老朽化して耐震性等に問題が生じている賃貸ビルの場合、ビルの所有者としては、耐震工事等を行って現状を維持するか、賃借人を全て退去させて建て替えるか、という選択を迫られることとなります。

仮に建て替えるという選択をする場合、入居している賃借人との間での合意解約等の交渉が必要となります(なお、建替期間中だけ一時的に移転をしてもらうという交渉もありますが、いずれにしても従前の賃貸借契約の解消等は必要になる場合が多いです。)。

賃借人との間で、退去に向けて合意解約の交渉が首尾よく進めば問題は無いですが、賃借人が解約に応じない場合は、一般的には期間内解約は不可能なため、契約期間満了時において解約申入れ及び更新拒絶をして、退去を求めるということとなります。

もっとも、この解約申入れ及び更新拒絶には「正当事由」が必要である、というのが借地借家法の規定です。

正当事由があるか否かは、「賃貸人及び賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及びその現況並びに賃貸人による立退料の支払の申出を考慮して判断すべきものである(借地借家法28条)。」とされています。

この判断について、どのような事情があれば正当事由が認められるか、ということは、ケースバイケースの判断になるため、具体的な裁判の事例を参考にして見通しを立てる必要があります。

そこで、今回は、一つの参考事例として東京地方裁判所平成18年10月12日判決の事例を紹介します。

この事例は、

・築45年以上の鉄筋コンクリート7階建ての賃貸ビル

・老朽化が進んでいたため、建て替えを理由として、賃借人に解約申入れ

・立退料として賃料の12年分(7610万円)の提供を申し出た

・賃借人は、複数のスペースを借りて、飲食店やスキューバーダイビングスクールの店舗として利用していた

という事例です。

裁判所は、結論として、「正当事由は認められない」と判断して、賃貸人側からの明渡しの請求は否定しました。

賃借人側が営業のために使用を継続する必要性が高いこと、賃貸人からの明渡通知の1年前に賃借人が改装工事を行っていたこと、耐震診断の結果の信ぴょう性に疑問があることなどを認定し、立退料の金額について検討するまでもなく、正当事由が否定されました。

賃貸人側にとっては酷な判断結果となっていますが、老朽化ビルについての一つの判断事例として参考となるものです。

この結論を導いた判断の内容は以下になります。

1 賃貸人及び賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情について

「賃借人は、スクーバダイビングに関する業務(スクール、ツアーや、これに関係する物品販売等)を行う会社であり、本件各建物を賃借した後、これらを旅行業務のカウンター、ダイビングサロン、レクチャールーム、事務所等に使用していたこと、平成15年1月ころ、賃貸人の承認を受けた上で、本件建物1の改装工事を行い、飲食店の営業を開始したこと、現在は、本件建物1を飲食店として、同2、3及び6をダイビングスクール、サロン及び倉庫として、同4及び5を事務所として使用していることが認められる。また、賃借人の店舗、ダイビングスクール等の移転先の確保が容易であることの立証はない。そうすると、賃借人が本件建物1~3及び6を使用する必要性の程度は高いということができる。」

「これに対し、賃貸人は、本件ビルを取り壊す予定であり、本件建物1~3及び6を使用する必要性がないことは明らかである(本件ビルの建て替えの必要性については、後記(4)で検討する。)。」

2 賃貸借に関する従前の経過について

「賃借人が本件建物1及び2を平成5年に、同3を平成7年に宮川不動産から、同6を平成12年に賃借人から、それぞれ賃借し、その後現在に至るまで営業のために使用していること、平成15年1月ころに本件建物1の改装工事を行い、飲食店の営業を開始したこと、賃貸人が、平成16年8月に賃借人に本件内容証明郵便を送付して、本件建物1~3の明渡しを求めたことは上述のとおりである。

「また、・・・上記改装工事は、工事期間を平成15年1月下旬から2月末までとし、本件建物1の従前の内装を全面的に解体撤去して、軽鉄、木工、左官、防水等の建築工事や、空調、電気、給排水等の設備工事を行うものであり、賃借人は、賃貸人に工事内容を説明し、その承認を受けた上で、施工をしたものであること、〈2〉 賃貸人は、本件内容証明郵便を送付するに当たり、事前に、賃借人を含めた本件ビルの賃借人に対して、本件ビルには老朽化、耐震性等の問題があり、解体撤去する方針であることを説明したり、賃借人の側の要望等を聞いたりすることはなく、唐突に本件内容証明郵便を送付して本件各建物を平成18年10月末までに明け渡すよう求めたこと、〈3〉 その後、賃貸人と賃借人の間で本件各建物の明渡しに関する交渉が進められ、賃貸人が移転先の候補となる物件を賃借人に紹介するなどしたが、賃借人の希望に合致するものはなく、結局、賃貸人と賃借人は本件各建物の明渡しにつき合意に達するに至らなかったことが認められる。」

賃借人においては、賃貸人が改装を承諾したことから、今後も当分の間(少なくとも改装費用を飲食店の営業利益により回収することのできるまでの間)は、本件建物1~3及び6を使用し続けることができると期待していたと考えられるところである

そうすると、本件内容証明郵便の送付から明渡期限まで2年余りの期間があることや、賃貸人が賃借人の移転先の紹介に努めたことを考慮しても、賃貸借に関する従前の経過から正当事由の存在を肯定すべき事情を見いだすことは困難と解される。」

3 建物の利用状況及びその現況について

「本件ビルのうち」、被告である賃借人「以外の部分は、すべての賃借人が賃貸人の明渡請求に応じたので、平成18年11月1日以降使用されることはないと認められる。そして、賃貸人は、このような利用状況や、老朽化して多額の補修費用を要するだけでなく、耐震性にも劣るという本件ビルの現況に照らすと、建て替えの必要があると主張するものである。

ア 賃貸人が主張の根拠とする本件調査結果によれば、「要約」の項には、緊急を要する修繕更新事項として、外装につき住戸部外壁の漏水調査及び修繕、スチールサッシュ更新等、内装につき内部建具の窓ガラスの交換、給排水配管更新に伴う内装工事等、電気設備につき1階外部幹線ボックス補修、7階階段照明器具の補修等、衛生設備につき増圧給水方式への変更、衛生配管の更新等が列挙され、緊急を要する修繕更新費及び今後12年間に必要と思われる修繕更新準備費用は概算で2億5740万円であると記載されている。

しかし、調査の方法は、設計図書の確認、現地での目視調査及び施設管理者(東急コミュニティーの従業員)へのインタビューにとどまり、現地調査の時間も2時間半程度である。また、具体的な調査の結果をみると、例えば、〈1〉 地上構造につき、外観からの目視では躯体の詳細状況は確認することができず、特に問題となるような劣化はみられないが、竣工後45年が経過しているので詳細な診断を実施することを推奨する、〈2〉 外壁につき、ほとんどの住戸に外壁からとみられる漏水がある旨を管理者とのインタビューで確認している、〈3〉 スチールサッシュにつき、変退色、発錆がみられ、一部分には母材の欠損もみられるので、早期に更新が必要である、〈4〉 屋上につき、現状では漏水していない旨を管理者とのインタビューで確認しているが、屋上のシート防水は一部分に劣化がみられるので更新が望まれ、3階屋上のシート防水は全般に膨れがみられ、防水層の破断もあるので早急な更新が必要である、〈5〉 1階玄関ホール、各階エレベーターホール、廊下等につき、天井、壁色モルタル吹き付け、床コンクリート打ち放ちとも特に目立った劣化はみられないが、経年劣化により定期的な修繕が必要となる、〈6〉 電気設備につき、1階外部の幹線配管類等は老朽化が顕著で腐食や破損している部分もみられるので、早急に防錆措置を施されたい、〈7〉 給排水衛生設備につき、高架水槽は老朽化が進行しており、受水槽は地下コンクリート製で現行法基準に合致しておらず、衛生上も好ましくないため、3~5年をめどに更新されたい、また、未更新の配管類は老朽化傾向が顕著であり、1~3年をめどに二次診断を実施し、更新されたい、〈8〉 エレベーターにつき、老朽化が顕著であり、予防保全措置として、1~5年をめどに更新されたいといった記載がある程度であって、屋上や外壁の内部に及ぶひび割れ、剥離等が存在すること、コンクリートや鉄骨、鉄筋に劣化がみられることなど本件ビルに差し迫った危険性が生じていることを示す記載はない。

かえって、・・・、雨漏りや水道水の濁り、天井や壁のひび割れ等は生じておらず、賃借人が本件各建物を飲食店、ダイビングスクール等に使用する上での実際上の支障はないと認めることができる。

したがって、本件調査結果は、老朽化に関する賃貸人の主張を客観的に裏付けるものではないというべきである。

イ また、耐震性についてみると、・・・、〈1〉 建物の耐震性を示す指標には、Is(構造耐震指標)、PML(予想最大損失率)等があること、〈2〉 Isは、建物の構造耐震性能を示す指標であり、Isが0.6以上であれば地震の震動及び衝撃により倒壊又は崩壊する危険性が低いが、0.3未満の場合にはその危険性が高いとされること、〈3〉 PMLは、金融、保険等の業界で耐震性能を評価する際によく用いられる災害損失の指標であり、対象施設に対して50年間に10%を超える確率で予想される最大規模の地震が起き、予想される最大の損失が発生した場合における、被災前の状態に復旧するために必要な補修工事費が当該施設の再調達価格に対して占める割合をいうものであって、地震による危険度は、PMLが0~10%で極めて低い(軽微な構造体の被害)、10~20%で低い(局部的な構造体の被害)、20~30%で中位(中破の可能性が高い)、30~60%で高い(大破の可能性が高い)、60%以上で非常に高い(倒壊の可能性が高い)とされること、〈4〉 昭和56年改正後の建築基準法の下での耐震性基準により設計された建物は、PMLが10~20程度であるのが一般的であるが、それ以前の建物は、20以上であることが多いこと、〈5〉 本件ビルは、昭和32年ころの設計であって、上記改正前の基準によるものであること、〈6〉 本件調査結果は、設計図書に基づき、本件ビルの耐震性能を簡易診断手法を用いて概略的に評価した上で、PMLを算定したものであること、〈7〉 本件調査結果による本件ビルのIsは、1階X方向(東西方向)が0.668(評価はA:耐震性に優れている。)、Y方向(南北方向)が0.355(評価はB:どちらともいえない。)、2階X方向が0.576(評価はB)、Y方向が0.301(評価はC:耐震性に疑問あり。)、3階X方向が0.542(評価はB)、Y方向が0.232(評価はC)であったこと(同86~93頁)、〈8〉 本件調査結果によれば、PMLの算定にはIsのうち最も劣る値(本件ビルの場合は3階Y方向の0.232)が用いられるとされており、これにより算定されたPMLは、90%信頼の値で、56.8%であり、本件ビルが中破以上の被害を受ける確率は80%であったことが認められる。

これによれば、本件ビルの耐震性は、昭和56年改正後の基準により設計された建物より劣るということはできる。しかし、金融、保険等の業界で耐震性能を評価する際に用いられるPMLを借地借家法の下での正当事由の有無の判断に供することが適切であるかどうかはともかく、本件調査結果における上記PMLの算定は、設計図書に基づくものであり、いわば机上の計算にとどまること、PMLの算定に当たり、耐震性に優れているとされる1階X方向のIs等を考慮せず、3階Y方向のIsのみを用いることの合理性について何ら立証されていないことに照らすと、本件調査結果により、本件ビルの耐震性に重大な欠陥があり、これを建て替える必要性があると認めることはできない

ウ したがって、老朽化や耐震性に問題があるので本件ビルを建て替える必要があるとの賃貸人の主張は、これを裏付けるに足りる客観的な証拠に欠けるものであって、直ちに採用することはできないというべきである。」

4 立退料の提供について

「立退料等の金員は、あくまでも、解約申入れ又は更新拒絶に際しての賃貸人の事情と賃借人の事情を比較衡量した結果、建物の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われるものである。すなわち、その比較衡量の結果、正当事由を認めるには必ずしも十分ではないものの、立退料が支払われれば不十分さが補完される場合には、これにより双方の利害得失が調整され、正当事由が具備され得るのに対し、そもそも正当事由を認めるべき事情がなく、又はわずかしか存在しない場合には、立退料による調整は働かず、その支払により正当事由が具備される余地はないと解される。

本件においては、本件建物1~3及び6を使用する必要性は、賃貸人よりも賃借人の側がはるかに高いこと、賃貸借に関する従前の経過に照らしても、正当事由の存在を肯定すべき事情は見いだし難いこと、本件ビルの老朽化や耐震性に関する賃貸人の主張も採用することはできないことは、上述のとおりである。

 そうすると、立退料の額の判断に立ち入るまでもなく、立退料の支払により正当事由が補完されるとの賃貸人の主張は失当というべきである。

5 結論

「以上によれば、賃貸人の解約申入れ及び更新拒絶に正当事由があると認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく、本件建物1~3及び6の明渡しを求める賃貸人の請求(本件建物1については主位的請求及び予備的請求)は、いずれも理由がない。」

(建物の概要)

一棟の建物の表示

所在 渋谷区〈住所略〉

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根7階建

床面積 1階 726.64平方メートル

2階 726.64平方メートル

3階 502.01平方メートル

4階 502.01平方メートル

5階 502.01平方メートル

6階 502.01平方メートル

7階 502.01平方メートル


この記事は2020年4月5日時点の情報に基づいて書かれています。

【ビルオーナーからの質問】

賃貸アパートを1棟購入しました。

アパートは全部で6室あり、満室の状態ですが、その内の1室については、私がアパートを購入した時点で、賃借人が家賃を半年分ほど滞納していました。

半年分の滞納賃料についても、アパートの購入時に併せて前所有者から債権譲渡を受けています。

今後もしっかり賃料を払ってくれるかわからないので、この賃借人との契約は解除したいと考えています。

契約の解除は可能でしょうか。

【説明】

不動産の賃貸借契約においては、売買などの単発の契約とは異なり、ある程度の長期間、賃貸人と賃借人が継続的に関係性を持つことが想定されています。

賃貸借契約においては、このような賃貸借特有の継続的関係という観点が重視され、「契約の解除」という側面においては、単に「契約に違反する事実があった」ということだけでは賃貸人からの解除は認められません。

解除が認められるかどうかは、「契約違反行為が、賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為」と言えるかどうかによりその成否が判断されることになります。

賃料の不払いにおいても同様で、一か月不払いがあった、というだけでは賃貸人からの解除は認められず、数か月間(判例実務では建物賃貸借の場合は3か月程度とされています)の賃料の滞納が続いて、初めて「信頼関係が破壊された」として契約の解除が認められる、とされています。

本件では半年以上の滞納が生じていた、ということであれば、信頼関係が破壊される程度の背信行為があった、とは言えます。

もっとも、本件で問題となるのは、

「賃料の滞納が、前所有者(前賃貸人)との間で生じた」

という点です。

賃料の長期間の滞納という信頼関係の破壊行為は、あくまでも「前賃貸人」と「賃借人」との間で生じたものです。

したがって、新所有者に賃貸借契約が移った後、新賃貸人に対して賃料の滞納がなければ、「現賃貸人」と「賃借人」との間では、まだ信頼関係を破壊するほどの賃料滞納は発生していない、ということとなります。

以上を踏まえると、新所有者(現賃貸人)は、前所有者(前賃貸人)の時に発生していた賃料の滞納を理由として、賃貸借契約を解除することはできない、ということが原則となります。

しかし、本件の事例のように、

前所有者の際に発生していた滞納賃料債権について、建物の所有権譲渡と併せて新所有者(新賃貸人)が譲り受けた場合

には、当該滞納賃料が新所有者に帰属します。そして、新所有者が当該滞納賃料の請求をして、その支払がなされない場合には、新所有者と賃借人との間の信頼関係は破壊されたということできますので、新所有者も契約の解除が可能となる、と考えることができます。

この問題を論じた裁判例が東京高等裁判所昭和33年11月29日判決の事例です。

この判決は、本件と同じく、新所有者が前所有者の間で発生していた滞納賃料についても譲り受けていたという事案において、

①「賃料不払に基く賃貸借契約の解除権は、賃貸人に専属するものではあり、延滞賃料債権が第三者に譲渡された場合には、その第三者が賃貸借契約の当事者でなければ、解除権を有しないのはもちろんである」

と述べた上で、

②「新所有者は上記認定のとおり延滞賃料債権を譲り受けたのは新所有者が本件家屋を買受けた結果、賃借人との本件賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継するとともになされたものであり、しかも、新所有者人は譲り受けた延滞賃料債権ばかりではなく、新所有者が賃貸人となつた後の延滞賃料債権(引続き合計十五ケ月分)をも合せて請求しているのであるから、契約解除の前提としての催告としてはもちろん、その延滞賃料を上記認定の相当期間内に支払わないことを条件としての契約解除の意思表示もまた有効といわなければならない。」

と判示しました。

この事案では、新所有者の元でも新たに賃料の滞納が生じていたことが伺われますが(ただし、その期間は不明)、いずれにしても、①の判示から、賃貸借契約の当事者が延滞賃料債権の譲渡受けた場合の解除を認める趣旨での判示であると解釈することはできます。


この記事は、2020年3月29日時点の情報に基づいて書かれています。

【ビルオーナーからの質問】

私は商業用ビルを所有しています。

ビルの一室について、新たに貸すことになりましたが、その際の使用目的としては、「不動産業の事務所」として賃貸することになりました。

しかし、賃借人への引渡し後、賃借物件の内装工事の様子を見たところ、不動産業の事務所ではなく、賃借人が「不動産業の事務所」ではなく、貸机業(いわゆるレンタルオフィス)の事務所として使用しようとしていることが判明しました。

こちらからは、「契約と違うので止めてくれ」と賃借人に要望しましたが、賃借人から「2年間だけで良いので、やらせてくれ」と懇願されましたので、「契約期間が経過したら相談の上廃止する」旨の念書を取り交わして、やむなくレンタルオフィスとして使わせることを認めました。

 

その後、契約更新が何度かあり6年が経ちましたが、更新の度に同様の念書は取り交わしていました。

この度、契約期間が満了したので、レンタルオフィスとしての使用は止めるよう賃借人に申し入れたところ、賃借人側はこれを無視してなおレンタルオフィスとして使用を続けたため、こちらからは用法違反として解除通知を出しました。

すると賃借人側からは

「レンタルオフィスは会員制を採用して貸主に迷惑がかからないように十分配慮している」

などと主張し、用法違反の程度は大きくない等と主張して解除を争っています。

こちらからの主張は認められるのでしょうか。

【説明】

住居以外のビル・店舗などの建物の賃貸借契約においては、その「使用目的」が定められることが通常です。

使用目的の定め方は「住居」、「事務所」等の抽象的な記載の場合もあれば、「飲食業」、「学習塾」等と具体的に特定して定める場合もあります。

賃貸人側としては、契約で使用目的を定めることにより、当該賃借物件(もしくはビル全体)の品位や質、環境の維持・保全を図るという意味があります。

そのため、万が一、賃借人が、契約で定められた目的と違う目的で当該賃借物件を使用していた場合には、契約違反となりますので、その使用方法を是正するよう求めることができます。

しかし、賃借人側が、是正要望に応じなかった場合に、「契約違反」として解除ができるか、ということが法律上問題となります。

この点、賃貸借契約については、「当事者間の信頼関係に基づく継続的契約である」ということから、契約違反があるからとして直ちに解除が認められるわけでなく「契約違反が信頼関係を破壊する程度」に至っている必要があります。

契約目的に違反した使用(いわゆる「用法遵守義務違反」)の場合も同様に、その用法違反が「信頼関係を破壊する程度に至っている場合」でなければ、賃貸人側からの解除は認められないということになります。

この信頼関係破壊の有無については、裁判で争われた場合には、

・使用目的からの逸脱の程度

・使用目的違反による賃貸人側の不利益の程度

を総合考慮して決せられることになり、この点は、ケースバイケースの判断となりますので、具体的な過去の裁判事例を参考にしながら限界点を見定めていく必要があります。

本件の事例は、この用法違反による解除が問題となった東京高等裁判所昭和61年2月28日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例では、賃借人が契約目的に違反した用法で使用していたことは争いがなかったものの、賃貸人と賃借人との間で

「現在の貸机業務は本賃貸借期間内とし、契約更新時には貴社と相談の上、廃止するものとする。」との記載のある念書が取り交わされていたことの意味を巡って争いとなり、第一審の判決では、賃借人側の勝訴(解除は認められない)という結論となりました(理由は不明ですが、信頼関係破壊が認められないという理由に基づくものと推測されます)。

しかし、控訴審においては、裁判所は

・レンタルオフィスとしての使用形態は、「家主としては、全く人的信頼関係がなく直接の接触の乏しい多数の者が自己所有のビルの一室に出入りすることになるので、法律関係の複雑化をもたらすのみならず、かかる貸机業を営む者がビルの一室を賃借していると、事実上当該ビル全体の品位を損い、他の貸室に優良な賃借人の入居を確保することが困難となる」

・賃貸人側が、レンタルオフィスとして使用することに対して異議を述べており、実際に期間満了後に廃止する旨の念書も取り交わしていたという経緯

を重視して、賃貸人側の主張(解除)を認めました

なお、念書の中には「賃貸人と相談の上廃止する」という文言があり、賃借人側としては、

「念書に「相談の上」という記載があるから、協議の一致がなければ貸机業を廃止する必要がない」

と争いましたが、この主張に対して裁判所は

「貸机業廃止の具体的方法等について協議する趣旨、ないしは、もしも契約更新時の協議において合意に達すれば、貸机業の継続、あるいは何らかの条件を付しての継続等もありうるとの余地を残す趣旨の文言である」

と判断して、賃借人側の主張を認めませんでした。

この事例は、レンタルオフィス業態としての使用方法が、家主側にとって嫌われるものであり、ビル全体への影響(不利益)が大きいという事情を重視したものと思われます(この裁判例が出された当時と比べて、現在ではレンタルオフィス業はかなり広く普及してきているという社会情勢の変化もありますので、現在もし同じ理由で訴訟となった場合には違う判断となる可能性もあります。)。

このように、「用法違反による賃貸人への不利益の程度」というものを慎重に検討して対応を見定める必要があります。

【参考:東京高等裁判所昭和61年2月28日判決】(賃借人:賃借人、賃貸人:賃貸人)

1 用法違反を理由とする本件賃貸借契約の解除の成否について検討する。

「賃借人は、氏家不動産株式会社の藤敏博の仲介により、公協ビルヂングの担当者内田敬男と交渉して昭和五一年九月二七日本件貸室を賃借したものであるが、その際の契約書には、使用目的として「不動産業務の事務所として使用する」と記載されており、公協ビルヂングとしては当然その旨了解していた。ところが、賃貸借契約締結後、賃借人が施工する本件貸室の内部造作工事の様子を見て、内田は不審に思い、賃借人に問い質したところ、賃借人は、本件貸室でいわゆる貸机業を営むつもりであることが判明した。

(二) 貸机業なるものは、ビルの一室等の占有権原を有する者(所有者、賃借人等)がその室内に相当数の机を置き電話を設置し、これを第三者(会員などと称する)に有料で使用させることを主な内容とするものであり、室内の特定の机につき特定の会員に専用の使用権限を認めると共に、貸机業者側で事務員を置いて、外部よりの会員に対する電話の応対(一般に会員の社名等を称して行う)及び会員宛の郵便物の受領等のサービスを提供するものである。このような貸室の利用者(会員)は、当然のことながら一般に、机一つあれば仕事ができる業態の小規模な個人業者、定まつた連絡場所、執務机さえあればよい外回りの業者等であり、取引先との間にトラブルを起こすことがままあり、また、賃借人が貸机業者の場合、家主としては、全く人的信頼関係がなく直接の接触の乏しい多数の者が自己所有のビルの一室に出入りすることになるので、法律関係の複雑化をもたらすのみならず、かかる貸机業を営む者がビルの一室を賃借していると、事実上当該ビル全体の品位を損い、他の貸室に優良な賃借人の入居を確保することが困難となるとして、これを嫌う家主が多い。

(三) 公協ビルヂングも、上記のような理由から賃借人が貸机業を営むことに難色を示したが、賃借人の懇請により期間を限つてこれを認めることとし、契約締結後の昭和五一年一〇月二二日賃借人から、その第一項に「現在の貸机業務は賃貸借期間の二年以内とし、契約更新時には貴社と相談の上廃止するものとする。」との記載のある念書(甲第二号証。但し、年数を訂正する以前のもの)を差入れさせた。その後、右念書の第一項記載の年数は、賃貸借契約の更新(昭和五三年一〇月五日、同五五年一〇月五日)に伴い、「四年」、「六年」と書き改められ、右第一項の期限は、昭和五七年一〇月四日ということになつた(以上のうち、賃借人が甲第二号証を差入れたこと、同号証記載の年数が「四年」、「六年」と書き改められたことは、当事者間に争いがない。)。

(四) 賃貸人は、前判示のとおり昭和五六年六月八日公協ビルヂングから本件貸室を含む本件建物を買い受け、同月二九日所有権移転登記を経由し、賃借人に対する賃貸人の地位を承継したが、翌三〇日あらためて賃借人との間で、従前の賃貸期限である昭和五七年一〇月四日を期限とする本件賃貸借契約を締結した。右契約に先立ち、賃貸人は、賃借人が本件貸室で貸机業を営んでいることを知り、公協ビルヂング同様、前記(二)のような理由から貸机業を本件建物にふさわしくないものと考え、その廃止を求めたところ、賃借人からその継続を懇請されたので、やむをえず右賃貸期限まではこれを認めることとし、契約直後の昭和五六年七月一日賃借人から前記甲第二号証の念書とほぼ同一文言の念書(甲第五号証)を差入れさせた。その第一項は、「現在の貸机業務は本賃貸借期間内とし、契約更新時には貴社と相談の上、廃止するものとする。」となつている。

(五) そして、賃貸人は、昭和五七年三月一一日賃借人に到達した内容証明郵便で、同年一〇月四日の賃貸期限までには約束どおり貸机業務を廃止するよう予め要請するとともに、右賃貸期限の経過後賃借人に対し、本件貸室を貸机業に使用することをやめるよう催告した。

(六) しかしながら、賃借人は、右催告にもかかわらず、本件貸室において貸机業を継続した(なお、賃借人は、現在も本件貸室を貸机業のために使用しており(この事実は当事者間に争いがない。)、本件貸室内に約二〇個の机を置き(会員数約二〇)、室内の一部を間仕切りした個室数個を設け、電話一三本を架設し、賃借人の雇用する女事務員一名及び賃借人代表者の計二名で会員に対する電話の応対等のサービスを行つている。)。

(七) そこで、賃貸人は、昭和五八年一月二八日付準備書面により、賃借人に対し用法違反を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、同書面は右同日賃借人に交付された(この事実は当事者間に争いがない。)。以上のとおり認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用することができず、そのほかに右認定を左右すべき証拠はない。

2 右に認定した事実によれば、本件賃貸借契約には、賃借人において本件貸室を貸机業に使用してはならない旨の定めが存したものであり、賃借人が約定の昭和五七年一〇月四日を経過した後も、本件貸室において貸机業を営んできたことは、本件賃貸借契約に定められた用法に違反するものである(ビルの一室の賃貸借契約において、貸机業を行つてはならないことを賃借人の用法義務として定めることは、前項(二)に認定判示したところに照らし、相応の合理性があるものと認められる。)から、本件賃貸借契約は、前項(七)の解除によつて昭和五八年一月二八日限り終了したものと認めるのが相当である。

なるほど、賃借人が賃貸人に差入れた念書(甲第五号証)の第一項には前認定のとおり「貴社と相談の上」という文言があり、同項全体の意味がやや明確さを欠くことは否めないところであるが、先に認定した賃貸人が右念書を差入れさせた経緯、更に遡つて賃借人が公協ビルヂングに対し甲第二号証の念書(その第一項にも右と同一の文言が存在する。)を差入れた事情を勘案すれば、同項の右文言から、賃貸人・賃借人両名の協議の一致がなければ賃借人において貸机業を廃止する必要がないものとの解釈(それでは賃貸人としてはこのような念書を徴する意味がほとんどないことになる。)を導き出すことは到底できないというべきである。賃借人は、右各念書は、賃借人において、貸机を利用する者の選定にあたつては、会員制を採用して貸主に迷惑がかからないように十分配慮し、万一利用者が貸主に損害を与えるような事態が発生した場合には、自己が損害賠償の責に任ずるとともに、貸主と協議の上貸机業を廃止することとする旨を約したものにすぎない、と主張し、賃借人代表者は、当審における尋問において同旨の供述をする。しかしながら、たしかに、右各念書には、右賃借人主張の利用者の選定、損害賠償責任の点について別途規定されているが、これらの規定と前記第一項との関係は右各念書上何らこれをうかがうことができず、文理上からいつても賃借人の右主張にはにわかに左袒することができない。結局、前記「貴社と相談の上」とあるのは、これを合理的に解釈すれば、貸机業廃止の具体的方法等について協議する趣旨、ないしは、もしも契約更新時の協議において合意に達すれば、貸机業の継続、あるいは何らかの条件を付しての継続等もありうるとの余地を残す趣旨の文言であるにすぎないものと解さざるを得ない。」


この記事は、2020年3月22日時点の情報に基づいて書かれています。

ビル・店舗などの商業用施設の賃貸借契約においては、正式に賃貸借契約が締結される前の段階で、賃借人からの申込後に、賃貸人と賃借人との間で契約締結に向けて時間をかけて交渉が行われて契約締結に向けて準備を重ねるという段階を経ることがあります。

この間、賃貸人側では、賃借予定フロアの募集を止めて契約成立に備える等し、他方で、賃借人側では移転に向けての既存の賃借物件の解約手続を進める等、契約が成立することを前提としてそれぞれ準備を進めるということもあります。

しかし、このような場合に、正式に契約締結に至る前に、どちらかの都合で一方的に賃貸借契約締結交渉が打ち切られてしまった場合には、打ち切られた側から、それまでの準備に要していた期間に発生した費用等について、たとえ「契約締結前」であったとしても、相手に対して損害賠償請求ができないか、という問題が生じます。

この点が問題となったのが、東京高等裁判所平成20年1月31日判決の事例です。

この裁判例の事案は、賃借人からの申込書が差し入れられ、賃貸することを前提として賃貸人側も対象フロアを募集対象から外し、申し込みから契約に向けての交渉期間も4~5か月に及んでいて、契約の調印日まで決まっていたところ、その直前になって、賃借人候補者のグループ企業の会長の意向が変わり、契約締結に至らなかったという事案です。

この事案では、賃貸人側から、賃借人予定者側に対して、対象物件を募集対象から外した段階から契約拒絶時までの賃料予定額が損害であるとして裁判を起こしました。

この事案で、裁判所は、契約締結に向けての交渉過程を踏まえて、賃借人予定者側が契約成立前に一方的に契約交渉を打ち切ったことは、

「契約準備段階における信義則上の注意義務違反があり、これによって賃貸人に生じた損害を賠償する責任がある」

と判断しました。

また、損害額についても、基本内容について合意をした時から契約を拒絶した期間までについては、

「本件確保部分を他に賃貸する機会を喪失したことにより同額の収入を得られなかったというべき」

として、その間の賃料相当額を損害として賠償を認めました。

この事例は、賃借人側の事情で一方的に契約締結を拒絶したことについて損害賠償が認められたという事例ですが、逆に賃貸人側の事情で契約締結を拒絶した場合にも損害賠償が認められる場合もあります。

以上の通り、「契約が成立していない限り責任は負わない」ということにはなりませんので、賃貸借契約締結に向けて交渉が続いている場合に、一方的に契約を拒絶するという対応をする場合には、交渉の過程や契約交渉を打ち切ることについての正当な理由の有無などが無いかどうかなど、賠償責任を負わないように注意することが必要です。

【参考:東京高等裁判所平成20年1月31日判決】(1審被告:賃借人、1審原告:賃貸人)

1 賃借人予定者への損害賠償の可否について

「フィデリティ証券次いで1審被告は、前記のとおり、平成15年3月以来、本件建物の一部を目的とする賃貸借契約の締結に向けて1審原告と交渉を重ね、同年11月19日には1審原被告間で本件合意がされたが、本件合意時までに賃借目的部分が本件建物の15階・16階とされたほか、本件合意によって、契約の始期を当初予定日よりも1か月先送りし、1審原告が費用を負担してセキュリティ扉を設置する、敷金保全のための銀行保証をすることが取り決められ、また、これより先に1審被告あてに送付された契約書及び覚書類の案文により、本件建物に係る賃貸借契約の賃料・共益費、契約期間、保証金額等についての1審原告の具体的提案が判明するまでになり、当事者双方とも、本件合意によって賃貸借契約締結に当たっての重要な課題がクリアされたと考えていたというのである。そして、賃貸借契約の交渉の際に貸室申込書が提出された事案のうち約1割程度しか契約成立に至らないこと、ところが、1審被告は、同年9月30日の本件申込書上の期限を経過しても1審原告との間で本件建物に係る賃貸借契約成立に向けての交渉を重ね、この期間が通常の2か月ないし4か月を超えて5か月余に及んでいること、1審原告が既に本件確保部分を賃借人募集対象からはずす社内手続をとっており、そのことを1審被告が本件合意時までに承知していたことは、前記のとおりである。

これらの事実関係に照らすと、少なくとも平成15年11月19日の本件合意後においては、1審原告が本件建物に係る賃貸借契約が成立することについて強い期待を抱いたことには相当の理由があるというべきである。そして、1審原告が本件確保部分を賃借人募集対象からはずしていたのは、1審被告のそれまでの行為と交渉経過にかんがみ、本件建物に係る賃貸借契約が成立すると期待し、1審被告への賃貸目的物の引渡しを円滑にするためであったということができるが、この期待は無理からぬものということができるから、1審被告としては、信義則上、1審原告のこの期待を故なく侵害することがないように行動する義務があるというべきである。しかし、1審被告は、結局、賃貸借契約を締結せず、これを締結しなかったことについて正当な理由をうかがい知る証拠はない。したがって、1審被告には契約準備段階における信義則上の注意義務違反があり、これによって1審原告に生じた損害を賠償する責任があるということができる(最高裁第三小法廷平成19年2月27日判決裁判集民事232号345頁参照)。」

 

2 損害額について

「本件確保部分(1434.04坪)の平成15年11月20日(本件合意の翌日)から平成16年1月29日(賃貸借契約締結拒絶の日)までの間の約定予定賃料及び共益費の相当額(坪単価月額3万1000円)は、計算上、1億0234万2654円であると認めることができるから(平成15年11月分〔11日間〕1630万0254円、同年12月分4445万5240円、平成16年1月分〔29日間〕4158万7160円)、1審原告は、この期間について本件確保部分を他に賃貸する機会を喪失したことにより同額の収入を得られなかったというべきである。」


この記事は、2020年3月22日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃借人からの質問】

当社は、6階建てのオフィスビルのワンフロアを一括で借り上げています

当社は守秘義務を伴う業務を営んでいますので、特にセキュリティの観点からフロアー一括で借りれることを重視して、このオフィスビルを賃借し、これまで使ってきました。

 

しかし、最近ビルオーナーが隣の土地を購入し、隣の土地に新たにビルを建てた上で、このビルと接続させる工事を予定しているとのアナウンスがありました。

その計画によると、当社が借りているフロアについても隣のビルと廊下でつながる上、隣に建てるビルには共用部分はなく、トイレやエレベーターなどの共用部分については、当社が借りているビルのものを共用で使用することになるとのことでした。

 

確かに、トイレやエレベーターなどの共用部分は賃貸借契約の対象とはなっていませんが、当社は、あくまでもワンフロア一括で、共用部分も含めて当社だけで使えることを前提として借りていたので、上記のようなオーナーの工事は納得できません。

賃借権などに基づいて、オーナーの工事を差し止めることはできないのでしょうか。

【説明】

一般的に、オフィスビルでは、賃貸されるスペースとは別に、トイレやエレベーター、廊下、湯沸かしコーナーなどの、いわゆる「共用部分」が存在することが一般的です。

そして、当該共用部分については、賃貸借契約で賃貸の対象部分とされていなかった場合であっても、契約でその使用が認められたり、契約で明記されていなかった場合も、賃貸借室の使用収益に付随して共用部分を使用することができると解釈されます。

しかし、例えば、本件の事例のように、共用部分について、オーナーの都合により一方的に改築等で内容が変えられてしまい、その使用態様が変えられてしまうような場合、賃借人側としては何も主張できないのでしょうか。

この点が問題となったのが東京地方裁判所平成21年12月15日判決の事例です。

本件事例をこの裁判例をモチーフにしたものですが、この事例では、賃貸人側と賃借人側で、共用部分の工事に伴い、賃料や共益費の減額等様々な条件交渉がなされたものの、交渉が決裂して、オーナー側が一方的に工事に踏み切ったため、賃借人側が賃借権・占有権に基づいて工事の差止請求を求めて訴訟を提訴したという事案です。

この事案で、賃借人側は、

・共用部分については、賃貸借契約で賃借の対象とはなっていないが、共用部分使用の対価として共益費を支払っているので、賃借権が及ぶ。特にフロアー一括借の場合は専有部分と共用部分は密接不可分の関係である。」

・賃借権が及ばないとしても、使用借権が及ぶ」

という主張をしました。

これに対して、裁判所は、

「本件賃貸借契約は、共用部分とされるトイレ,エレベーター,廊下及び湯沸かしコーナーなどは,賃貸借契約の対象とはなっていない。原告らは,賃貸借契約に付随して,賃貸借契約の対象となる賃貸借室の使用収益に必要な限度で,それらの共用部分も使用することができるが,共用部分について賃貸借関係が成立するものではない。

「原告らは,共用部分の使用収益の対価として共益費を支払っているというが,共益費は,共用部分,共用施設の維持,管理等に必要な費用を分担して負担するものであるから,使用収益の対価ではない。

「また,原告らは,共用部分について使用貸借関係が成立するというが,原告らは,飽くまで賃貸借室の使用収益に必要な限度で共用部分を事実上使用できるにすぎず,賃貸借室の使用とは無関係に排他的な支配を認められているものではない。したがって,共用部分について,使用貸借関係が成立するものではない。」

と述べて、共用部分には賃借人の排他的使用権はない、と判断して工事の差止は認めませんでした。

このように、共用部分については、たとえフロアー一括借り上げの場合であっても、契約書に賃借の対象とする約定がない限りは、基本的には「賃借人の排他的使用権はない」と考えるべきこととなります。

もっとも、この裁判例は、最後に付け加えるような形で

「被告が計画している増築工事が実施されると,トイレの改修工事に伴って各階について4週間程度使用ができなくなるものの,工事階が連層階とならないように調整し,他の階のトイレを使用することとなるが,被告は,共益費を減額する提案をしているのであるから,上記工事の実施が原告らの共用部分を事実上使用する利益を侵害する程度は低く,受忍限度を超えるものとはいえない。

と述べています。

この判旨からすると、共用部分の形状等の工事態様やその改築内容が、

「賃借人の使用する利益を侵害する程度が高く、受忍限度超える」

と評価される場合は、賃借人により工事の差止等が認められる余地がある、と言うことになります。


この記事は、2020年2月9日時点の情報に基づいて書かれています。

【地主からの質問】

当社が、都内で40年以上賃貸している10坪程度、地代月額9600円の土地があります。

借地人は、その土地上に3階建の木造住宅を建て、その1階でうどん屋を営み、2・3階に住んでいます。借地人は今は69歳です。

 

東日本大震災の影響もあって、当社の所有建物が老朽化して建て替えの必要性が高いため、スクラップビルドで建て替えを行わなければならない状況にあります。

そのためには、接道の関係もあり、今貸している借地から立ち退いてもらってそこに建て替えをする必要性があります。

借地人が立退きを拒否したので、裁判を起こしましたが、裁判所からは「一定の立退料を支払わなければ立ち退きは認められない」と言われています。

この場合の借地の立退料はどのように算定されるのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地裁平成25年1月25日判決の事例をモチーフにしたものです。

この事例では、地主から借地人に対して、借地契約の更新拒絶を理由として、建物収去土地明渡請求訴訟を起こしました。

裁判所は、地主の土地利用の必要性を認めましたが、立退料2000万円の支払いを条件として土地明渡を認めました。

この事例は、都内で10坪、地代月額9600円という借地でしたが、借地人が40年以上そこでうどん屋を営んでいる老夫婦で、立退きが認められてしまうと借地人のその後の生活が困難になるという事情がありました。

このようなケースで、裁判所はどのように立退料を算定するのでしょうか。

この裁判例では、裁判所は、以下の根拠で立退料を2000万円と判断しました。

まず、この裁判では、裁判所の選任した不動産鑑定士により借地権価格が1820万円と算定されています。

この結果を踏まえて、裁判所は、「自己使用の必要性等の状況いかんによっては,借地権価格の一部の補償をもって足りることもあり得る」と言いつつも、

本件においては,借地人側の事情を最大限考慮し,借地権価格の全額を補償するに足りる立退料の支払が必要であると解すべきである。

と述べて、まず借地権価格を立退料の前提としました。

上記に加えて、

本件建物の補償についても立退料に反映させるのが適当であると解される」と言いつつも、

「本件建物は昭和45年11月に建築された築42年の木造家屋であり,建物自体の客観的価値に大きな評価を与えることは困難である。また,本件建物に設置されている製麺機,そば釜,業務用クーラー等は,設置時の価格はともかく,現在は既に減価償却も終わっていると推認されるものであって,残存価値はあってもわずかなものと解される。」

と述べて、建物の価格はそれほど評価しないとの判断をしました。

以上を踏まえて、裁判所は、

「以上認定の本件土地の借地権,本件建物及びうどん店の設備類の補償の要素に加え,うどん店の営業補償,本件建物からの移転に要する諸費用(引越費用,新たな住居を借りるための礼金,仲介手数料等)等の要素を全て考慮の上,本件において正当事由を補完するために必要な立退料の額は2000万円と認めるのが相当である。」

と判断しました。

この裁判例から読み取れることは、

・不動産鑑定により算出された借地権価格を基準として、(主に)借地人側の契約継続の必要性が高ければ、借地権価格を全額立退料の基礎とする。

・借地上建物や設備の客観的価値があれば考慮する

・その他、周辺事情として引越費用の諸費用、(借地人が事業者の場合は)営業補償も加味する

という要素で借地の立退料が算定される、ということになります。

本件は、裁判における借地の立退料の一つの算定事例として参考になるものとみられます。


この記事は2020年1月22日時点の情報に基づいて書かれています。

【買主からの質問】

中古のマンションを2600万円で購入して引っ越しました。

しかし、引越し後に初めて参加した管理組合の総会で、私が購入した居室の前所有者の時の入居者が、表向きはマッサージ店と称して営業していながら店内で性的サービスを提供していたことが発覚して管理組合と訴訟沙汰にまでなっていた、という事実を聞かされとても驚きました。

 

売買契約の際には、売主や仲介業者からはそのような事実の説明は全く受けませんでした。

この話を聞いてから、私はマンションの中で肩身の狭い思いをするようになりましたし、妻はショックで心療内科に通うようになってしまいました。

 

売主や仲介業者がこの事実を説明しなかったことは許せません。

損害賠償することはできないのでしょうか。

【説明】

本事例は、福岡高等裁判所平成23年3月8日判決の事例をモチーフにしたものです。

この裁判例では、

・マンションが性風俗営業に使用されていたことは瑕疵に当たるか?

・瑕疵に当たる場合、損害額はいくらになるか?

という点が争点となりました。

まず、瑕疵に当たるか、という点について、裁判所は、瑕疵の定義を

「その目的物が建物である場合には、建物として通常有すべき設備を有しないなど物理的な欠陥があるときのほか、建物を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うべき事情があり、これがその建物の財産的価値(取引価格)を減少させるとき

は、瑕疵があるものと解すべきとした上で、マンションが前入居者によって性風俗特殊営業に使用されていたことについては、

「本件居室を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うというべき事情に当たる」

「そして、住居としてマンションの一室を購入する一般人のうちには、このような物件を好んで購入しようとはしない者が少なからず存在するものと考えられるから、本件居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、そのような事実がない場合に比して本件居室の売買代金を下落させる(財産的価値を減少させる)事情というべきである」

として、

マンションの居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、民法五七〇条にいう瑕疵に当たるというべきである。

と結論づけました。

次に、瑕疵の存在による損害額について、裁判所は、

「本件居室については、上記の瑕疵により、対価的不均衡(減価)が生じているものと考えられる。本件居室の代金が2600万円であること、一審原告夫婦が被った精神的苦痛に伴う住み心地の悪さを解消するために諸費用を費やしたこと」

「他方、本件居室については、一審被告Y1により内装工事が実施されて上記営業の痕跡は外見上ほとんど残っていないとみられることなどの諸事情を勘案」し

「民事訴訟法二四八条により、上記減価による損害を100万円と認めるのが相当である。」

と判断しました。

なお、不動産仲介業者は、売主から、性風俗営業のことで前入居者が管理組合と訴訟沙汰になったことは聞いていたにも拘らず、これを買主に説明しなかったことについて、説明義務違反があるとして、上記損害100万円について売主と連帯して責任を負うと判断されました。

マンションの居室が風俗営業で利用されていた、という事実は、いわゆる「客観的な瑕疵」ではなく「主観的な瑕疵」に分類されるものとなりますが、このような主観的瑕疵を認めた上で、さらに主観的瑕疵の損害額についても判断したという点で参考になる事例です。


この記事は、2019年12月2日時点の情報に基づいて書かれています。

【賃貸物件の大家からの質問】

私の所有する賃貸物件で、貸室内で賃借人が自殺するという事件が起きてしまいました。

かなりの悪臭が部屋全体に残ってしまっていましたので、次に貸し出すにあたって、クロス等の全面張替えやクリーニングをする必要がありました。また今後は、自殺を告知するので、賃料も安くして貸し出さざるを得ない状況です。

これらの損害について、賃借人の相続人に対して請求することは可能でしょうか。

【説明】

賃貸物件で、賃借人が自殺するという痛ましい事件が起きてしまった場合、上記のように、賃貸人には金銭的な面で損害が発生してしまいます。

人が自殺に至ってしまう事情は様々あり、また、残された遺族にとっても辛いこととなりますが、この自殺に伴って発生する賃貸人の損害については、賃借人の相続人に請求できるとするのが裁判例の傾向です。

その理由は、

「賃借人は、本件賃貸借契約に基づき、賃貸人に対し、原状回復義務を負っていたところ、これに付随する義務として、自然減耗以外の要因により目的物件(本管貸室)の価値が減損することのないように本件貸室を返還すべき義務を負っていたものと解される。そして、社会通念上、自殺があった建物についてはこれを嫌悪するのが通常であり、その客観的価値が低下することは当裁判所に顕著な事実である。そうすると、賃借人には本件賃貸借契約に基づく原状回復義務に付随する義務の債務不履行があったといわざるを得ない。」
「賃借人の遺族からすれば、賃借人を失ったことによる精神的打撃に加えて損害賠償を求められることになり、苛酷な状況におかれることになるが、法的にはやむを得ないと考えられる。」(東京地裁平成22年12月6日判決参照)

とされています。

この自殺に伴う賃貸人の損害としては、主に以下のものがあげられます。

①自殺に伴う物件の原状回復費用やクリーニング代

②賃料の低下に伴う損害

③現場の供養費用

そして、これらについて、どの程度まで損害として認められるか、という点が裁判では問題となります。

まず、①自殺に伴う物件の原状回復費用やクリーニング代については、

「自殺と関連して必要となった工事やクリーニングの費用」

が損害として認められ、自殺とは直接関連しない工事については、通常の原状回復の考え方が適用される、というのが裁判例の傾向です。こととなります。

例えば、賃借人が浴室で自殺したという事例(東京地裁平成22年12月6日判決の事例)では、ユニットバスの交換費用は自殺に関連して必要な原状回復費用として全額損害として認めましたが、その他の居室に関する原状回復費用については通常の考え方(経年劣化の考慮)を採用して損害とは認めませんでした。

他方で、賃借人の自殺により悪臭が居室全体に漂っていたという事例(東京地裁平成23年1月27日判決の事例)では、居室全体のクロスの張り替えとクリーニング費用を損害として認めています。

②将来の賃料の低下等に伴う損害について、都心のワンルームマンションの事例(東京地裁平成27年9月28日の事例)では、自殺事件による賃料の逸失利益として

・当初1年間は賃貸不能期間として賃料全額

・その後の2年間については賃料半額程度

と判断しており、これが実務上は一つの目安となると考えられます。

また、以下のように、自殺事件後の新賃貸借契約の内容や物件の状況を考慮して損害金額を認定した事例(東京地裁平成23年1月27日判決の事例)もあります。

すなわち、この事例は、学生向けの賃貸マンションで、自殺による賃貸借契約の解約から約3ヶ月後に、もともとの契約賃料8万円から約40%減額した4万6000円で新賃借人に賃貸をした、という事例ですが、この事例では、裁判所は以下のように判断しています。

(1)まず、賃貸借契約解約日から新契約が締結される日までの空室期間は、もともとの契約賃料額(月8万円)は全額損害となる。

(2)また、新契約分については、賃貸人が、マンションのその他の各貸室を、学生を対象に、賃料等合計月額8万1000円以上、賃貸期間2年の条件で賃貸していること等を総合すると、少なくとも、新契約の賃貸契約当初の2年分に加え、その翌日から学生が通常において賃貸物件を探すピークである翌年3月20日までの約5ヶ月の間の新契約の賃料等の額(月額4万6000円)と、元の契約の賃料等の額(月額8万円)との差額(月額3万4000円)については、逸失利益として認定するのが相当であり、その合計額は、98万6000円となる(3万4000円×29ヶ月)。

③現場の供養費用については、僧侶手配手数料、現場供養費用として5万円の損害を認めた裁判例があります(東京地裁平成23年1月27日判決)ので、社会的に相当と認められる程度の金額であれば、自殺と因果関係ある損害として認められると考えられます。


この記事は、2019年11月5日時点の情報に基づいて書かれています。

【土地の売主からの相談】

私が所有する自宅の土地建物を売ることになり、6800万円で売買契約をしました。

契約時に手付金340万円を受領し、残金決済・引渡までにこちらで隣地等との境界を確定し土地家屋調査士が作成した実測図等の境界確認書を買主に交付することとされました。そこで、売買契約後、こちらで道路を含む隣接土地の境界を確定する測量や立ち会い作業をしました

 

しかし、その測量が終わった直後頃に、突然買主から内容証明郵便で手付解除するとの通知がきました。

 

こちらとしては、隣地立会で境界確認まで行ったのに、手付解除されることは納得できません。

このような場合も、買主からの手付解除は認められるのでしょうか。

【説明】

不動産の売買契約では、契約時の手付金の支払いにより、買主は手付金を放棄し(手付流し)、または、売主は受け取った手付金の2倍を返却する(手付倍返し)ことで、契約を解除できるという条項が定められることが一般的です。

この手付解除については、通常は解除の期限が定められることも多いですので、その場合は、手付解除期限まで上記内容の解除が可能です。

もっとも、手付解除の期限が定められていなかったり契約書で「相手方が本件売買契約の履行に着手する前に限り手付解除できる」とだけ定めるケースも散見され、この場合は、いつまで手付解除が可能かを巡って争いになることがあります。

手付解除の期限が契約で定められなかった場合は、民法557条の規定により原則として

「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」

手付解除が可能となりますが、この「履行の着手」があったかどうかを巡って裁判では争いになるケースがあります。

 

この「履行の着手」があったどうかの判断基準は,最高裁の判例で

債務の内容たる給付の実行に着手すること,すなわち,客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部を成し又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すもの」(最高裁昭和40年11月24日大法廷判決)

とされており、裁判実務はこの基準に従って判断されています。

しかし、実際に、どこまで作業や手続きをすれば上記の基準に当てはまるのかは、具体的なケースに即して考えていく必要があります。

 

本件の事例は、東京地方裁判所平成21年9月25日判決のケースをモチーフにした事例です。

この事例で裁判所は、

・買主が手付解除をする前に,売主が道路を含む隣接土地の境界を確定する作業をしたものであり,客観的に認識し得るような形で本件売買契約に定められた債務の履行行為の一部をしたものということができる

と述べて、買主からの手付解除を認めませんでした。

なお、この事例では、契約で確定測量の費用は買主負担とされていたので、買主側は「境界確定の作業は「売主による履行の着手ではない」」と争いましたが、この点についても裁判所は、

・境界確定に要する費用を買主が負担したからといって,売主らが上記作業をしたことが否定されるわけではない

として、売主による履行行為の着手を認めました。

ちなみに、この事例は、売主が転居先の建物のリフォーム工事を進めていたという事情や、買主による手付解除がなされたのが、残金決済・引渡期日の9日前であったという事情もあったため、これらの事情も裁判所が結論を考える上で影響を及ぼした可能性があると言えます。

このように、具体的にどのような行為が「履行の着手」に当たるかという点は、本件のような個々の裁判事例を確認して判断していく必要があります。


この記事は、2019年10月8日時点の情報に基づくものです。

不動産の売買における瑕疵担保責任の期間制限について、民法は、570条、566条3項

「買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならない」

と規定をしています。

ただし、この瑕疵担保責任の免除の有無や期間制限については、原則として、契約当事者間において自由に取り決めすることができます。

 

これに対する例外として、売主が宅建業者である場合、宅建業法上の瑕疵担保責任に関するルールにより、 売主が宅建業者、かつ、買主が宅建業者ではない場合、瑕疵担保責任を目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に定める責任と比べて買主に不利な特約を締結することができず(宅建業法40条1項)、これに違反する特約は無効(同条2項)とされています。

 

また、売主が宅建業者ではなくても、法人等の事業者である場合消費者契約法の適用があり、消費者契約法は、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する特約を無効としていますので、売主が事業者の場合、瑕疵担保責任の全部を免除することはできません(消費者契約法8条1項5号)。

 

では、売主が宅建業者ではない「事業者」の場合、瑕疵担保責任の期間を1年よりさらに短縮する旨の合意をすることは消費者契約法の関係で許容されるのでしょうか。

この点が問題になったのが、東京地方裁判所平成22年6月29日判決の事例です。

 

この事例は、売主が「貴金属,宝石類の卸売業等を目的とする株式会社」で、その所有する土地を個人の買主に宅地用途で売却したという事例で、

瑕疵担保責任については3ヶ月間

に制限する特約がありました。

土地の売買後、土地から環境基準(150mg/kg)を超える鉛250mg/kgが検出され、また、過去に当該土地上で皮革が燃やされたり埋設されたことがあり、土地に埋まっていた皮革の燃え殻から,15.3ppmの六価クロムが検出されたということも判明しました。

そのため、買主は瑕疵担保責任により契約の解除を申し出ましたが、すでに引渡しから3ヶ月が経過していたため、買主側は、瑕疵担保責任の期間を3ヶ月に制限する特約が消費者契約法に違反し無効だと裁判で主張した争ったのです。

 

このような事案について、裁判所は、結論として

「本件特約は,民法1条2項に規定する基本原則である信義誠実の原則に反して消費者である買主の利益を一方的に害するものであるというべきである。

したがって,本件特約は,消費者契約法10条の規定により無効である。」

と述べて、瑕疵担保責任を3ヶ月に制限する特約は無効であると判断しました。

 

裁判所が、このような期間制限の特約を無効と判断した理由としては、単に事業者だからという理由だけではなく、下記のように述べて、従前の土地の利用態様や取引時の売主の説明が事実と相違していたという事情を重視しています(被告とは、本件の売主です)。

「被告代表者の兄であるBが,本件土地に皮革等の燃え殻を埋設し,その後,被告代表者が,本件土地を買い受け,被告に対し,本件土地を売却した」

「被告は,平成20年1月31日の本件売買契約の締結時,原告X1の妻から,本件土地の従前の利用方法や埋設物の有無等の確認を求められたのに対し,居住のみに使用しており,問題はない旨回答し,埋設物の可能性を記載することなく,原告X1に対し,物件状況等報告書を交付したものの,その後,同年7月,環境基準を超える鉛が検出されるとともに,同年8月25日,皮革等の燃え殻が多数埋設されていることが判明したため,原告X1が,同年10月16日,被告に対し,本件売買契約を解除するとの意思表示をしたことが認められるのであって,原告X1は,適宜,本件土地の調査等を尽くしたというべきである。」

 

したがって、法人等の事業者が不動産の売主となる場合の瑕疵担保責任については、期間制限を1年以下に設定する場合、従前の土地利用や取引の経緯に注意をする必要があると言えます。

 

なお、売主側は、裁判では、反論として

「自社は貴金属,宝石類の卸売業等を目的とする株式会社であって,不動産の売買を業とするものではないから,消費者契約法の事業者にはあたらない」と主張しました。

これに対して、裁判所は

「消費者契約法2条2項は,事業者とは,法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうと規定するから,法人は,その業務との関連にかかわらず,事業者に該当するものというべきである。」

と述べて売主の主張を一蹴していますので、不動産の売買の場合では、売主が不動産業者かどうかは消費者契約法の観点では関係がないということになります。


この記事は、2019年8月31日時点の情報に基づくものです。