類やその程度等を確定できず,原告(賃借人)も雨漏りがあったときには被告(賃貸人)に対し対処を求めたものの,それ以上にクレームを申し立てないで,契約を更新して住み続けていたのだから,原告が本件建物を使用するにあたって,3分の1に及ぶ30%程度ものスペースの使用が日々妨げられていたなどとは認めがたいというべき」

と述べて、その請求を否定しました。

他方で、慰謝料請求については、以下のように述べて、45万円という慰謝料を認めています

「雨漏りの発生について,賃貸人である被告は,本件建物の修補義務に違反しているというべきであり,その原因がわからないことは,賃貸人の修補義務を免責する根拠になるとはいえない。

かえって,賃借人である原告にしてみれば,雨漏りの原因がわからず,それがいつ発生するかも予測できないのであって,雨漏りが発生したことによって,相応の精神的苦痛を受けたというべきである。」

「その慰謝料については,賃貸人が原因不明との理由で修補義務を尽くしていないこと,比較的多数回の雨漏りが発生していること,過去の雨漏りについては解決済みとはいえ,雨漏りの回数が重なれば,相応して精神的苦痛も増大すると考えられることを考慮し,合計45万円とすることが相当である。

雨漏りというのは、原因の特定が難しい瑕疵現象の一つですが、原因特定が難しいからと言って、賃貸人としてその修繕義務が免責されるものではない、という考え方をこの裁判例は示していると考えられます。


この記事は2021年11月21日時点の情報に基づいて書かれています。