不動産事例紹介

借地借家・建築・境界等の不動産問題について、弁護士が問題解決のための道標となる裁判例(CASE STUDIES)等を詳しく解説しています。

賃貸物件について自殺が発生した場合、自殺があった貸室以外の新規入居者に自殺事故を告知する義務はあるか

【質問】

私は賃貸併用住宅を1棟所有しています。

3部屋を賃貸していますが、貸室内で賃借人の妻が自殺するという事件が発生してしまいました。

当該賃借人とは合意解除しましたが、加えて、事件が起きた部屋の隣の部屋の賃借人も退去してしまいました。

今後、事件が起きた隣の部屋についても入居者を募集しなければならないのですが、隣室の新規入居者にも自殺事件のことは契約前に告知しなければならないでしょうか。

【説明】

本件は、東京地裁平成26年8月5日判決の事例をモチーフにしたものです。

まず、賃貸物件の貸室内で自殺等の事件が発生してしまった場合、その貸室について新たに入居者を募集する場合には、賃貸人及び仲介業者は、当然ながらこの事件のことは告知しなければなりません。

通常人が居室内での自殺事故の告知を受けた場合,嫌悪感ないし嫌忌感を抱いて本件居室の賃借を辞退することは十分に考えられるからです。

では、自殺事件が発生した貸室の隣室、もしくは上下の部屋についても、入居者の募集の際に告知する必要があるのでしょうか。

この点について、裁判例は、問題となった賃貸物件が貸室3部屋程度と規模の小さい物件であることを踏まえつつも、結論としては、他の部屋については告知義務を否定しました。

その判示は以下のとおりです。

「本件建物の規模や構造に鑑みれば,本件居室の隣室の居住者が,本件事故について何らかの感情を抱くことは否定できない。」

「しかしながら,本件居室の賃借人である被告Y1は,本件居室の使用収益に当たって善管注意義務を負うにすぎず,当然に他の居室の賃料額の減額について責任を負うことにならない。」

「また,原告が本件居室以外の居室を新たに賃貸する場合,宅地建物取引業者において,賃借希望者に対して本件事故のあったことを告知する義務があるとはいえないから,新たな賃借希望者が本件居室以外の居室について賃貸借契約を辞退するなど,賃貸借契約が困難を生じることにはならない。」

と述べています。

本件以外にも、仙台地方裁判所平成27年9月24日判決の事例も同様の判断をしていますので、これが現在の裁判所の基本的な考え方と見られます。

なお、自殺事件が発生した貸室について、事件の存在をいつまで告知すべきか、という点も問題になりますが、この点裁判例は、

「本件居室内での自殺という事情について通常人が抱く嫌悪感ないし嫌忌感に起因するものであるところ,このような心理的な事情は,一定の時の経過によって希釈されるものであるし,いったん本件居室に新たな賃借人が居住すれば,その後の賃貸借には影響を生じないものということができる。また,本件建物が交通の利便性の高い立地にあること,本件居室がワンルーム(間取り1K)であって単身者向けと思われること等を考慮すれば,本件居室は,賃貸物件としての流動性が比較的高いものと認められ,上記嫌悪感ないし嫌忌感の希釈は比較的速く進行するものといって差し支えない。」

と述べた上で、

「本件事故の告知の結果,通常,1年間は賃貸不能であり,その後の賃貸借契約について,一般的な契約期間である2年間は相当賃料額の2分の1の額を賃料として設定するものと考えるのが相当である。」

と結論づけていますので、一度別の賃借人が入居した後は告知義務を負わず、もしくは、ワンルームで、利便性の良い位置にある物件であれば告知義務を負う期間は3年程度というのが一つの目安と見られます。


2018年12月6日更新