不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

土地の売買において、売主による確定測量実施後に、買主から手付解除することができるか?

【土地の売主からの相談】

私が所有する自宅の土地建物を売ることになり、6800万円で売買契約をしました。

契約時に手付金340万円を受領し、残金決済・引渡までにこちらで隣地等との境界を確定し土地家屋調査士が作成した実測図等の境界確認書を買主に交付することとされました。そこで、売買契約後、こちらで道路を含む隣接土地の境界を確定する測量や立ち会い作業をしました

 

しかし、その測量が終わった直後頃に、突然買主から内容証明郵便で手付解除するとの通知がきました。

 

こちらとしては、隣地立会で境界確認まで行ったのに、手付解除されることは納得できません。

このような場合も、買主からの手付解除は認められるのでしょうか。

【説明】

不動産の売買契約では、契約時の手付金の支払いにより、買主は手付金を放棄し(手付流し)、または、売主は受け取った手付金の2倍を返却する(手付倍返し)ことで、契約を解除できるという条項が定められることが一般的です。

この手付解除については、通常は解除の期限が定められることも多いですので、その場合は、手付解除期限まで上記内容の解除が可能です。

もっとも、手付解除の期限が定められていなかったり契約書で「相手方が本件売買契約の履行に着手する前に限り手付解除できる」とだけ定めるケースも散見され、この場合は、いつまで手付解除が可能かを巡って争いになることがあります。

手付解除の期限が契約で定められなかった場合は、民法557条の規定により原則として

「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」

手付解除が可能となりますが、この「履行の着手」があったかどうかを巡って裁判では争いになるケースがあります。

 

この「履行の着手」があったどうかの判断基準は,最高裁の判例で

債務の内容たる給付の実行に着手すること,すなわち,客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部を成し又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すもの」(最高裁昭和40年11月24日大法廷判決)

とされており、裁判実務はこの基準に従って判断されています。

しかし、実際に、どこまで作業や手続きをすれば上記の基準に当てはまるのかは、具体的なケースに即して考えていく必要があります。

 

本件の事例は、東京地方裁判所平成21年9月25日判決のケースをモチーフにした事例です。

この事例で裁判所は、

・買主が手付解除をする前に,売主が道路を含む隣接土地の境界を確定する作業をしたものであり,客観的に認識し得るような形で本件売買契約に定められた債務の履行行為の一部をしたものということができる

と述べて、買主からの手付解除を認めませんでした。

なお、この事例では、契約で確定測量の費用は買主負担とされていたので、買主側は「境界確定の作業は「売主による履行の着手ではない」」と争いましたが、この点についても裁判所は、

・境界確定に要する費用を買主が負担したからといって,売主らが上記作業をしたことが否定されるわけではない

として、売主による履行行為の着手を認めました。

ちなみに、この事例は、売主が転居先の建物のリフォーム工事を進めていたという事情や、買主による手付解除がなされたのが、残金決済・引渡期日の9日前であったという事情もあったため、これらの事情も裁判所が結論を考える上で影響を及ぼした可能性があると言えます。

このように、具体的にどのような行為が「履行の着手」に当たるかという点は、本件のような個々の裁判事例を確認して判断していく必要があります。


この記事は、2019年10月8日時点の情報に基づくものです。