【質問:不動産の買主からの相談】

私は投資目的で、外国人留学生用のゲストハウス1棟を1億円で購入しました。

購入前は、建物の外観と共用部分は見ましたが、その他の部屋は,留学生らが借りていたため内覧はしませんでした。

売買契約では「現状有姿で引き渡す」と規定されていました。

 

建物の購入後、防水等の工事のため業者に調査してもらったところ、防水工事の不備による屋上からの雨漏りにより,居室内への漏水による床及び壁のカビによる被害,電気設備等の不具合その他の瑕疵があり,躯体鉄骨部分の補修,床・壁・天井の改修,壊れた洗面化粧台の撤去・取替,不適合な給湯器の撤去・取替等の工事を行わないとゲストハウスとして使用させることが不可能な状態であることが判明しました。

 

そこで、売主に対して瑕疵担保責任として上記の補修費用の請求をしたところ、売主からは、

「「現状有姿で引き渡す」と契約書に書いてあるから、瑕疵担保責任は負わない。」

と言われてしまいました。

このような約定がある場合、瑕疵担保責任は追求できないのでしょうか。

【説明】

中古住宅やマンション等の売買契約にあたっては、契約書で

「現状有姿にて引き渡す」

という条項が設定されることが多いです。

この文言を表面的に読めば「そのままの状態で引渡す」と言う意味になりますので、そこから「そのままの状態で引き渡せば足り、売主としては、引渡し後に何らかの欠陥があっても瑕疵担保責任は負わない」と解釈する余地があるようにも思われます。

しかし、法律的な観点から言えば、「現状有姿で引渡す」というのは、単に「そのままの状態で手を加えずに引渡す」という意味に過ぎないものとされており、瑕疵担保責任を免責するという解釈まではできないとされています。

したがって、売買において瑕疵担保責任を負わないとするためには、別途瑕疵担保責任の免責の特約を設定することが必要です。

もっとも、「現状有姿で引き渡す」と契約書で規定することにより、「瑕疵担保責任の範囲を限定する」効果を認めた裁判例があります。

それが、東京地方裁判所平成26年7月16日判決の事例です。

本件の事例は、この裁判例の事例をモチーフにしたものなのですが、この裁判例は、「現状有姿で引渡す」と契約書に書かれていたことにより、瑕疵担保責任の範囲について

「本件売買契約は,「現状有姿」とするものであって,売主は,売買契約の締結に当たって買主の知り得た瑕疵等の不具合については,瑕疵担保責任を負わないことが明らかである。」

とした上で、売買契約前に買主の内覧を妨げるような事情が存在しない場合には、売主は、「内覧をしても判明し得なかったような「瑕疵」については責任を負うが外観,内観上の汚れ,カビ,破損等についてまで損害賠償責任を負うものと解することはできない。

と述べました。

以上を前提として、裁判所はこの事例において、買主が主張する瑕疵について、

①給湯器の不完全燃焼による給湯停止

②103号室の漏水

③屋上部分の防水の欠陥

については,その位置や状況,性質等に照らし,内覧によっても直ちに発見,確認することは困難であると推認されるものであって,瑕疵担保責任を負うと判断しました。

他方で、これ以外の

④カビの発生

⑤クロスのたばこのやに等による部屋の汚れ

については,内覧によって判明し得るものであって,「現状有姿」で買い受けた以上,買主自らが対応すべきものというほかはない。

と判断しました。

実務上は、「現状有姿」売買の意味が誤って利用されている例も未だ散見されますので、瑕疵担保責任との関係で注意が必要です。


2019年7月31日更新

【不動産仲介業者からの質問】

現在駐車場となっている土地を、住宅の戸建ての建築用の土地として売買することになりました。

かなり長期間駐車場として使用されていたようなので、その前はどのように土地が利用されていたかはわかりません。

 

当社が仲介して、土地の売買と引渡は無事に終わったのですが、その1年半後に、買主から

「この土地に昔建っていたアパートで、17年前に火災が発生して一人死んだらしいじゃないか」

「最初に聞いていたら、こんな土地は買わなかった」

「こんなところ薄気味悪いので、土地は転売したが買ったときより1300万円も値段が下がってしまった」

と言われました。

買主からは、心理的瑕疵だ、仲介業者の調査義務・説明義務違反だと言われ、損害賠償を請求されています。

17年も昔の火災死亡事故を調査して説明しなければならないのでしょうか。

【説明】

自然死ではない事故死などの不慮の事故が物件内において発生した場合、一般人からすれば、当該物件に対して不安感や不快感を抱くことは十分ありえます。

したがって、死亡事故が発生した物件は「心理的瑕疵がある物件に該当する」と言えますし、経済的価値が低下する事情にもなりますので、原則として仲介業者は売買の際に説明をする義務が生じます。

しかし、この過去の事故・事件について、売主や仲介業者がどこまで説明すべき義務を負うのか、またどこまで調査すべきか、という点については法律で明確な規定はありません。

裁判例でも、特に宅地の売買の場合には、明確な線引がありません(ex.8年前、20年前の事件について説明義務を負うとした判例があります)。

そのため、売主や仲介業者としては、何十年も前の事件についてまで説明しなければならないのか、いったいいつまで遡らなければならないのか、と判断に迷ってしまうのがこの心理的瑕疵の問題です。

この点については、かなりケースバイケースですので、他の裁判事例を参考にしながら考えていくべき問題というのが実際のところです。

本件の事例は、東京地裁平成26年8月7日判決の事例をモチーフにした事例です。

この事例は、17年前に発生した火災死亡事故について、心理的瑕疵に該当するか、また、仲介業者の調査・説明義務が問題となりました。

結論から言うと、心理的瑕疵、仲介業者の調査・説明義務のいずれも否定しました。

この事例で、裁判所は、まず、

「ある土地において社会的に忌み避けられるような出来事が発生してから一定の期間においては,当該土地につき忌み避けられるべき心理的欠陥があるものとして当該土地に瑕疵があるということができる場合がある。」

「当該土地の取引に関わる不動産業者は,信義則上,認識し,又は通常の取引過程において容易に認識し得た上記のような出来事の存在につき,取引の相手方に告知すべき義務があるということができる。」

「もっとも,ある土地において社会的に忌み避けられるような出来事が発生することが必ずしも一般的なことでないことからすると,不動産業者が,当該取引に関わる土地について,積極的に過去においてそのような出来事が存在しなかったかまでをも調査する義務があるということができるものではない。」

と一般論を述べています。すなわち

・忌み避けられるべき事件や事故は、一定期間は心理的瑕疵となる

・容易に認識できるような事件や事故については説明義務がある

・容易に認識できないような事件や事故について、積極的に調査する義務はない

としています。

そして、本件については、

・売買契約の約17年前に土地上に建っていた木造(防火構造)2階建ての共同住宅が部分焼損する火災が発生し,同建物に居住していた男性1名が同火災により死亡する本件火災事故が発生したこと

・本件火災事故後のまもなく同建物は全て取り壊されたこと

・本件売買契約が締結された当時,本件土地は砂利敷きの月極駐車場として使用されていた

という事実を前提として、裁判所は、

「既に17年以上が経過した過去の出来事であることに加え,本件火災事故が発生した本件土地上の建物は,本件火災事故後の平成6年4月1日頃には全て取り壊され,本件売買契約締結当時には本件土地は駐車場として使用されていたことが認められる。」

「そうすると,本件土地上に存在した建物で本件火災事故が発生し死者が出たという事実は,本件売買契約締結当時においては,相当程度風化され希釈化されていたものであって,合理的にもはや一般人が忌避感を抱くであろうと考え得る程度のものではなかったと認めるのが相当である」

と延べ、本件においては、約17年前の火災死亡事故の発生という事実は「心理的瑕疵には該当しない」という判断をしました。

また、調査・説明義務の点についても、上記の事情に加え、

・売主も仲介業者も事故の存在を知らなかった

・購入した買主自身も、購入してから1年以上経つまでこの事故の存在を知らなかった

という事情を踏まえ、

「本件売買契約当時において,本件土地の売主及び仲介業者は,通常の取引過程において,本件火災事故の存在及び本件火災事故により死者が発生した事実を知り得たということはできず,また,上記事実の存否につき調査すべきであったともいえない。」

と判断しました。

このように、本件事例では、事故がかなり昔の出来事であり、また、現在の土地の状況から火災死亡事故の存在を伺わせる兆候もなかったことを理由として売主、仲介業者の責任を否定したものです。

ただし、この事例では、裁判所は、この火災死亡事故については、

「本件土地上での本件火災事故の発生及び死亡者の発生という事実は,現在も多くの近隣住民の意識のうちに鮮明に記憶されていると主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。」

と述べていますので、逆に言えば、この事故が近隣住民の記憶に長年残るような衝撃的な事故だった場合には、結論が変わっていた可能性はあります。

以上を踏まえると、売主及び仲介業者としては、特に買主がそこに長く留まることが前提となる居住用の土地の売買に際しては、可能な限り土地の歴史については調査しておくことが無難と言えます。


2019年7月9日更新

【質問】

私は地主から土地を借りて、その借地上に2つの建物を建てて所有しています。

一つには自分が住んでおり、もう一つは私の兄が住んでいました。

しかし、兄が亡くなったので、もう一つの建物の方は今は空き家となっています。

このままの状態ではしょうがないので、借地を分割して空き家の方の建物と一緒に第三者に売却譲渡したいと考えましたが、地主は借地の分割譲渡には承諾しない、と言ってきました。

そうなると、借地非訟手続を起こすしか無いと不動産業者から言われていますが、そもそも借地を分割して第三者に譲渡することは認められるのでしょうか?

 

【説明】

借地権者がその借地を第三者に譲渡する場合、地主の承諾が必要となります。

しかし、地主が承諾をしてくれない場合、裁判所に対して、地主に代わって譲渡の許可をしてもらうための訴えを起こさなければなりません(これを借地非訟といいます。)。

 

この点については、借地借家法第19条により、

「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。」

と規定されているところです。

 

したがって、裁判所としては、その借地権の譲渡が「借地権設定者に不利となるおそれがない」限りは、借地権者が譲渡することについて許可を与えるということになります。

この「不利となるおそれ」というのは、通常は、

・借地権を譲り受ける人(会社)が資産等が乏しく地代の支払いなどに不安がある

・借地権を譲り受ける人(会社)が反社会的勢力である

という場合に問題となることが多いです。

 

では、「借地権を分割して譲渡すること」が、「借地権設定者に不利となるおそれ」となるのでしょうか。

 

この点については、裁判実務では、

「賃借地の一部分の譲渡がすべて不適法とすべきではないが、右譲渡が、賃貸人に著しい不利益を与える場合には、借地法九条の二第二項によりその申立を棄却すべきである。」(東京地裁昭和45年9月11日決定)

という考え方が取られています。

すなわち、借地権の分割については、「借地が分割されることによって、建築基準法上増改築が不可能になり、又は借地の面積が減少し不整形になるなどしてその価値が不当に低下すると認められるときには、借地権設定者に著しい不利益を与えるから、借地権設定者に不利となるおそれがある」(「借地非訟の実務」編集植垣勝裕・338頁参照)

と解されています。

 

以上を踏まえますと、借地権の分割譲渡については、借地の分割によって残余借地部分の形状や利用方法が著しく制限されるなどの「借地権設定者に著しい不利益」がなければ、認められる余地がある、ということとなります。

ただし、この点については公開されている裁判例情報も乏しいため、その見通しを立てる上では慎重に検討を進めていく必要があると言えます。


2019年5月2日更新

【賃貸人からの相談】

私は、築40年の賃貸戸建を父から相続しました。

この物件には20年ほど住んでいる賃借人がいますが、賃料が月6万円であり、他方で、耐震診断をしたところ上部構造評点が「0.96」で「倒壊の可能性有り」と指摘されました。

賃料も安く、修繕や耐震工事をするのもお金がかかるので、更地にして売却しようと考え、賃借人に立ち退きの交渉をしました。

賃料半年分ほどの立退料を提供すると申し出ましたが、賃借人からは「遺族年金で暮らしていて、引っ越す余裕もないし、長く暮らしてきたからここから出たくない」と言われ、立ち退きを拒まれています。

このような場合、裁判を起こせば立ち退きが認められるのでしょうか。

【説明】

賃貸人として、賃貸借契約を解約する場合には、老朽化を理由とした賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があります。この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)。

しかし、賃貸人からの解約の申入れは、それをしただけでは当然に解約が認められるわけではなく、賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、解約の効力が生じません。

この解約申入れの「正当事由」を判断するにあたっては,建物賃貸人及び建物賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに立退料の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して判断されます(借地借家法28条)

本件のように建物の老朽化を解約の理由とする場合、老朽化だけでは正当事由は認められず、妥当な金額の「立退料」の提供が必要とされるケースが非常に多いです。

しかし、立退料を提供しても「正当事由」が認められないというケースもあり、賃貸人側としては難しい判断を迫られる場合も多いです。それがまさに本件の事例です。

本件の事例は、東京高等裁判所平成24年12月12日判決をモチーフにした事例です。

この事例で、当初、地方裁判所は賃料の約1年分程の立退料の支払いと引き換えに、賃借人に立ち退きを命じましたが、高等裁判所はこの判決を覆し、賃貸人からの立退の請求を棄却しました。

この事例で、高裁は、建物の老朽化の程度や賃貸人側が建物を処分することの必要性と、賃借人側の居住継続の必要性を検討した上で、賃貸人側が立退料を提供したとしても解約の「正当事由」は認められない、と判断して、明渡請求を否定しました。

裁判所は、まず、賃貸人側の事情について

「本件建物又はその敷地を使用する差し迫った事情があるとまでは認められない」が、「本件建物を賃貸するより,本件建物を取り壊し他に売却することの方が利益があるということができる。」

と述べ、売却の方が利益があると判断しました。

しかし、老朽化の程度を踏まえた建替工事の必要性については、築40年経過していることや、耐震診断の上部構造評点が1.0以下であることを踏まえつつも、以下のように述べて否定しました。

「賃貸人は,本件建物は古く,耐震性の点からも建替えの必要があると主張する。

確かに,本件建物は,昭和47年に株式会社明電舎の社宅用として建築され,建築後約40年を経過して」いるが、「しかし,本件建物に居住するには格別の支障がなく,併せて本件建物の平成22年度の固定資産税評価額が53万2501円とされていることを考慮すれば,本件建物が大規模な修繕をしなければ居住できない状態にあるということはできない。

次に,耐震の面から本件建物を建て替える必要があるのかについてもみてみることにする。

木造建物においては,上部構造評点が0.7以上1.0未満であると地震の際倒壊する可能性があると判定されており,そうだとすると,本件建物も,地震の際倒壊の可能性があることは否定できない。しかし,本件建物の上部構造評点は0.96と1.0に近い数値である上,南北方向の耐力壁の補強により改善できるとされていることによれば,本件建物についての耐震工事は比較的容易であるというべきである。そして,その費用負担は,賃貸人である被控訴人だけが負担するのではなく,賃料の増額等により賃借人である控訴人と応分の負担をすることで対処することも可能である。したがって,本件建物の上部構造評点が1.0を若干下回っている蓋然性が高いことをもって,本件建物の賃貸借に重大な影響を及ぼす事情があるとまでは言い難い。

以上によれば,本件建物は古く,耐震性の点からも建替えの必要があるとの被控訴人の主張は理由がない。」

上記に加えて、裁判所は、賃借人側の事情については、

「賃借人は,本件建物の賃料等を遅滞することなく誠実に履行し,約19年にわたって本件建物を生活の本拠としてきており,他に転居したくない事情が存在する。」

と述べた上で、結論として、

「賃貸人側の事情としては,多額の負債があることから本件建物の敷地を利用しなければならないといった差し迫った事情はなく,また,本件建物を建て替えるまでの必要性もなく,あるとすれば,本件建物を賃貸しておくよりも本件建物を取り壊してその敷地部分を売却等して有効に利用したいという事情があるだけである。これら賃貸人側と賃借人側の事情を比較検討すると,本件建物賃貸借契約の解約には正当事由がないというべきである。」

と判断しました。

さらに、賃貸人は、賃料の約2年分の立退料の提供も申し出ましたが、この点についても、裁判所は、

「正当事由の主要な考慮要素である賃貸人と賃借人との建物使用の必要性の点等において正当事由が認め難い本件にあっては,上記金額の立退料の給付の申出の事実をもって,正当事由を補強することはできないというべきである。」

と述べて、立退き料を提供しても正当事由は認めない、と判断しました。

この裁判所の判断の肝となったのは、やはり老朽化の程度がそれほど著しくなかったことが原因と考えられます。

老朽化を判断するにあたっては、単に築年数の経過だけでは足らず、実際に倒壊の危険性があることも必要となってきますが、この点についても、裁判所としては、耐震診断における上部構造評点が単に1.0を下回っているだけでは足らず、0.7に近い数字であることが必要であるようにも解釈できます。

このように老朽化の程度が著しいとまで言えない場合には、賃貸人側としてその賃貸物件の使用や処分の必要性についてかなり高度な必要性が認められる必要(単に処分した方が利益があるというだけでは足りないと考えられます)がありますが、賃貸人がその賃貸物件を使用・処分すべき切迫した必要性があるというケースはそれほど多くはないのも実情です。

したがって、賃貸人側として、裁判を起こす場合には、老朽化の程度の見極めが重要であり、これにより立退きの成否が決せられることを肝に銘じて見通しを立てる必要があります。


2019年3月4日更新

【質問:賃貸マンションのオーナーから】

私の所有する賃貸マンションの賃借人から、「日照に不満がある」とのクレームがあり、その直後、一ヶ月分の賃料の支払いがありませんでした

そこで、管理会社に依頼して、その賃借人に電話をかけたり部屋まで訪問してもらいましたが返答がありませんでした。

そのため、管理会社の人が、賃借人の部屋のドアの前に、滞納家賃を催告し期限までに支払がない場合には賃貸借契約を解除し鍵を交換する旨の貼り紙を貼り付けました。

その後も連絡がなかったため、その二日後に賃借人宅を訪問しましたが、やはり返答がなかったので、再度同じ内容の張り紙をしました。

そうしたところ、賃借人から、「この張り紙のせいで名誉を毀損された」と言われ、慰謝料請求の訴訟を起こされてしまいました。

ドアの前に張り紙をすることは許されなかったのでしょうか。

【説明】

本件は東京地裁平成26年9月11日に事例をモチーフにしたものです。

この事例で、裁判所は、

「本件貸室のドアに滞納家賃を催告し期限までに支払がない場合には賃貸借契約を解除し鍵を交換する旨の貼り紙を2回貼付したものであるが,これらは原告の名誉を毀損する内容のものであることは明らかである」

「これらの行為は,管理会社の担当者が原告に対し連絡が取れない状況にあったことを考慮してもなお,1か月分の滞納賃料の督促の方法として社会通念上相当性を欠く違法なものである」

と認定し、慰謝料として3万円の支払いを賃貸人に命じました。

電話や訪問をしても返答がなかったとのことなので、賃貸人側には酷のようにも思われるのですが、それで裁判所がこのような判断をした理由としては、「賃料1ヶ月分」の滞納しか生じていなかった、という点が大きいように見られます。

したがいまして、賃料の滞納分が大きくなれば、張り紙をする方法が許容される確率も高まっていくものと考えられます。

実際、東京地裁昭和62年3月13日判決のケースでは、賃料を3ヶ月分滞納し、電話しても応答せず貸室にも不在であった賃借人の居室のドアに賃貸人が「連絡を請う。」とか「一二月一五日までに退去とのことであったが、未だに立ち退かず返答されたし。」といった内容の張り紙をしたというケースで、裁判所は

「賃料の支払を求めるためにやむをえず行った行為として社会通念上是認できるものであって、これを違法ということはできない。」

と判断しています。

以上を踏まえますと、ドアに張り紙をする場合には

・賃借人の賃料の滞納状況(最低でも2ヶ月以上の滞納は必要)

・賃借人側の連絡への応答状況(電話、訪問によっても応答なし)

・連絡を取るべき緊急性の有無(貸室内に異変が生じている兆候があるか否か)

を確認した上で、慎重に対応する必要があります。


2019年1月6日更新

【質問】

私は賃貸併用住宅を1棟所有しています。

3部屋を賃貸していますが、貸室内で賃借人の妻が自殺するという事件が発生してしまいました。

当該賃借人とは合意解除しましたが、加えて、事件が起きた部屋の隣の部屋の賃借人も退去してしまいました。

今後、事件が起きた隣の部屋についても入居者を募集しなければならないのですが、隣室の新規入居者にも自殺事件のことは契約前に告知しなければならないでしょうか。

【説明】

本件は、東京地裁平成26年8月5日判決の事例をモチーフにしたものです。

まず、賃貸物件の貸室内で自殺等の事件が発生してしまった場合、その貸室について新たに入居者を募集する場合には、賃貸人及び仲介業者は、当然ながらこの事件のことは告知しなければなりません。

通常人が居室内での自殺事故の告知を受けた場合,嫌悪感ないし嫌忌感を抱いて本件居室の賃借を辞退することは十分に考えられるからです。

では、自殺事件が発生した貸室の隣室、もしくは上下の部屋についても、入居者の募集の際に告知する必要があるのでしょうか。

この点について、裁判例は、問題となった賃貸物件が貸室3部屋程度と規模の小さい物件であることを踏まえつつも、結論としては、他の部屋については告知義務を否定しました。

その判示は以下のとおりです。

「本件建物の規模や構造に鑑みれば,本件居室の隣室の居住者が,本件事故について何らかの感情を抱くことは否定できない。」

「しかしながら,本件居室の賃借人である被告Y1は,本件居室の使用収益に当たって善管注意義務を負うにすぎず,当然に他の居室の賃料額の減額について責任を負うことにならない。」

「また,原告が本件居室以外の居室を新たに賃貸する場合,宅地建物取引業者において,賃借希望者に対して本件事故のあったことを告知する義務があるとはいえないから,新たな賃借希望者が本件居室以外の居室について賃貸借契約を辞退するなど,賃貸借契約が困難を生じることにはならない。」

と述べています。

本件以外にも、仙台地方裁判所平成27年9月24日判決の事例も同様の判断をしていますので、これが現在の裁判所の基本的な考え方と見られます。

なお、自殺事件が発生した貸室について、事件の存在をいつまで告知すべきか、という点も問題になりますが、この点裁判例は、

「本件居室内での自殺という事情について通常人が抱く嫌悪感ないし嫌忌感に起因するものであるところ,このような心理的な事情は,一定の時の経過によって希釈されるものであるし,いったん本件居室に新たな賃借人が居住すれば,その後の賃貸借には影響を生じないものということができる。また,本件建物が交通の利便性の高い立地にあること,本件居室がワンルーム(間取り1K)であって単身者向けと思われること等を考慮すれば,本件居室は,賃貸物件としての流動性が比較的高いものと認められ,上記嫌悪感ないし嫌忌感の希釈は比較的速く進行するものといって差し支えない。」

と述べた上で、

「本件事故の告知の結果,通常,1年間は賃貸不能であり,その後の賃貸借契約について,一般的な契約期間である2年間は相当賃料額の2分の1の額を賃料として設定するものと考えるのが相当である。」

と結論づけていますので、一度別の賃借人が入居した後は告知義務を負わず、もしくは、ワンルームで、利便性の良い位置にある物件であれば告知義務を負う期間は3年程度というのが一つの目安と見られます。


2018年12月6日更新

建物の賃貸借契約では、一般的に契約期間は2年〜3年間とされ、契約期間終了時に契約の更新をする場合には「新賃料の1ヶ月分」を更新料として支払う、とう約定がなされているケースが多いです。

そのため、賃貸管理の実務では、概ね契約期間満了の1〜3ヶ月くらい前に、賃貸人側から「契約更新のお知らせ」などと題した書面を賃借人に送付して更新意思の有無を確認し、更新希望の場合には更新契約書等の取り交わしと併せて更新料の支払いが行われるということが多々行われています。

しかし、賃貸人の管理や修繕対応等で不満を持っている賃借人がいる場合などには、当該賃借人から

「更新はするけど、対応を改善してくれなければ更新料を支払わない」

という対応をされるというケースもあります。

このような対応をされた賃貸人側としては、

「更新料を支払わなければ契約を更新しない(解除する)」

という主張をして争いたい、ということになってきます。

そのため、「更新料の不払いにより賃貸借契約を解除できるか」という点が問題となるわけです。

解除が認められるかどうかは、賃貸借契約における紛争の解釈指針である「信頼関係破壊の法理」がここでも通用しますので、

「更新料の不払が賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為」

と言えるかどうかにより解除の成否が判断されることになります。

この争点を巡っては多くの裁判例がありますが、今回紹介するのは、更新料2回の不払いにより解除が認められた東京地裁平成29年9月28日判決の事例です。

この事例は、月額賃料5万6000円、契約期間2年間、更新時に更新料として賃料1月分を支払う旨定められていた建物賃貸借契約の事案で、賃借人が2回の更新時期にいずれも更新料の支払いを拒んだため、賃貸人が契約解除・建物明渡の訴訟をしたという事案です。

賃借人側は、更新料の支払いを拒んだのは「賃貸人が更新後契約書を交付しなかったこと、部屋の鍵を修理してくれないこと、共用部分の掃除をしてくれなかったことが原因であり、これらを改善してくれれば払うつもりだった」などと反論して争いました。

この事案で、裁判所は賃貸人側の請求を認め、賃借人に建物の明渡しを命じました

その理由としては、裁判所は以下のように述べています。

① 原告としては,被告が本件更新料を支払うことを合意したからこそ本件賃貸借契約を2回にわたり更新したのであり,他方,被告としても,本件更新料を支払うことを合意して本件賃貸借契約の更新を得たのであるから,本件更新料の支払は,更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ,本件賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものといえる。

したがって,本件更新料の不払は,不払の態様,経緯その他の事情からみて,原被告間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には,更新後の本件賃貸借契約の解除原因となり得るものというべきである(最高裁昭和59年4月20日第二小法廷判決)。

② そこで,本件更新料の不払の態様等についてみると,被告は,原告に対し,平成26年11月15日の第1回更新によって第1回更新料(5万3700円)の支払義務を負い,原告からの支払催告も受けていたにもかかわらず,口頭弁論終結時までの2年9か月あまりもの間,同義務を履行していない。また,被告は,原告に対し,平成28年11月15日の第2回更新によって第2回更新料(5万3700円)の支払義務を負い,原告からの支払催告を受けていたにもかかわらず,口頭弁論終結時までの9か月あまりもの間,同義務を履行していない。

③ この点,被告は,本件更新料を支払わない理由を縷々述べて,原告が被告の要求に応じない限り,今後も本件更新料を支払う意思はない旨を明言するが,本件更新料の支払義務は第1回更新及び第2回更新によって直ちに生じており,原告が被告の要求に応じることは同義務の発生条件にも履行条件にもなっていないから,被告において本件更新料を支払わなくてもよいとする法的な根拠はない。

④ このように,被告は,不払の理由にならないことを縷々述べて,本件更新料の支払を明確に拒絶していることに加え,原被告間には賃料等保証委託や本件建物の火災保険の加入をめぐっても意見の対立があり,原被告間において建設的な話合いが行われることは困難な状況であるといえることをも併せ考慮すれば,今後,被告において,原告に対し本件更新料を任意に支払うことは期待できず,本件更新料の不払の問題を原被告間の協議に委ねたとしても自主的な解決は期待できないものといわざるを得ない。

とした上で、

「以上のように,本件更新料の不払の期間が相当長期に及んでおり,不払の額も少額ではないこと,被告が合理的な理由なく本件更新料の不払をしており,今後も当該不払が任意に解消される見込みは低く,原被告間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと,本件更新料の不払は賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。」

と述べて、賃貸人側からの解除の主張を認めました。

本件は、更新時期が2回経過したが2回とも更新料を支払わず、不払いから長期間経過しているという点を重視しているようにも見えますが、それ以外の事情(協議の経過など)も認定をしています。

そのため、更新時期が1回で不払いも1回だった場合に、本事例の射程が及ぶかどうかは明らかではありません。

いずれにしても、解除を主張する賃貸人側としては、不払いの回数・期間のみならず、信頼関係が破壊されているという点について、周辺事情も含めて主張・立証する必要があるということになります。


2018年11月1日更新

低周波音の被害を感じた場合、まずは、その音がどの程度のものかを客観的に測る必要があります。

騒音を測定するにあたって、その騒音の評価指標を理解しておく必要があります。

一般的なものとしては、騒音レベルを表す指標としては「デシベル」という単位が用いられます。このデシベルには以下の2つの評価方法があります。

1 A特性騒音レベル

騒音は、通常、騒音計の「A特性」で測定されます。

この結果得られるdB(A)という数値は、可聴域を含む音の音圧を合計した数値であり、人の耳の感度に合わせて低い周波数を小さく評価するように補正されています

ただし、その補正は近似的なものであり、高レベルの騒音や、低周波帯域の音を多く含む「音の大きさ」を過小評価するという特徴があります。そのため、実際に強烈な低周波音が出ていても、その「音の大きさ」は測定結果に反映されません

2 G特性騒音レベル

G特性とは、人における超低周波音(20Hz以下の低周波音)の知覚特性に基づいて、超低周波音を評価するために、物理的な音圧レベルの値に対して周波数補正を施した騒音評価指標です

可聴音全体に対して聴覚補正を施した騒音評価指標であるA特性騒音レベルに対応するものです。

以上のように、騒音の測定の際に用いられる指標はデシベルのうちでもA特性騒音レベルということになりますが、これは、耳に聞こえる音の大きさ、いわば音のやかましさを測るものです。

したがいまして、耳には聞こえにくい低周波音については、A特性騒音レベル(dB(A))そのレベルを正しく表していないのではないか、という問題があります。

そこで、低周波音の影響を正しく表すために、ラウドネスネスレベルという指標で音を評価することを検討すべきです。

すなわち、音の大きさ(ラウドネス)とは、人間が音を聞いたときの感覚的な量を意味する言葉であり、このラウドネスについて、音圧レベル(dB)と関連付けた量のことをラウドネスレベルといいます(単位はフォン(phon)です。

ラウドネスの基準となる音は、音圧レベル 40 dB で周波数 1kHz の純音で、ラウドネスレベルは 40 phonとなる。10 phonの増加により音の大きさが倍に聞こえます。)。

上記1のA特性も「音の大きさ」に関する人の聴覚特性を近似したものですが、前述のとおり人の耳の感度に合わせて低い周波数を思い切って小さく評価するように補正したり、音の大きさの違いによる等感曲線の差が考慮されていなかったり、複合音のマスキングが考慮されていないなど、真の音の大きさとの相関が十分高いとは言えません。

なお、それでも広く用いられているのは、測定が簡便であり、また、過去からの測定値が蓄積されているため比較が容易であるなどの実務的な理由によります(「騒音用語辞典」9頁参照)。

他方で、ラウドネスレベルは、人間の複雑な聴覚の周波数特性を考慮し、より人間の「音の大きさ」の知覚を忠実にモデル化したものです。

例えば、高レベルの低周波音を含む騒音の場合、ラウドネスレベルはより大きくなりますが、A特性では低周波音はほとんど反映されないため「音の大きさ」が過小評価されることになります。


2018年10月10日更新

低周波音とは100Hz以下の周波数の音のことをいいます。

この低周波音には、中・高周波音(100Hzを超える周波数の音)には無い、低周波音に特有の特徴があります。

主に、以下の3つの特徴が挙げられます。

1 家屋の防音効果が乏しいこと

通常は、家の窓や壁は相当の遮音量を持ちますので、家の中で窓を締め切っていれば外の音はかなり遮音されることになります。

これは、耳で感知される中・高周波音についてであり、耳では感知されにくい低周波音については、一般的には家屋によって遮音されにくいと言われています。

そのため、低周波音に対しては、二重サッシ等の防音工事の効果はほぼ及ばない可能性があるという指摘もされています。

なお、現実には、同じ音源(騒音発生源)から中・高周波音と低周波音の両方が発生していることが多く、中・高周波音と比較して、相対的に低周波音のレベルが低いと、低周波音は知覚されないことがあります。

しかし、家屋の中に入った場合、または防音工事等でさらなる遮音措置を施せば、中・高周波音は多少軽減されたとしても低周波音は軽減されないため、遮音すれば相対的に低周波音が増強されることになり、それまで中・高周波音に紛れて必ずしも知覚できていなかった低周波音が明確に聞き取れることとなるのです。

この点については、「一般的に、窓を開けている場合は、屋外からの騒音成分により低周波音が隠れて聞こえなく(感じなく)なることがある。一方、窓を閉めた場合には、騒音成分のみが遮音され低周波音が際立って聞こえる(感じる)ことがある。」との指摘もされています(環境省環境管理局大気生活環境室「低周波音問題対応の手引書」3頁)。

2 屋内で共鳴して屋外よりも音圧が大きくなること

低周波音は屋内において共鳴することが多く、これによって、低周波音の影響はより大きくなります。

すなわち、家屋の窓や壁を透過した低周波音が屋内で共鳴するような場合は、屋内で定在波が生じることとなるため、屋外よりも屋内の方がレベルが高くなることがあります(「風力発電施設からの低周波音の予測/評価について(第7回風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会資料)」)。

ここで、定在波とは、部屋の中で、壁と壁の間の距離と音の波長の半分が一致すると、音の干渉により室内で音の分布が一定となり、壁際の音圧が大きく部屋の中央の音圧が小さくなる現象が発生します。この状態の音波を定在波といいます。

3 距離減衰しにくいこと

低周波音も物理的には音波であり、その伝搬特性は中・高周波音と大きく変わるところはありません。

しかし、低周波音の場合、音圧が大きい場合も少なくなく、その場合は長距離にわたって伝搬し影響を及ぼすこともあります。

このような長距離伝搬の場合、高い周波数の音の方が減衰が大きいため、伝搬距離が大きくなるに従って、低周波側の成分が卓越してきます。

このような低周波音の伝搬特性の関係から、音の伝搬距離が大きくなった場合、可聴域(すなわち、中・高周波音)の周波数帯は減衰し、超低周波音の周波数領域が卓越し、人には直接的に感知されませんが、建具などのがたつきで間接的に低周波音の存在が感知され、苦情となることもあります(「騒音制御工学ハンドブック」397頁参照)。


2018年10月8日更新

世の中には多くの「音」が溢れていますが、それが、人にとって許容できない、もしくはうるさいと感じるレベルになれば「騒音」として認識され、被害・紛争を発生させるものとなり得ます。

近隣住居や工業施設から発生した「騒音」については、それが「受忍限度」を超える大きさの音の場合、損害賠償の対象となり、そのレベルが著しいものであれば差止の対象にもなります。

このような、騒音に対する差止訴訟や損害賠償請求訴訟というのは昔からよくある紛争類型の一つです。

「うるさい」音、すなわち「大きな音」が騒音として問題になることは、ある意味当然のものとして認識されていますが、近年はこれに加えて「低く重たい音」、すなわち「低周波音」の被害というものが問題提起されています。

これは、「大きい音」「うるさい音」ではないものの、低く重たい音が途切れることなく聞こえてきて「うっとおしい」、「気分が悪くなる」、「振動感を感じる」、「音が気になって眠れない」といった被害の訴えを生じさせるというものです。

このような低周波音は、身近な例で言えば、大型の冷蔵庫だったりエアコンの室外機から発せられる低い音(「ブゥーーン」というような重く低い音)などが挙げられます。また、最近はこれらに加えて、エコキュートやエネファームなどの給湯器から低周波音が発せられると被害を訴える方もいらっしゃいます。

低周波音の問題というのは、環境省によって、今から10年以上前に、苦情の原因となるのはどの程度の騒音レベルか、という点等に関して調査・研究も行われています。

しかし、規制する基準というものは未だ存在せず、一般の方々にとっても、騒音問題の中でも、この低周波音に対しては騒音としての自覚が無かったり、まだまだ低周波音というものに対する理解が浸透していないのが実情です。そのために、高レベルの低周波音を発生させていることに自覚がなく、近隣住居等との間に紛争を生じさせてしまい、さらに発生源となる機器を設置した施工業者やメーカーを巻き込んだ紛争にまで発展してしまうということも生じ得るのです。

低周波音については、日本においてはまだ環境基準や規制基準がない状況ですので、紛争となった場合に、当事者全員が納得できるような解決に進めることには多大な困難を伴うことも多いです。

したがって、まずは、各人が、低周波音というもの、そこから生じうる被害というものの存在を認識するということが重要であると考えています。

そこで、これから数回に分けて低周波音とその被害について解説をします。
まず今回は、「低周波音とはそもそも何か」ということを解説します。

まず、「音」とは、空気の微小な圧力変動であり、その変動が耳に伝わって鼓膜を振動させることにより、人は音として感じます。

また、1秒間に振動する回数を周波数といい(ヘルツ(Hz)という単位で表される)、回数が多ければ高い音、少なければ低い音として聞こえます。

一般に人が聴くことができる音の周波数範囲は20Hzから2万Hzとされています。これを「可聴域」といい、可聴域の範囲外である20Hz以下の音を「超低周波音」、2万Hz以上の音を「超音波」といいます。

人の耳の感度は、空気が振動する際の圧力変化(音圧)を指標とすると、2000Hzから5000Hzあたりが最も感度が良く、低音域になるほど感度が鈍く聞こえにくくなります。

特に100Hz以下では急速に感度が低下するので、環境省は100Hz以下の音について、超低周波音を含めて「低周波音」と定めています。

したがって、低周波音による被害が問題となる場合は、この100Hz以下の騒音レベルがどの程度発生しているか、ということが問題把握のための出発点となります。


2018年10月1日更新